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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
三章

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十五話

 7世界での深淵消滅の旅は一ヶ月も必要なかった。

 望と七節が同行を申し出たが、1から6世界で攻略し続けて効率化した方法が確立しているので、いつもと同じく二人で旅に出た。


「たっだいまー」

「早っ! ノリ軽ぅ!」


 境界壁内部に建造された丸太小屋の扉を勢いよく開けて、すみれと乱入する。

 授業中だったようで、静先生――息子の孫だからもう、静でいいか。静と豪、望、七節、淵上が驚いた顔で俺たちを凝視していた。


「もう、全部の深淵を消したのですか?」

「ああ、ここを除いてだがな」


 俺たちの活躍により、この世界で深淵が存在するのは日本だけとなった。

 他の平行世界と同じく、深淵を消すことに抵抗する国家は存在していたのだが非合法な手段で忍び込み、問答無用で消してきた。日本に多くの苦情が寄せられているようだが、そういうのは政治家の仕事なので関係ない。


「あの独裁国とかから文句とか脅しがきまくってるって噂になってるけど、豪先生ほんまなん?」

「おう、軍事力をちらつかせて脅してきてるぞ。まあ、それでも口だけだがな。現状、地球で一番の力を保有しているのが我が国、日本だ」


 豪が堂々と宣言すると同時に、全員の視線が俺に向けられる。

 そうなのだ。未だに自覚は薄いが、俺の力は常軌を逸している。本気を出せば国一つ滅ぼすなんて容易い。


「自分で言うのもなんだが最強らしい」

「現実離れしていますからね。そもそも、異能が非現実的なのですが」

「めっちゃ強ぅなったもんな。わいらなんて足下にも及びませんぜ、旦那」


 望がもみ手をしながらすり寄ってきたので、顔面を鷲掴みにして引き剥がす。


「【遮断】ですら、防げないのでしょうね」

「単純な攻撃なら防げる可能性はあるが、今の俺なら【遮断】にすら【穴】を空けられるはずだ」

「どんなものでも【遮断】する、私のアイデンティティーが」


 肩を落とす淵上を「しゃーない、切り替えてこ」と励ます望。

 この二人、以前よりも距離感が近くなっている気がする。今まで散々からかわれた恨みを晴らすべく、茶化してやろうかと思ったが、素早く察知したすみれに服の袖を引っ張られて我慢した。


「二人とも突っ立ってないで席について下さい。全員が揃ったのなら、今後の作戦のおさらいをしましょう」


 静が場を取り仕切り、すみれと俺を自分の席へと促す。

 席に腰を落とし、小さく息を吐く。

 落ち着くなこの場所は。


「何度も話してきましたが、ここからが本番になります。まずは復習しましょうか。一番の驚きと言えばこれですよね。ここにいるお爺ちゃんが、石川守人、花蓮すみれ、両名の息子であることが判明しました」

「年上の息子だ」


 何故か自慢げに胸を張る豪。


「それ聞いたときは、めっちゃ驚いたわ。驚きすぎて顎外れかけたぐらいやで、マジで」

「ええ、誇張ではなく本当にそれぐらい驚きましたよね」

「目玉がこぼれ落ちるかと思った」


 望、七節、淵上に直接伝えたときの反応は今思い出しても笑える。

 人間の表情ってあそこまで崩れるのかと驚かされた。


「改めて見比べてみると……どこはかとなく似てるような、そうでもないような」

「よく見たら、お爺ちゃんと石川君……じゃなくて、曾祖父ひいおじいちゃんと目元とか似てるよね」

「曾祖父は止めてくれ。今まで通りでいい」

「私も。曾祖母ひいおばあちゃんなんて呼ばれたら拗ねるからね」


 静に一応釘を刺しておく。すみれは特に気にしているようで、指でバツを作って「禁句」とダメ出しをしている。


「うん、わかった。じゃあ、話を戻して。今後の方針としては唯一残っている深淵を利用して、アグリウスタル人が住む母星に乗り込み、敵を殲滅するか【ワームホール】の発生源を無くすのが目標です」

