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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
三章

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十二話

 黒の着物を着込んだ女――神無月 夜。

 ヘソ出しタンクトップで露出度が高い女――日輪 希乃。

 そして、パーカーとジーパンに細いフレームの眼鏡をした男――昼想 侵。


「懐かしい顔ぶれだ」


 久しぶりに見た三人に対し、素直な感想が口からこぼれ出る。


「懐かしい? 自分はついさっき別れたばかりなのだが、老けたのではないか? 人間を外見で判断するのは苦手ではあるが……やはり、そういうことか」


 俺の漏らした一言で瞬時に察したのは昼想で、少し遅れて神無月が手を打ち感づいたようだ。

 日輪はなんのことかわからず、首が折れそうなぐらい傾げている。

 現状は1世界で勝てないと判断した俺が、すみれと望を連れて【ワームホール】に飛び込んだ直後。

 ヤツらからしてみれば、逃走した俺が舞い戻ってきたようにしか見えない筈……と思ったが、そういえば今は三十手前の年齢か。

 1世界では既に俺が存在しないので、0世界の自分がそのままこの世界にやってきた。俺は三十路手前ですみれは二十代後半。

 服装はいつもの服に近いのを選んだのだが、それでも変化は一目瞭然だ。


「自信が隠し切れていない立ち居振る舞いもそうだが、その内に秘めたオーラ……どれだけの苦境を乗り越え磨き上げてきた」


 昼想の目つきが鋭くなり、何もかも見透かそうとしているのか、冷たい視線が俺の全身を這いずり回る。

 一目見ただけで見抜くのは流石としか言い様がない。


「何度、時間ときを遡り、どれ程の力を手にした。尻尾を巻いて逃げ出したときはガッカリしたが、こんなサプライズを用意してくれるなんて、悪役冥利に尽きるよ!」


 両腕を大きく広げ、歓喜のポーズを取る昼想。

 芝居じみた言動にはもう慣れたので、なんの驚きもなく受け入れられる。


「喜べ、お前を殺すために力を蓄えてきてやったぞ」


 満面の笑みを浮かべるヤツに笑顔で返す。

 今回ばかりはヤツの芝居に付き合ってやろう。因縁の相手であるのは間違いないからな。

 そんな俺を目の当たりにしてヤツの笑いじわが深くなる。


「いいぞ、いいぞ。逆境にあえぎ、それでも不屈の精神で立ち上がる……それこそが正統派の復讐系主人公! 理想とする主人公像そのものだ!」


 抑えきれない歓喜が声から仕草から伝わってくる。

 心の底からこの状況を楽しんでいるようだ。


「リーダー、リーダー、あれころしていい?」


 そんな空気を読めずに話しかけたのは日輪。

 服が土まみれなのは、さっきまで戦っていた1世界の俺が穴に放り込んだからだ。


「折角の最高の気分が台無しじゃないか。次、邪魔をしたら殺すよ?」

「ひいいうぅぅ」


 一瞥された日輪が身を縮めて怯え、隣に立つ神無月は呆れ顔だ。

 これだけで立場の違いが一目でわかる。

 三人で行動することは多いが日輪をペットとして扱い、神無月は側近として活用してはいるが二人の存在はどうでもいいと考えている。

 それはこれまでの言動で明らかになっていて、二人が死んだところでヤツが心を痛めることはない。


「そう邪険にしてやるな。すみれ、あの二人を頼んでいいかい?」

「うん、良き妻は夫に尽くすからね! あっ、今のご時世だとこういう考えは叩かれるのか……。でも、私はお婆ちゃんみたいな古いタイプの大和撫子が憧れだし」


 ニコニコと笑いながら自分の想いを語る彼女。

 張り詰めていた緊張の糸が緩みそうになるが、いや、適度に緩んでいた方がいいか。以前、七節もそんなことを言っていた気がする。

 以前なら、すみれは守る対象でしかなかった。彼女も自分が弱い存在だと理解していたので、その立場を甘んじて受け入れるしかなかった。だが、今は違う。

 共に歩み、何度も時を遡り、力を付けてきた。

 彼女は精神面だけではなく戦闘面でも唯一無二の相棒。生涯のパートナーだ。


「そっちは任せたよ」

「オッケー、任されました!」


 茶目っ気のあるウィンクをして跳ねるような足取りで、俺から遠ざかっていく。


「二人ともー、邪魔にならないようにあっちで戦おうねー」


 すみれに明るい口調で誘われて困惑を隠せない二人が、主である昼想を見つめ判断を仰いでいる。


「いいじゃないか、誘いに乗ってあげな。そっちが片付いてもこちらには手出し無用だ。邪魔をしたら……もう、わかっているよね」

「かしこまりましたわ」

「はい! りょうかいです!」


 頷く神無月と、背筋を伸ばして敬礼する日輪。

 二人の反応に満足したのか、ハエでも追い払うかのように手を振る昼想。


「二名様、ご案内でーす」


 大きく手招きをする彼女に従い、神無月と日輪が遠ざかっていく。

 向こうは負けることなんて微塵も考えていないのだろうな。

 こちらの思惑通り、戦力を分担してくれた。向こうは彼女に任せればいい。信じているよ、すみれ。


「さーて、邪魔者もいなくなった。これで思う存分戦えるぞ、石川守人!」

「一々声が大きい。もっと声のボリュームを落としても聞こえる」

「無粋なことを! この胸の高鳴り、抑えきれぬ喜び! 少しでも感情を吐き出さねばおかしくなってしまう!」


 興奮で赤く染まった顔に加え、早口で語る昼想。

 普通なら関わりたくない相手だが、致し方ない。これでも俺が倒すべき目標だ。


