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04 魔法ネズミ

 体は限界が近い。今の状態ではどうやったってあいつに勝つのは不可能。だから、しばらくここで休息をする。どうやらあいつの魔法はこの隙間にまで影響を及ぼすことはないっぽいから安心して休める。

 休みながら作戦を練る。だけど、一向に勝てる兆しが見えない。さっきのように後ろから不意打ちしようと即効性のない俺の攻撃ではカウンターの風魔法で終わりだし、麻酔をかけたって動きを封じられるほど強力じゃないし、モスキート―ンも攻撃の役に立ちはしない。逆に正面から戦ったとて貧弱な蚊の体では勝ち目はない。


「詰んでる。」


 そう錯覚するほどに道は険しい。だけどまあ、勝ち筋がないわけでもない。


 そして、その勝ち筋とは、


「逃げよう。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて力をつける。いつかあいつに勝てるように、圧倒できるように。

 ……そのためにも、まずは体力の回復が最優先、だな」


 そうして決意を固めた直後に猛烈な睡魔が押し寄せてきた。横になり目を閉じるとすぐに俺は、泥のように眠ってしまった。




 目が覚めてモスキート―ンを意識する。下のスペースに何者かの気配はない。それから自分の目でも確認すべく隙間から下をのぞく。やっぱりもうあの魔法ネズミはいないようだ。


「チャンスだ。俺が強くなるためのいいチャンス。よし、ネズミ狩り、再開だ。」


 魔法ネズミはもういない。つまり、ほかの何かに殺された可能性もある。でも、そうじゃないことを願う。祈る。望む。だって、あいつは俺の獲物だから。頼むから俺に殺されてくれよ?魔法ネズミ。


 


 そこにはやり返しを誓ったか弱い蚊が一匹、楽しそうな雰囲気を醸し出していた。




 あれからどれくらいの時間がたったんだろう。俺はネズミを5匹殺してレベルアップを果たし、6レベルになった。スキルも上がった。


名前:アルマ 種族:イノセント・モスキート


Lv.6


スキル:

吸血 Lv.3 気配遮断 Lv.5 麻酔 Lv.2 モスキート―ン Lv.5


 麻酔のレベルが上がってからはネズミに気づかれるまでの時間も増えて余裕をもって血を吸いつくせるようになってきた。気配遮断のレベルも上がってるし、低レベルの個体にはもう気づかれないだろう。

 そんな時にモスキート―ンに引っかかったのはゾンビほどの大きさの物、だが、違う。ゾンビじゃない。ゾンビよりももっと肉のつき方がよく、厳重な装備をしていて、複数人で行動する。そう、それは……


「…人間、か。」


 俺の中に一気に緊張が走り、体がこわばる。でも、改めて考えてみるとここはダンジョンの中、いつ冒険者が現れても不思議ではなかった。俺には馴染みがなさ過ぎて頭から抜け落ちていただけか。

 冒険者とは、冒険者連合が運営する冒険者ギルド、そこに所属をし、ダンジョンの探索、魔物の討伐などを主として活動する、いわば何でも屋。ランクやパーティー制度もあるようだが、俺はよく分からない。なにせ死体処理しかしてこなかったからな。無縁なんだよ。年頃の青年の花形のような職業とは。

 人間との出会い、それは俺にとってメリットしかない。血を吸ういい機会にもなるし、今の俺のスキルがどこまで通用するのかもわかる。このダンジョンの出口だってこいつらについていけばわかるはずだ。

 俺が天井付近でそんなことを考えている間に曲がり角の先から、探知が反応していた人間たちが姿を現す。俺のことなんて気にも留めず通り過ぎて行ったので、俺も黙ってその後を追いかける。


 人間の数は3人。剣を持った男と、杖を持った男女。杖の男は頭に犬のような耳が生えているから、獣の血が通っているのだろう。三人の戦闘は良く連携が取れている。剣の男が物理の攻撃、女が火の魔法の攻撃、獣人はなにもしていないように見えるが時折なにか唱えているので支援魔法か何かを使っているのだろう。というか、危ないな、火ってたしかにアンデッドには効くかもしれないが俺にも大ダメージだぞ。虫は火に弱いんだ。まあ、俺レベルだとどんな攻撃でも致命傷なんだけど。



