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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
三章

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九話

「アーメーリーカー!」


 すみれが海岸で両腕を振り上げて叫んでいる。

 周辺には人っ子一人いないので迷惑行為にはならない。

 俺たちは【ワームホール】を利用したワープの結果、海辺の砂浜に降り立った。

 正確な場所がわからないので地名は不明だが、残骸や辛うじて形を保っている建造物から察するに観光地のようだ。


 左手には白い波が打ち寄せては返す海。

 右手には道路を挟んでホテルやモーテルが建ち並んでいる。

 右斜め前方には巨大な穴――深淵。


 ワープは上手くいったようで、中国からアメリカまで一瞬だった。

 深淵の周りにアグリウスタル人の兵士がいるかと警戒していたのだが、目に見える範囲には生物の姿がない。


「人間がいないのはわかるが、兵士が一人もいないとは」


 異世界と行き来する通路でもある深淵。

 重要な地点なので普通は警備を残しておくべきなのだが。実際、日本も中国も深淵の近くに陣を張っていて常に見張りが常駐していた。


「気配は……ない。オーラも察知できない」


 波と追いかけっこをしている彼女を視界の隅で捉えながら【地獄耳】で音を探る。


 吹き抜ける風の音。

 木々が葉を揺らす音。

 打ち寄せる波の音。

 すみれのはしゃぐ声。


 意識を集中して耳を澄ます。怪しい物音はしない、が気になる点が一つある。

 海風が強い現状で無音という状況はあり得ない。風の音やその風に舞う砂ですら微量な音を発しているから。

 だが、ある一帯だけ完全に無音なのだ。そこだけ空間が削り取られたかのように半円状の無音地帯が存在する。

 可能性としては……【遮断】か。

 元黒服の淵上から譲り受けた【遮断】の異能なら同じ状況を作り出すことも可能。

 周囲の音や気配を完全に防いでしまったのが仇になっている。


「すみれ、こっちに」

「はーい」


 軽い口調でスキップをしながら近づいてきた。

 だが、その目は真剣で俺の意図を察してくれたのだろう。何も気付いていない芝居を続けている。

 以心伝心、一心同体とはまさにこのことだ。多くを語らずとも伝わるのが嬉しい。

 音のない場所には視線を向けずに、その空間より一回り大きな【穴】をイメージする。


「開け」


 こういった場面では先制攻撃の不意打ちに限る。

 巨大な穴が無音の空間を呑み込み、一帯を落とす。


「Aahhhhhh! Shoot!」


 甲高い悲鳴と野太い悲鳴が徐々に遠ざかっていくが、予想もしなかったことに思わず驚きの声が漏れる。


「英語っ⁉」


 悲鳴でも日本語と英語には差があるのか、という妙な感心はさておき人間だったのか。

 かなり深くまで掘る予定だった穴の掘削を三メートル程度で止める。

 穴の縁まで駆け寄り中を覗き込むと、数名の男女が穴底で重なり合っていた。

 その外見は異世界人ではなく外国人にしか見えない。とはいえ、向こうは姿形を偽る道具を所有している。

 穴底から悔しげにこっちを睨む相手と目が合うと、向こうも驚いた顔でこっちを見ていた。


「Chinese?」

「ジャパニーズ」


 咄嗟に英語で返したが発音は気にしないで欲しい。単語ぐらいならわかるが英語での会話力は皆無だ。


「オウ、日本人。ワタシ、日本に少し留学してた。だから、少し日本語話せる」


 ウェーブのかかった金髪碧眼の女性が片言の日本語で話しかけてきた。

 穴にいる人数は六。男女比率は半々。

 全員が二十歳前後に見えるが、外国人の年齢は見た目で判断するのが難しい。


「それはありがたいが、あんたらは何者だ」

「こっちが聞きたいネ。ワタシたちは復讐者リベンジャー。この街の生き残り。みんな異能使える」


 異能所持者の生き残りか。

 日本と違いアメリカは広大だ。大陸の隅々まで探して殲滅させるのは、アグリウスタル人とはいえ至難の業。覚醒者であればヤツらから逃げ延びることも難しくはない。

 信じてもいいが念には念を入れて【読心】を発動。


(日本人と言っているが本当なのか?)