「一応言っておくが、あんたの想像を超えて強くなっている。初めから本気でこなければ、死ぬぞ」

「言ってくれる! そんなに期待させないでくれ! 我慢できなくなってしまうじゃないか!」


 以前、ヤツが自分語りをして感情が乏しいなんて評していたが、これのどこが当てはまるというのか。

 呼吸の荒い、欲望をむき出しにした変質者にしか見えない。


「じゃあ、行くよ。あっさり死なないでくれよ、お願いだからっ!」


 懇願と同時にヤツが正面から突っ込んでくる。

 全身から黒いオーラを放出して、両腕には【闇】を巻き付けるように絡ませているのか。

 いつもなら、【穴】や異能を活用した搦め手で対応するのだが、今回は違う。


「正面から打ち合ってやるよっ!」


 ヤツが望んでいるのは力と力のぶつかり合い。

 再戦を申し込んだ立場として、初手は付き合ってやる!

 繰り出される黒に染まった手刀。

 それを腕で防ぐ。

 連続して突き出されるが、そのすべてを捉え内側から外へと押し出すようにして弾いていく。


「あははははははっ、凄い、凄い! 攻撃が防がれているよ!」

「喜んでもらえたなら、何より、だっ!」


 フェイントを交えながら繰り出される突きの速度が徐々に上がっていく。

 一箇所に留まることなく、俺を中心として円を描くように立ち位置を移動しながら攻撃の手は休めない。

 四方八方から襲いかかる攻撃。手刀だけではなく、蹴りも巧みに混ぜてきている。

 今までは黒のオーラと【闇】で一方的な暴力を押しつけられてきたが、接近戦の技も一流なのか。


「まさか、すべて凌がれるとは。想像以上だよ、守人!」


 フルネームから名前呼びに変わった。親しみを込めているつもりか。

 確かにヤツの攻撃に問題なく対応はできた。軽く戦ってみて感じ取ったのだが、現状は俺の方が強い。

 まだ、俺は異能を使っておらず、ヤツも【闇】の異能のみで対応している。全力ではないことは確かなので油断は禁物だが。


「今度はこっちの番だな」

「待っていたよ、その台詞! 悪党が言われてみたい台詞トップテンに入る名言だ!」


 そのアンケート誰から取ったんや! と望ならツッコミを入れるのだろうがスルーさせてもらう。

 まずはヤツも知っている俺の異能を活用するか。進化バージョンの。

 軽く後方に跳んで距離を開く。そこで俺は腰を少し落として、構えを取る。

 どう考えても腕の届く間合いではないが、ヤツも何かを感じたのか腕を軽く上げて防御の構えを取った。

 俺は大きく息を吐くと、何もない空間に向けて突きを放つ。


「なっ⁉」


 ヤツの驚く声を無視して、何度も何度も拳を突き出す。

 その度に「うおっ」「がっ」「ごっ」鈍い打撃音と細切れの悲鳴が耳に届く。

 ヤツは今、周囲に配置された黒い穴から飛び出した俺の両拳に全身を殴打されている。

 俺は目の前の【ワームホール】に腕を突っ込むだけでいい。

 無数に設置された【ワームホール】の何処から攻撃が来るか予想できず、なんとか【闇】で防ごうとしているが触れる直前に【穴】を空けてしまえば防御の意味を成さない。


 拳に伝わる確かな手応え。

 手の届かない存在だったヤツに今俺は着実にダメージを与えている。それが、確かな自信に繋がる。

 今までの行いが無駄ではなかった、と!

 このまま一気に倒すのは味気ない、なんて慢心が一瞬だけ頭を持ち上げるが押し戻す。

 勝つことを重視しろ。ここからは勝利に徹しろ。

 防御一辺倒で反撃の兆しがないヤツに止めを刺すために【怪力】の異能を上乗せした一撃を全力で叩き込む!

 ヤツに触れる直前、体にまとっていた【闇】と黒いオーラが混ざり合い膨張した。

 拳から伝わる手応えが消えたどころか、殴った右拳から血がほとばしる。


「どういうことだ」


 慌てて手を引っ込めて右手を確認すると、手の皮が裂けて血は出ているがダメージは少ない。

 それよりも、これはなんだ。

 ヤツは今……闇に包まれていた。漆黒の球が地面から少し浮き上がった状態で停滞している。

 あれは【闇】でありながら黒のオーラも感じる。渾然一体となり、同じでありながら全くの別物へと変化したのか。


「まさか、原住民相手にこれを使うとは」


 闇の球内部から昼想の声がする。

 今までの感情をむき出しにした語り口ではなく、淡々と話す声には思わず背筋が伸びるような凄みがあった。


「甘く見ていたことを謝らせてもらう。上位将軍を倒すために隠しておいた、取って置きを披露しよう。自分の異能【制御】を」


 闇の球に無数の線が走ると、そこから花開くように闇が剥がれていき、中から昼想――ではなく、頭から角を生やしたアグリウスタル人が現れた。

 身長が頭一つ分大きくなり、体が一回り膨張している。

 パーカーは跡形もなくはじけ飛び、下のジーパンは限界まで引き延ばされ、所々に穴が空いてはいるが辛うじて原型を留めていた。

 皮膚が黒く変色しているのは闇の影響なのか。それとも生まれつきなのか。


「異能【制御】。本来は相手に影響を与える能力。力を抑え、本来の実力を発揮できなくさせる。だが、自分は常に自分に向けて発動していた。強すぎる実力を隠すために」


 つまり、異能の力で本来の実力を隠匿していた、と。

 まさかの使い道だが、以前ヤツが語っていた「実力を隠している」という発言は嘘ではなかった、ということか。


「ここからが本番。第二ラウンドの始まりだ」


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