緊急依頼
ハルとセーラが本格的に冒険者として活動を始めて数日経った時のことだ。その日もハルとセーラは朝から依頼を探すため冒険者ギルドを訪れていた。
「んー、もうちょっと刺激がある依頼はないかなぁ」
「刺激ですか?まあ確かにすぐに終わってしまう依頼ばかりですからね」
ハルとセーラは複数の依頼を受け、全てをその日の内に終わらせるというハイペースで依頼をこなしていた。ギルドカードを見るとかなりポイントが貯まってきている。
『ハル・アルダートン』 冒険者ランクE+ 71ポイント
冒険者ランクのEの後ろの+は認可状持ちを示している。Dランク昇格に必要なポイントは100だ。
「あと2,3日で100ポイントに到達しそうだね」
「ええ、Dランクに必要なポイントはそれほど多くない上に、一つ上のランクの依頼を毎日複数受けていますから流石に早いですね」
Eランクの依頼はギルドポイントが1~3ポイント程度なのに対し、Dランクの依頼は3~10ポイントくらいは付く。認可状持ちはそれだけランクアップがしやすいのだ。
とその時、2階から慌ただしそうに鉱夫の恰好をしたガタイのいい男と共にギルド職員が下りてきた。ギルド職員は冒険者たちに向かって大声で呼びかけてきた。
「聞いてくれ、緊急の依頼だ!内容はカシスの街の南方1日のところにあるドリット鉱山に沸いた魔獣たちの駆除。カシス領軍との共同任務だ。10日程前の地震の時に廃坑になっていた坑道の一部が崩れて魔獣の住処に繋がっちまったらしい。数日前、魔獣たちが廃坑からあふれ出してきたそうだ。鉱夫と現地の警備兵だけでは手におえなくなった。報酬は討伐部隊への参加で、一人当たりギルドポイント30と、10万J。さらに戦果次第では追加報酬も出る。また、今回の依頼で討伐した魔獣の討伐確認部位や素材は普段の1割増しの額で買い取る。尚、かなりの数の魔獣が沸いているようで危険な状態だ。よって、Cランク以上の冒険者は強制召集、自由参加の冒険者はDランク以上の者に限らせてもらう。ただし、数日に渡る戦闘が想定されるので物資の護送、及び拠点の設営・防衛などといった後方支援の依頼を別口で出す。そちらの報酬は参加で、一人当たりギルドポイント10と、2万Jだ。こちらはEランクの者も参加してもらって構わない。ただしこちらは先着20名までだ。討伐部隊参加者も後方支援部隊参加希望者も受付で依頼の受注をして、第2点鐘までに街の南の門の前に集合してくれ!部隊の指揮は元Aランク冒険者のアレクセイさんが執る」
ギルド職員の大声に冒険者たちが反応した。
「魔獣の種類は?」
バスターソードを背負った男が大声で尋ねる。
「現時点でもゴブリンのような雑魚からアリ型の魔獣、ロックアントや、モグラ型の魔獣ネイルモウル、蝙蝠型魔獣ビッグバットなど複数の種類が目撃されている。着いてみるまで正確なことはわからない。ただ、とにかく数が多いようだ。さらにドリット鉱山は昔から操業している大きな鉱山だからかなり広い上に、迷路のように入り組んでいる。相応の難易度はあると思ってくれ。」
大柄な男が続けて質問する。
「移動方法はどうするんだ?」
「今、ギルドと領主様が馬車や物資をかき集めてる。第2点鐘までには間に合わせる。よって、移動は馬車だ。依頼中の食料等はこちらで用意しておく。無論自分たちで用意してくれても構わない」
「私たちのパーティーには一人だけ最近入ったEランクの子がいるんだけどその子は私たちと一緒に討伐には参加できないのかしら?」
今度は細剣を腰にさげた20代後半くらいの色っぽい女性の冒険者が問いかける。
「おまえのパーティーはCランクの『草原の花』だったな?周りのパーティーメンバーがきちんと面倒を見られるのなら構わない。他に質問は?」
ここでハルが質問した。
「オレたちはまだEランクだけど、認可状を持ってて既にいくつもDランクの依頼を達成してる。討伐部隊の方に参加できる?」
