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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
三章

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十三話

 長く鋭い角。瞳だけではなく眼球が真っ赤に染まり、異常なまでに発達した犬歯が伸びている。

 以前とは別人……いや、これが本来の姿か。昼想ではなくアグリウスタル人としての。


「もう、昼想と呼ばない方がいいか」

「どちらでも構わん。我々の名は番号でしかない。九十六将と呼ぶも良し、昼想と呼ぶも良し。好きにすればいい」


 ヤツらの名前が番号制なのは知っている。散々、アグリウスタル人の記憶を夢で見てきたから。

 二桁台の番号は将軍のみ。その為、将軍として下位の九十番台であろうと名誉なことなのだが、ヤツは興味がないらしい。

 将軍以外の百番台以下は数字が被る。例えば108番を名乗る兵士は一人や二人ではない。各将軍の配下にいるので、少なくとも九十人以上が同じ番号となる。


「九十六将……いや、96と呼ばせてもらおう」

「了解だ、守人」


 必要以上に馴れ合うつもりはないので、自分の中で境界線を引くためにも数字呼びが妥当だと判断した。96も悪い気はしていないようで、無表情でありながらも声の響きが嬉しそうに感じた。


「戦う前に自分の異能を説明しておく」

「わざわざネタばらしをしてくれるのか?」

「どうやら、道化を演じていた別人格の影響が残っているようでな。語らなければ落ち着かぬ」


 別人格、か。

 今まで接してきたヤツは饒舌で気分屋。理想の悪党を演じることに注力していた。

 そう簡単には別人格の振る舞いが抜けない、ということか。


「【制御】は自分の能力だけではなく感情までも抑え込んだ際に別人格を作り出した。すべての権限を受け渡し、自分は眠ることにした。秘めた力を解放した敵が口調も態度も見た目も変わる展開、この世界では王道であり好まれるテンプレなのであろう?」


 そこで初めて表情が崩れた。口元が少しだけ緩み微笑んでいる。


「否定はしない」


 俺も好きか嫌いかで問われたら、好きだと即答する。

 何度も窮地に陥らされ命の危険に晒された憎むべき相手の筈なのだが、ここまで切るに切れない縁ができてしまうと邪険に扱いづらい。

 それでも――倒すが。


「ここからは言葉よりも、これで語ろう」


 96が拳を握りしめ、俺に突き出す。


「そうだな」


 それに応え、俺も拳を突き出した。

 互いに体勢を低くすると、ほぼ同時に飛び出す。

 迫り来る96の表情が無から喜に変化していく。以前のヤツのように。


「こんな日が来るとわかっていたなら、壮大なBGMでも用意すべきだったかっ!」

「異世界の文化に影響されすぎだっ!」


 全力で放った右拳同士が激突する。その衝撃で上半身が仰け反るが、それは相手も同じ。

 退くつもりは……ない!

 踏みしめた脚が大地に刺さり、一歩も後退ることなく体勢を立て直す。

 上半身が定位置に戻ると、目の前の96も同じ状況だった。

 起き上がった反動のまま頭突きをかますと、額と額が激突した。

 両足を踏ん張って腰を落とし、連打を繰り出す。

 96も逃げるつもりは毛頭ないようで、同じ体勢から突きを放ってきた。

 黒と紫のオーラを纏った拳が何度も何度もぶつかり、激突音と互いのオーラが混じり合った火花が辺りに飛び散る。


 連打、連打、連打。


 無数の拳がぶつかり合い、互いに一歩も譲らない。

 踏ん張りを失ったら、一気に形勢が逆転する。正面の打ち合いに蹴りは必要ない!


「楽しい、楽しいぞ、守人。これほどまで胸が高鳴るのは、あの時以来だ」


 淡々と話しているつもりなのだろうが、制御できていない感情が声に乗っているぞ。

 俺も似たような気持ちではあるが、この状況下でも冷静に頭を働かせている自分が存在している。

 一進一退の攻防に見えるが、ほんの少し力の差が出ている。

 地力は96の方がわずかに上か。俺の攻撃が徐々に圧され始めているのを実感している最中だ。

 強くなった俺でも、本気を出したヤツにはまだ一歩及ばないとは……その強さに感心してしまう。

 ここまで付き合ってやったんだ、もう満足したよな。ここからは、俺の本来の戦い方で対処させてもらおう。


 【怪力】【強固】を同時発動。


 左拳をあえて肩にくらうが【強固】で持ちこたえる。動きが止まった一瞬を狙い、【怪力】を乗せたカウンターを叩き込む!