 そろそろ、血を吸ってみようと思う。一番気になるのは、やっぱり獣人の血。普通の人間の味も確かめたいところだけど、比較的珍しいものに惹かれるのは元人間として何も不思議なことじゃない。

 そう思い獣人の足、ズボンと靴の間で見える肌に止まり、口から麻酔を出して、肌に塗る。それで、少しの間待ってから口を刺して麻酔を出しながら血を吸う。体の震えを必死に我慢しながら、味を深く味わいながら、しっかりと血を吸い続ける。そうすること約2分。違和感に気づいたのか蚊に刺されてかゆくなってきたのかはわからないけど、足をせわしなく動かし始めたのでいったん吸うのをやめて、空中に逃げる。本当はこのまま大人しくするのがいいと思うんだけど、俺はそのままの勢いで女の足にも飛びつく。また麻酔を塗って血を吸う。


『レベルが上がりました。』


 突如頭にそんな声が響く。驚いた。あまりにもレベルアップが早くないか?

 さっきのネズミ狩りで血を吸ったときにレベル6に上がったばっかりだったから、血だけでレベルを上げようと思うとこれの十倍ぐらいの血液の量が必要だと思ってたんだけどな……。

 そんなことを思いつつも、血を吸う。程よいと思ったところで、天井のほうへ飛び立ち、しばらくの間、人間たちの観察をしていた。




 人間たちが消えた。それは突然のことだった。ある行き止まりの道で剣士の男がポケットのあたりをまさぐって何かを取り出したかと思うと、すぐに全員が光の粒子となってその場からいなくなったのだ。

 

 ……唖然とする。


「…このまま付いて行けば出口が分かると思ったんだけど、そうそう上手くはいかないよね」


 何がどうなったのかは分からないが、彼らはもういない。がっかりした気持ちは隠せないけど気分を切り替えるしかないな。

 とりあえず!ステータスの確認が最初だよな。そう無理やり頭を切り替えて俺は壁の隙間へと身を寄せる。


「ステータスオープン」


名前:アルマ 種族:イノセント・モスキート


Lv.7


スキル:

吸血 Lv.3 気配遮断 Lv.6 麻酔 Lv.3 モスキート―ン Lv.5


 うん、気配遮断と麻酔のレベルが1ずつ上がってていいかんじだな。この調子なら近いうちに魔法ネズミに気づかれないくらいにはスキルが上がるんじゃないか?

 あと一つ、考えておきたいのが吸血の経験値についてだ。

 なんで人間の血は経験値が多く手に入ったのか、それを軽く考えて思いつた可能性は二つ。

 一つは個体の強さが関係しているということ。あの人間たちはここに出てくる魔物を片手間で楽しくおしゃべりしながら片づけていた。そうとう強いに違いない。対してネズミはここの魔物の中でも最弱クラス。どちらの血を吸ったほうが経験値が高そうかと聞かれたら、人間のほうが高そうということは火を見るよりも明らかなことだ。

 もう一つは種族としての格だ。ただのダンジョンモンスターであるそこらのネズミと高い知能をもって豊かな生活を送る人間、どちらが生物として格が高いのか、これもさっきと同じ結論を出してだろう。

 他の要因もあるかもしれないが、どちらにせよ、人間の血を吸ったほうが効率がいい。ネズミより弱い人間なんてそうそういないしね。


「ん?」


 そこまで考え終わったところで俺はモスキート―ンが感知する異様な気配に気が付いた。

読んでいただき本当にありがとうございます!


次回、アルマが感知した気配の正体とは……!?


「蚊の主人公、面白そう!」「アルマのサバイバルの続きが楽しみ!」とおもっていただけたら次回も読んでいただけると嬉しいです。

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