その言葉を聞いて周囲がざわめいた。認可状持ちはかなりレアな存在なのだ。
「ふむ、なるほど。おまえたちがハルとセーラか。認可状を持っている者は1ランク上相当として扱われる。つまりお前たちのランクはDランク相当だな。よって、討伐部隊への参加資格がある。おまえたちの実力はアレクセイさんも評価していたしな」
ギルド職員の最後の言葉を聞きざわめきが大きくなる。Sランクは大陸で3名しかいないような存在なのでほとんどの冒険者がAランクを実質上の最高ランクと考えている。引退したとはいえ元Aランク冒険者のアレクセイの名は冒険者の中でかなりの影響力があるのだ。
ハルの質問を最後にそれぞれが動き始めた。冒険者たちは早速緊急依頼を受けたり、パーティーメンバーと話し合いを始めたりとギルドは一気に騒がしくなった。
ハルもセーラに声を掛ける。
「さて、オレたちはどっちの部隊にも参加できるみたいだけどどうする?」
「そうですね。せっかくだし討伐部隊の方に参加してみましょう。緊急依頼なだけあって報酬もいいみたいですし」
ハルとセーラは討伐部隊の方に参加することに決めた。受付で討伐部隊に登録し、ギルドを出る。出発まではまだ時間があるので準備を整えることにする。ハルとセーラはアイテムポーチに食料や、日用品などを買い込んで入れていった。アイテムポーチはアイテムボックスの魔法が掛けたれたポーチである。容量が5メートル四方程度のものなら大昔の遺跡やダンジョンの深い層で稀に見つかる代物で超高級品とはいえ外界でも入手できるのでハルはセーラとパベルに1つずつ渡していたのだ。尤もハルにとっては最低品質のものでしかなかったが2人にとってはとんでもなく貴重なものなので慌てて断ったが、最終的にハルに押し切られた形だ。最近ではその便利さに慣れてしまいつつありこのままでは拙いのではと思いながらも既に手放せない状態になっていた。
準備を終えて南の門へ向かうと既にある程度の人数が集まっていた。その中の1人がハルたちを見かけると手を振ってきた。
「やあ、ハル、セーラさん」
オレンジ色の髪をした真面目そうな少年が話しかけてきた。冒険者講習の同期生の一人だ。
「ロビン。数日ぶりだね」
「こんにちは。ロビンさんも参加ですか?」
「まあ、後方支援の方だけどね。僕以外にもこの街に残っていた同期の何人かは参加するみたいだよ」
確かに集まっている冒険者たちの中にちらほらと見知った顔があった。ハルたちに気が付いて同期のメンバーが集まってくる。互いに近況の報告をしたりしながら時間が来るのを待った。
第2点鐘が鳴り終わった時点で50人程の冒険者が集まっていた。それとほぼ同数のカシス領兵も出発を待っている。指揮系統を混乱させないため冒険者側はアレクセイ教官が、カシス領兵側はそこの指揮官がそれぞれ指示を出す形になるらしい。ハルとセーラはアレクセイ教官の指示で自分たちに割り振られた馬車に乗った。馬車の中には先客がいた。
「あら、あなたたちはさっきの」
「あなたは確かギルドにいた・・・」
「『草原の花』の方でしたね」
ハルとセーラが乗り込んだ馬車には4人の女性冒険者がいた。
「わ、セーラとハルだ」
「あれ、ドリス?」
「あ、もしかして『草原の花』に入ったんですか?」
声を掛けてきたのは冒険者講習で同期だった弓使いのドリスだった。
「あら、ドリス、知り合いだったの?」
今朝ギルドであった女性冒険者がドリスに声を掛ける。
「あ、はいロクサーヌさん。2人は冒険者講習の同期です」
「あら、そうだったのね。初めまして。私はCランクパーティー『草原の花』のリーダーを務める剣士のロクサーヌよ。それとこっちのローブを着ているのが魔法使いのエイダ、小柄なのが斥候のラナよ」
「・・・よろしく」
「よろしくねー」
「ハルです。よろしくお願いします」
「セーラと申します。よろしくお願いします」