「それはつまり【ワームホール】を発生させている、異世界から連れてこられたアグリウスタル人ではない異世界人を殺す、ということですよね」


 七節が言葉を濁すことなく、あえて強い言葉で確認を取る。

 ここで誤魔化したところでやることは変わらない。


「ああ、そうだ。【穴】の異能所持者を誘拐して、施設に幽閉。自我を奪われて【ワームホール】を発生させる道具と化している……罪なき異世界人を殺す。彼らにはもう言葉が届かない。説得も不可能だからな」


 俺と同じく【穴】の異能に目覚めさせられた異世界の住民。そんな異能者を一箇所に集め、実験を繰り返し【ワームホール】発生装置として扱われている、哀れな人々。


「訪れたことのない異世界だが、俺の【穴】は埋めて吸収した連中の記憶を夢で見ることができる。なので、迷うことなく施設へと向かうことが可能だ」


 彼らへの実験内容については、九十番台の将軍たちの記憶を夢で見た。故にその施設が何処にあるかもすべて把握している。


「深淵のワームホールを逆に利用するってのはわかるんやけど、同時に過去へ遡るのはなんでなん?」

「色々理由はあるのだが、今はヤツらが警戒をしているからだ。世界各地に配置した深淵が消えたことは向こう側も把握しているはず。そんな中、日本にある深淵だけは存在している。望ならどうする?」

「そりゃ……あー、そうか。ガッチガチの厳重に警備してるわな」

「そんなところに突っ込んでいくのは飛んで火に入る夏の虫だろ」

「確かに。だから、地球を襲う前の時間を狙う必要があるんやな。警戒なんてしとらんやろうし」


 望は納得したようで、大きく何度も頷いている。

 隣の席に座っている七節はスッと手を上げると「質問よろしいでしょうか?」と声を上げた。


「いいぞ。なんでも聞いてくれ」

「狙うタイミングはアグリウスタル人が地球に【ワームホール】を繋げた瞬間でしょうか」

「それがベストだと考えている。これは96……昼想や他の将軍の記憶で知ったのだが、【ワームホール】を繋げて二日経過してから一斉に選抜隊を送り込んでいる。決行日までは警備も薄い。侵攻準備に忙しく数名の研究員と警備員が見張っているぐらいだ」


 俺の説明を聞いて、七節が小さく頷く。


「もう一つ。【ワームホール】は被検体である【穴】の異能所持者が収容されている施設の近くに空くのですよね」

「ああ。あれ程の大きさだからな。都市部から離れた広大な荒野にポツンと建てられた施設があり、それを取り囲むように【ワームホール】がいくつも設置される。想像してみてくれ、大地を埋め尽くすほどの巨大な【ワームホール】が幾つも設置されているんだ。そこから地球人が数人飛び出したところで気付くと思うか?」

「難しい、でしょうね。何度も侵略を繰り返したことで慢心もあるでしょうし……」


 腕を組んで天井を睨みつけながら、七節が同意の言葉を漏らす。

 完全に納得はしていないようだが、無謀ではないとの判断を下したようだ。


「念には念を入れて【遮断】を発動して気配や音……存在自体を消す」

「ボクには無理ですが、今の石川さんなら可能でしょう」


 元々は淵上にしか使えなかった異能。だが、この【遮断】はかなり便利なので淵上に返さずに保持している。

 望と七節には異能を返したので、自分だけ帰してもらえなかったことにご不満だったようだが、用途を説明したら納得はしてくれた。……快く、とはいかず渋々だったが。


「問題はヤツらの母星に突っ込むメンバーなんだが何回も言っているように、わしと父さんと母さんの三名だ」


 ホワイトボード前で仕切っていた静と入れ替わり、豪が説明と司会進行を担当するようだ。


「異議あり! わいらはまた蚊帳の外でっか!」


 机に両手を付いて立ち上がり、勢いよく反論する望。


「私もそのことには承諾できかねます」


 望とは対照的にゆっくりと立ち上がる七節。

 二人は前からずっと反対を口にしていた。

 淵上と静は黙っているが、完全に納得しているとは言いがたい目つきと表情をしている。


「お前たちを連れていかないのは危険だというのが大きい。そもそも、敵の施設に潜入して破壊するのが目的なんだぞ。兵士だけではなく、九十番台の将軍が揃い踏みしている可能性がある。ぶっちゃけ、力不足だ」

