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05 底辺争い

「見たくない。確認なんてしたくない。けど、近づいてきてる。確実に。」


 俺が感知したのは数えきれないほどの気配の群れ。大きさから多分ネズミの群れだと思う。

 覚悟を決めて下を覗くと案の定ネズミの群れを視界にとらえた。


「思った数倍近いな。あと数分もあったら危なかった。」


 眼下に広がるのはネズミのタワー。恐らく俺を殺すために、天井に近づくために、ただ、そのためただけに何百匹とが折り重なって形成されたタワー。

 さすがにこの数を相手にするのは危険。ここから逃げるのが賢明な判断。そう思い通路が続く方に目を向ける。


「どうして、お前が………。」


 視線の先にいたのは緑の石を額に持つネズミ。それも、あと4体の同じネズミを後ろに携えた。

 それを理解した俺の頭から逃亡の二文字が崩れていった。5匹のネズミ全員に魔法を使われたらいくら空中を進むっていったって無茶だ。そんなことしたら、すぐにでも撃ち落されて無様に一呑みにされる自信がある。

 そんなことを考えてる間にも着々とネズミのタワーは高さを増していく。考えてる暇はない。


「応戦だ」


 ここは行き止まりの通路。俺は深く息を吸い込んでから勢いよく隙間から飛び出した。

 強い風が体を掠めて、体勢を崩しながらもタワーの裏側に回ることに成功した。構図としては魔法ネズミ、タワー、俺、である。この位置関係を崩さない限り俺に魔法が直撃することはない。

 手始めに俺は床を埋め尽くすネズミの一匹の首に嚙みついた。本気を出して血を吸いとる。


「いつもはこんな強引に吸わないんだけどな。なにせ時間がないもんで、ちょっと痛むだろうが許せよ?」


 そう、時間がない。そのことを改めて確認する。ネズミたちが仲間への気遣いを一切やめてところ構わず飛び掛かってくる判断を下すまでに、できるだけ数を減らさなきゃならない。

 痛みから俺が血を吸うネズミが暴れ始める。そうすればするほどネズミはその周りから一歩引く。空間が開く。ネズミは背中を地面にこすって押し潰そうともしてくる、けど俺は毛の奥まで入り込んで血を吸ってる。クッションがあるからそう簡単には潰れない。そんなことを言っているとネズミの動きはどんどん鋭さを失って鈍くなる。そのことを確認した俺は素早くネズミの体から飛び出し別の個体に噛みつく。

 あのネズミはもうあと数分で死ぬ。蚊の勘がもうあの体に生命を維持できるだけの血が残ってないことを告げた。それはもうちょい前のことだ。けど、やっぱり動けないくらいにはしとかないと安心できないよな。


 そんなことを何分も続けて俺が行動を封じられたのはたった8匹。途中で【吸血】のスキルレベルが上がったおかげで多少は早く処理できた。

 そんなとき、目の前でタワーが弾けた。


「…風魔法」


 タワーの解体は着実にこれまで行われていた。でも魔法ネズミにとっては遅かったようだ。弾けた勢いのまま俺のほうに飛びついてくる個体が何匹か、もう仲間のことを気にするのをネズミはやめ始めてる。俺は血を吸うのをやめて上空に上がる。途端に飛んでくるのは早い空気の塊。


「体が、引きずられ、る」


 飛んできた空気に巻き込まれ壁の方へ一直線。

 無我夢中で羽を動かし、壁にぶつかる直前に空気の塊から抜け出すことに成功した。

 地面の方へ急降下してネズミの首に噛みつき少しでも血を吸う。


『レベルが上がりました。』


 そう脳内に音声が流れ込んでくる。さっき血を吸ったネズミたちが一気に死んだっぽい。だけど、まだ8匹。何百といるのにそれだけしか殺せていない。血を吸いながら四方八方から飛び掛かってくるのをネズミの背中の上で躱し続ける。


 油断していた。どうせネズミの攻撃なんて当たらないだろうと高を括っていた。

 理解が追い付かない。やっと理解した時にはもう右の足が二本、付け根の少し先からもう、伸びてはいなかった。躱せたと思った。けど、ネズミの牙が右の足を二本ひっかかっていたらしい。その牙には黒い何かが二本、光を反射していた。


「い”っっ、、あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁぁああ!」


 『痛い』 運が良いというべきか、もう張り付いていたネズミの血はほとんどを 『痛い』 吸いつくしていた。そのうえ羽は無事だ。 『痛い』 空中に羽ばたく。 『痛い』 低空飛行だ。 『痛い』 上すぎると風魔法にスナイプされる。 『痛い』


「痛い。痛い。痛い。痛い。い”だああああああぁぁぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”い”い”、、、、ん、だよぉ」


 完全に血走っている。そんなときに俺が視界に捉えた()()匹の倒れたネズミを冷静に認識できたのは奇跡としか言いようのないことだ。


「………、11匹。俺が殺したのは8匹とさっきの1匹の合計9匹だけだ。…残りの、二匹、は…?」


 まだ生きてる。肩で呼吸をしているのがここからでもわかる。そのとき、俺の頭にある場面がフラッシュバックした。

 目の前でタワーが弾ける。そのあとすぐに俺の視界の大半を飛び込んでくるネズミが埋め尽くす。その端、わずかに映った隙間には、力なく吹き飛ばされるネズミがしっかりと映っていた。


「風魔法が直撃した個体か……?不便だな、俺と違って体がでかいと。風の衝撃が大きいもんな?」


 バランスを上手く保てない今の体でできるだけの最高速を出して死にかけに近づく。そして、麻酔をかけずに口をブスリ。

 さっき気づいたんだけど、今のこの場面においては麻酔をかけない方がよく暴れてくれて好都合なんだよな。

 針を刺したネズミがいきなり体を跳ねさせたかと思ったら、急に死んだ。よくわからん。が、好都合。さっき見えたもう一匹の死にかけの方へ飛び始める。

 肩で息をしながらもう一匹のネズミへ口を刺す。案の定こちらが死ぬのにさほど時間はかからなかった。


「まだ、いるはず、あのタワーが弾けた勢いで魔法が直撃したのが二匹しかいない訳がない。」


 そう思って辺りを見回す、そんな暇もなくもうすぐそこまでネズミどもが迫ってきていた。

読んでいただき本当にありがとうございます!


次回、死闘の末、右足二本を失ったアルマは勝利へと近づくことはできるのか!?


「蚊の主人公、面白そう!」「アルマのサバイバルの続きが楽しみ!」とおもっていただけたら次回も読んでいただけると嬉しいです。


毎日投稿してます!毎日18:30に更新中です。

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