(ヤツらが化けているんじゃ)

(まさか、日本は異世界人を撃退したのか⁉)


 様々な心の声が聞こえるが、アグリウスタル人が演じているようには思えない。それに、心の声は通訳が必要ないので楽でいい。

 内容からして、どうやら信じていいようだ。


「疑って悪かった、元に戻すよ」


 穴を閉じて、彼女らを押し上げる。

 日本語を話せる彼女が俺に歩み寄ると握手を求めてきた。


「ワタシはジェニファー。よろしく」

「俺は石川守人、日本からやって来た」


 手を握り返すと、彼女は屈託のない笑顔を向けてきた。

 身長は俺より少しだけ低い。すみれとは頭一つは差がある。

 金髪碧眼、スタイルもいい。さすがはアメリカン、というのは現代においてはコンプライアンスに引っかかる発想か。

 まあ、こんな滅びかけの世界で気にする人はいないだろうが。


「んー、よく見るといい男ネ。アメリカへようこそ」


 値踏みするような視線を感じた直後、ジェニファーがハグをしてきた。

 あまりに唐突な行動に避けることもできず受け止めてしまう。

 すみれよりも二回りは大きな胸部が押しつけられ、思わず頬が緩みそうになる。これは男としての本能による抗えない反応なので他意はない。


「守人、く、ん。何しているのかな?」


 あー、背中にひしひしと感じる絶対零度の視線。

 振り向かなくてもわかる、すみれが今どんな顔をしているのか。

 記憶が蘇ってから独占欲が強くなった彼女は、俺と他の女性が仲良くすると直ぐに拗ねて嫉妬する。

 それが愛情だとわかっているので迷惑どころか嬉しいのだが、これは俺悪くないだろ、と思わなくもない。


「すみれ、外国ではハグなんて挨拶みたいなものだから」

「嫌いな人にはやらないよ」


 フォローしたのだから黙って欲しい。


「日本人は日本人が考えたテンプレアメリカ人のスキンシップ多めのノリが好きなんでしょ? 日本に居たから知ってる」


 ウィンクをしながら微笑むジェニファー。

 狙ってやっていたのか。くそっ、否定できない。


「も、り、ひ、と、く、ん」


 指先にオーラを集めて背中をぐりぐりするの止めてもらっていいですかね、すみれさん。

 俺はジェニファーを押し返し、魅惑的なハグ……束縛から逃れる。


「まずは情報交換しないか。ここの現状を知っておきたい。いや、その前に一つ質問がある」

「スリーサイズが知りたいの?」


 この切り返し、わかっているなジェニファー。


「もしかして、日本のアニメとかカルチャーが好き?」

「イエッス。アニメオタクが興じて、日本語覚えて留学した」


 だと思った。日本人が抱いている理想のアメリカ人っぽさをあえて演じているようだ。


「守人君、質問は?」


 うっ、背後から釘を刺された。「余計な会話はするな」という圧を感じる。


「そうだった。ここの深淵消しても大丈夫?」


 俺の言葉を聞いたジェニファーたちは狂った人を見るような目で俺を凝視してから、オーバーに肩をすくめる。


「ナイス、ジョーク。やれるものならやってみて欲しいね」

「許可が下りたようだ。ちょっと待っていてくれ」

「えっ、あっ、ジョークでしょ?」


 戸惑うジェニファーの声を背に浴びながら深淵に近づいていく。

 穴の直径は中国と同じぐらいか。これなら問題ない。

 いつものように飛び降りて巨大な【ワームホール】の側に着地した。

 あふれ出す紫のモヤに触れ、強く念じる。

 三度目となると慣れたもので、あっさりと【ワームホール】が消滅した。

 残っているアグリウスタル人への嫌がらせも兼ねて、深淵の穴を埋めておくか。

 底からせり上がるようにして穴を埋めていく。

 ゆっくりと上昇しながら現れた俺を目の当たりにして、ジェニファーたちは顎が落ちそうなぐらい大口を開けて驚いている。


「それじゃ、情報交換を……はあ、邪魔者がきたか」


 遠くの方で点にしか見えないのはアグリウスタル人の兵士たち。

 道路の向こう側から全速力で迫ってきている。

 何かを叫んでいるようだが、ここまでは距離があるので【地獄耳】で声を拾う。


『どうなっている! ワームホールは、穴は、何処に⁉』

『綺麗さっぱり消えているぞ!』

『あそこに見える原住民がやったのか?』

『いや、あいつらは復讐者を名乗る生き残りだ。そんな力を持つ者はいないはずだ!』


 理解が及ばず取り乱している。

 兵士の数はざっと五十、いや、六十は超えているか。


「ヤバい! 逃げないと守人!」

「Hurry! Hurry!」


 俺とすみれの腕を掴み逃げ出そうとするジェニファーだったが、微動だにしない俺たちを見て目を剥いて驚いている。

 ジェニファーは無意識なのか意図的にやっているのかはわからないが、リアクションが大きいから見応えがあるな。


「大丈夫、あれぐらいなら問題ない。すみれ、ジェニファーたちの護衛を頼む」

「任せて。いってらっしゃい」


 信用しきっている彼女に見送られ、俺は迫り来る兵士たちへと駆け出していった。


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― 新着の感想 ―
金髪碧眼、スタイルもいい。さすがはアメリカン、 そばかす、テンガロンハット、星条旗柄ビキニ追加で。
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