教える難しさに、悶々とする
大学生から大学院生までの6年間、僕は塾講師として働いていた。小学生から高校生まで様々な年齢の生徒とコミュニケーションをとってきた。大人になってからは、仕事上パソコン操作やインターネット関連について質問を受けることがあり、大人だけでなく子供を相手に説明する機会もあった。
そのため、同業者である教える側の人たちも多く見てきた。教えるのが上手い人もいれば、分かりにくいと敬遠される人もいた。
教えるのが苦手な人には1つの共通点がある。それは「自分の言葉で話をしてしまう」ことだ。
同じ日本語を話していても、人によって選択する言葉や言い回しは異なる。主語や目的語の多くを省略して砕けた話し方をする人もいれば、専門用語や硬い表現を好んで使う人、日本語と横文字が入り混じりで話す人もいる。
若者言葉やビジネス用語など、年齢や環境によっても使用する言葉は変わるため、同じ日本語であっても世代やその場によって表現方法は異なる。みんなに正しく伝わる絶対的な言葉遣いはない、と僕は思う。そのため、相手に何かを伝えたいときは、決まりきった説明フレーズを使うのではなく、相手が理解しやすい言葉を選択する必要がある。
では、どのような言葉を使うのがよいのか。相手が実際に使っている言葉がヒントになる。
たとえば、パソコン操作で困っている相手が「デスクトップ」という言葉を使わずに「パソコンを起動したら最初に出る画面が表示されなくて困っている」と現状を説明したとする。その相手に「あなたのOSはなんですか?」と確認していては、会話はうまく進まないだろう。
これは、お決まりのマニュアル発言をしている。「デスクトップ」の言葉を使わない相手に、「OS」という専門用語が通じるとは思えない。
「OSとはなんですか?」という会話になり、「オペレーション・システムです」と真面目に答えてしまえば、新しいもやもやを増やすことになる。
教えるのが苦手な人は、自分が普段使う言葉で相手に説明しようとする。相手と自分は同じような存在だと前提してしまう。自分がわかる専門用語は相手も知っていると思ってしまう。
では、どうすればよいか。相手が日常的に使用する言葉を使うのがよい。相手の口癖や語尾を真似る必要はない。相手が使いそうな名詞や動詞を使って説明する。そのためには、相手のことを知っているのはもちろんだが、様々な言葉遣いができるだけの幅広い知識や教養といったものが必要になる。
ある程度のレベルになると、相手が使いそうな言い方も想像できるようになる。知識と想像力を組み合わせることで、相手が理解しやすい表現が自ずと見つかるようになる。
いろんなことを相手に伝える立場をしていると、教わるのが上手い人もいる。教わるのが上手い人は、教える側が口下手であっても、うまく話を聞き出して知識を自分のものにする。そういう人は、これまでに培った自分の知識をもとに相手が何を言いたいのかを推測する。
類推のような作業をもとに、自分から相手へ質問することで、自分がわからなかったことを自分自身で解決しようとする。教える側ではなく、教わる側が知識と想像力をもっている高尚な人間の例といえる。
つまり教えるという行為は、教える側と教えられる側の双方向で成立している。そのため、説明を受けたときに「この人は教え方が下手だ」「これでは説明がわからない」と思ったら、自分の知識不足や想像力が足りないことも疑ったほうがよい。相手のせいにしても目の前の状況は変わらない。
最近は、教える人間を教わる側が変えることができるサービスが登場しているが、社会に出て上司や先輩から教わるときに、説明が下手だからといって相手を変更するわけにはいかない。その場にいる先生らしき人に、自分から合わせるしかない。