お互いに挨拶をしたところで馬車が動き出した。目的地のドリット鉱山へは今日の昼食時と夜営の際に休憩をはさみ明日の昼頃の予定である。それまでは時間があるのだが武器の手入れぐらいしかすることがない。すぐに女性陣でガールズトークが始まった。時折声が潜められたり、急に「キャー」と声があがったりする。まあここにいる女性はタイプが違うがみんな美人で、特にロクサーヌさんは経験豊富そうなのでこの手の話題は事欠かないのだろう。冒険者は仕事柄女性が少ない。セーラは久々に気楽な同性の話し相手を得て楽しそうにしている。逆にハルは若干居心地が悪そうに窓際の席に座り、ぼんやりと外の景色を見て過ごしていた。
「そういえば、ハル君とセーラちゃんは認可状持ちみたいだけどドリスが以前言っていた実力がずば抜けている同期ってこの2人のことだったのかしら?」
昼になり食事休憩を取っている時にロクサーヌがドリスに話しかけた。
「はい、そうです!2人とも凄いんですよ!!アレクセイ教官の訓練メニューを軽々とこなしてましたし、対人練習の総当たり戦の時の2人の試合はレベルが高すぎて何がなんだかわかりませんでした。ハルが全勝でセーラもハルからの1敗以外は圧勝だったよね?」
「うん。でもドリスもあの手の闘い方では不利な弓で結構勝ってたよね?」
「そうですね。ドリスさんは動きまわりながらでもかなり正確な射撃をしてました」
同期の講習生の遠距離専門の者の中ではおそらくドリスが1番の腕前だっただろう。すぐに今のカシスの街の中では最上位のCランクパーティーに勧誘されたのも頷ける。
「ふふ、ドリスは新人冒険者としてはかなりの力量を持っているものね。うちの期待の新人よ。でも、そのドリスよりずっと上の実力者ね・・・。同期のドリスもいることだし2人とも『草原の花』に入らない?」
ロクサーヌが勧誘を始めた。既にセーラは『草原の花』メンバーに打ち解けてきている。ふと、ハルさえ籠絡すれば優秀な新人をさらに2人確保できるのではないかと思ったのだ。色気を垂れ流しながらハルに流し目を送る。
「い、いや、『草原の花』は女性パーティですよね?セーラはともかくオレは男なんですが・・・」
ハルは思わず目を逸らしながら答えた。
「あら、たまたま今のパーティの構成員が全員女性ってだけで男性が入れないわけじゃないわよ?まあ、私たち目当てで寄ってくるような連中はお断りしてるけれどね」
数少ない女性冒険者だけで構成されているパーティーだ。しかも美人揃いである。下心むき出しでパーティーに加入したいと言ってくる冒険者も多かった。
「だったらなおさらでしょう。前例を作っちゃったら絶対しつこくなりますよ?」
「それもそうね・・・。だったら人前に出るときはハル君が女装するっていうのはどうかしら?とても似合いそうよ?」
「・・・わかる」
「私もそれわかりますー。すごい美人さんになりそうですよねー」
エイダとラナが即座に同意する。
「ハ、ハルさんの女装ですか?――確かにちょっと見てみたいような・・・」
「私も・・・」
ハルの顔をまじまじと見た後目を逸らしながらセーラとドリスが呟いた。
「ちょ、オレは絶対に女装なんてしないぞ!!?――野郎共にあんな目で見られるのはもうごめんだ・・・」
ハルが慌てて拒否する。言葉の後半は誰にも聞き取れないほど小さく呟かれたものだったが、顔を青ざめさせて震え上がったハルを見て女性陣は過去に何があったかを察した。
朝、空が仄かに明るくなってきた頃、ハルは焚き火の近くの寝袋で目を覚ました。すぐ隣には、セーラと『草原の花』メンバーが寝ているテントがある。
昨夜、ロクサーヌは「あら、一緒に寝ても構わないのよ」とまた流し目をしながら言ってきたのだがそんな状況で理性を保てる自信がなかったのと、それを聞いた冒険者たちの殺意の籠った目を前にハルは即座に戦略的撤退を決行したのだった。