 96はその動きすら読んでいたのか、後方へ素早く移動して間合いから逃れる。が、拳の先に【ワームホール】を設置。その中に吸い込まれた拳が、96の背後の設置しておいた【ワームホール】から飛び出し、背中に命中した。


「ぐがあああっ!」

「避けられるか、これを!」


 無数の拳を【ワームホール】に放つ。

 そのすべてが96を取り囲むように配置された、次元が歪んだ穴から飛び出してくる。

 逃げ場を封じられ四方八方から襲いかかる連打の雨。

 黒のオーラと【闇】が混ざり合い生み出された、新たな闇――仮に【漆黒】と名付けるが、それが俺の攻撃を防ごうとしている。だが、すべては無駄だ。


「開け」


 拳が当たる直線上の【漆黒】に穴が空き、そこを潜り96に直接打撃が命中。

 仰け反ることも、避けることも許されず、棒立ちの状態で全身に拳がめり込み、肉を裂き、骨を砕き、内臓が潰れる感触が手に伝わる。

 更に【俊足】を発動させて、それを移動手段に使うのではなく神速の蹴りとして放つ。


「ふううううううぅぅ」


 無呼吸による連打が終わり、大きく息を吸った。

 これが俺流の正当な戦い方だ。

 目の前には全身を砕かれ、原形をほぼ留めていない96がそれでも倒れずに立っている。


「完敗、だ。お見事。ああ、悔しいな……。もっと、もっと強くなりた、かった」

「別世界のお前はもっと強くなっていたぞ」


 ボロボロの顔で後悔の言葉を漏らす96に思わず声を掛ける。

 憎むべき相手だが、ヤツがいなければ俺はここまで強くなれなかった。その礼というのも変だが、これぐらいの事は話しても構わないだろう。


「そう、か。羨ましいぞ、別世界の……自分」


 それが最後の言葉だった。

 力尽き、崩れ落ちたヤツを掘った穴に埋葬する。手は合わせず、冥福も祈らない。ライバルとしてできるせめてもの手向けだ。


「終わったんだね、守人君」


 背後から聞こえる優しく労る声。


「そっちも完了かい」

「うん、倒しました!」


 振り返ると、指をVの字にして突き出している、すみれがいた。

 その足下には気絶しているのか、白目を剥いている日輪とピクリとも動かない神無月がいる。


「【譲渡】で限界まで奪ったらこうなっちゃいました。あとお借りしていた【雷】返すね。これがあったからすっごく楽に倒せたよ」


 握った手から異能が流れ込んでくる。

 戦う前に念のため【雷】の異能を渡しておいたのだが役に立ったのなら何よりだ。

 すみれには傷一つない。圧勝だったのか。

 日輪は気を失っているだけで息をしている。神無月は呼吸音もなければ心音も聞こえない。完全に死んでいる。

 だが、すみれが殺したわけじゃない。死体を【憑依】でアグリウスタル人が奪い動かしていただけ。中にいるべきアグリウスタル人の気配は微塵も感じられない。

 いや、微かに残存しているのか。体から出ることも叶わないぐらい憔悴しきったオーラの欠片が残っている。


 日輪、神無月も穴に埋葬しておく。中身は憎むべきアグリウスタル人だが、その見た目は日本人だから。特に神無月は死体を利用されているだけなので、ちゃんと葬ってやりたい。

 残りカス状態の神無月の中身からは異能を奪えなかったが、日輪と昼想――特に96から異能と力を奪えたのはかなりデカい。


「【漆黒】と【制御】と【念話】が増えた。オーラもかなり強化されたようだ」

「強かったもんね」


 時間逆行を繰り返し、実力を倍々に増やしてきた。警戒は緩めなかったが、正直に言えばもう少し楽に片付くと考えていた。


「想像以上に強かったよ、96」


 これでヤツとの因縁が消えて世界に平和が訪れる……と都合良くはいかない。

 まだ残りの2~7世界があり、この1世界の問題も片付いていない。96と側近を始末しただけで、この後に起こる侵略戦争を止める必要がある。


「次は何しよっか」

「まずは豪先生……息子に挨拶して事情説明だろうな。どうせ、何処かでこれを見ているだろうし」

「豪君が協力してくれたら、後始末も楽だしね」


 この1世界にも息子である豪が存在している。すべての事情を知っているので、話し合いも滞りなく進むだろう。

 俺のやるべき事は0世界と同じく、各国にある深淵を消し去ること。

 これさえやってしまえば異世界からの脅威は消える。

 現状での最大の脅威である96は取り除けた。あとは事後処理のようなものだが、油断はせずにやり遂げよう。


「この後、デートしよっか」


 すみれが無邪気な笑みを浮かべて、魅力的な提案をしてきた。

 自分が守った世界をゆっくりと散策するのも悪くない。


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― 新着の感想 ―
瞬獄殺?
すみれの【譲渡】はすでに【奪取】といった方が良いように思えるのですよね。 【譲渡】だとちょっと違和感があります。(;^ω^)
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