「んなもん、わかっとるで。そやけど、時間稼ぎや陽動ぐらいはやれるやろ!」

「そうです。この作戦が成功したら、ここを含めたすべての平行世界が消えて、新たな世界が始まるのでしょう? 死んだとしても問題はないはずですよ」


 ずっと意見を変えない望。七節の割り切った発言は間違いじゃない。

 この作戦で死んだとしても、地球と繋ぐ【ワームホール】を消し去れば世界は一新され、侵略戦争なんてなかったことになる平和な世界が生まれる。……と伝えておいた。

 作戦中に死んだとしても新たな世界ではなかったことになる。それは正しい。


「だがな、失敗した場合どうする。この7世界は続き、お前たちが死んだ事実は変わらない」

「そりゃ、まあ、そやけど……」

「そうですが……」


 急に勢いが弱くなり俯く二人。

 理解はしているが納得はできない、といったところか。


「そうなった場合、誰がこの地球を守るんだ? お前たちしかいないだろ」


 これは本当のことでもあり嘘でもある。

 本音は……違う。もっと単純な話だ。


「守人君。こういうときは本音をぶつけた方がいいんだよ。変に誤魔化しちゃダメ。想いは口にしないと伝わらないよ。あっ、私と守人君は以心伝心だから、言わなくても大丈夫だからね。でも、愛の言葉は何度でも口に出して囁いて欲しいなー、なんてね」


 すみれは隣でテレながら微笑むと、俺の背中を軽く叩いて励ましてくれる。


「真面目な話し中にイチャつくの、やめてもろうてええですか」

「すまん、彼女無しのお前には毒だったな」

「なんやて! わいかて、異能者になって力付けたらモテモテのはずやったんや……。それやのに、力をひけらかしたらアカン言われて、めっちゃ強うなったのに自慢もできへん……」


 俺の言葉がクリーンヒットしたようで、机に上半身を投げ出して愚痴をこぼしている。

 そんな望の背中を優しくさすっているのは淵上か。お前が思うより、春は近くに来ているようだぞ。


「本音をぶちまけると、みんなには死んで欲しくない。苦楽を共にした……大切な仲間だと思っている。仲間には、もう、誰も……死んで欲しくないんだ」


 今まで一度も口に出さなかった内心を吐露する。


「大切なんだよ、みんなが」


 もう一度、自分自身の心に問いかける意味も込めて口にした。

 シーンと静まり返る教室。柄にもないことを言ったことが恥ずかしくて周りを見ることもできない。


「しゃーないな。そこまで愛されてるんやったら折れるしかないわ。ほんま、しゃーなしやで」

「そうですね。こんなことを言われて我を通すわけにはいきません」

「ボクは共に過ごした時間が断トツで少ないけど、それでも大切な仲間だと思ってる」


 望、七節、淵上が苦笑した後に微笑んでくれた。

 静と豪は俺を正面から見つめ、力強く一度頷く。

 もう一度、守るべき友の顔をじっくりと見回し、覚悟を改める。

 俺が守るべき人たち。

 これまでの記憶が失われるとしても、すべてのことがなかったことになるわけじゃない。俺が苦しみ足掻き続けてきたからこそ掴み取れる、平穏な未来。


「必ず成功させようね」

「ああ、必ずだ」


 世界のために、仲間のために、そして何よりも……すみれ、キミのために。


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― 新着の感想 ―
全部なかったことになるなら豪くんいつどこで産まれたんだろう?
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