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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
三章

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六話

 視界の先に広がるのは廃墟と化した、北海道の町並み。

 幾つもの縦線――錆の浮いた鉄格子が邪魔だが、周りの景色はよく見える。

 街は完全に瓦礫と化しているわけじゃない。五軒に一軒ぐらいの割合で建物が形を保っていた。

 足下に視線を移すと、穴が空いている。俺がすっぽり入れるぐらいの大きさの穴が。

 視線を上げると対面に正座して座っている彼女――すみれと目が合う。


 艶やかだった髪はボサボサで、真っ白だった肌は日に焼けている。もちろん、化粧なんてしていない。

 服装は薄汚れたTシャツとジャージ。誰もいないショッピングモールのスポーツ店から、ヤツらが盗んできたものだ。俺も同じ服を着させられている。

 みすぼらしい格好をしていても彼女は綺麗だ。十代の若さは失われているが、大人としての魅力が増している。この頃は二十代半ば、か。俺が三十手前だったはず。


 ここは……檻の中。

 そして、俺が初めて【穴】の異能を発動した瞬間だ。


「ちゃんと戻ってこれたんだ。うちの可愛い息子、豪君の言うとおりだったね」

「そう、だな」


 豪君か。俺たちの息子なんだから、その呼び方で間違っていない……はずなんだが、違和感が凄まじい。あの外見で六十手前の年齢。

 可愛い息子、か。可愛い? いや、まあ、子供だから間違いはないのだが。

 制御方法を学んだ俺は話し合いの後に【ワームホール】を発動させて、すみれと一緒に飛び込んだ。仲間たちに別れの挨拶は……しなかった。

 俺たちは強くなって仲間と共にアグリウスタル人を倒す。その為に再び過去に戻ったのだから。

 これは一時の別れでしかない。ここでどれだけ時間が経過しようと、あの世界では一瞬の出来事。湿っぽい別れは必要ない。


「えっと、今は捕まって奴隷になってから五、六年ぐらいかな」

「おそらく。俺が初めて異能を発動した瞬間だ。穴は戻しておこう」


 ここは一番初めの0世界。

 オーラは出せたが異能に目覚めることなく侵略戦争が始まり、敵に捕まり何年か経過した後にようやく異能【穴】に目覚めた。

 過酷な奴隷生活の日々で贅肉はそぎ落とされ細身ではあるが、筋肉質の引き締まった体つきをしている。すみれも別世界の彼女より痩せている。


「あの頃の私たちは無力で、誰も助けられなかった」

「ああ、だが、今は違う」


 そう、今の俺は7つの平行世界を移動して、膨大な力を手に入れた。

 助けを求め、英雄が来るのを待ち望んでいた無力な自分とは……違う。


『おい、何をごちゃごちゃ話している。奴隷は這いつくばって空気だけ吸ってろ』


 異世界の言葉が聞こえたかと思えば、鉄格子を蹴られて檻が少し揺れる。

 視線を向けると、頭から角の生えたアグリウスタル人の兵士が俺たちを睥睨していた。

 この顔は忘れようがない。

 数年間、俺たちの見張りを担当していたヤツだ。常に罵倒し、気分次第で暴行を加え、力尽きるまで穴掘りを命じ、虐待の日々を過ごさせてくれた憎むべき相手。


『なんだぁ、その目つきは。まだ、てめえらの立場がわかってねえのか? てめえらは、奴隷。俺の気分次第で生かされている、きったねえオモチャなんだよっ!』


 侮蔑の言葉を並べながら、檻を蹴る足は止めない。

 ガンガンと耳障りな音と、不快な振動が続いている。

 俺は腰を上げると、ヤツと俺とを遮る鉄格子の前に立つ。


「おいおい、その反抗的な態度はなんだ。どうやら、特別なお仕置きが欲しいようだな。いいだろう、今日はサービスで腕だけじゃなく脚も折ってや――」


 ヤツがそれ以上話すことはなかった。いや、話せなくなった。

 鉄格子をくり抜くように【穴】を発生させ、遮るモノが消えた空間に右腕を伸ばしたからだ。

 積年の恨みを込めた俺の拳はヤツの頭を陥没させ、首から下を置き去りにして遙か遠くまで吹き飛んでいく。


『おい、そこのお前! 今、何をした⁉』

『奴隷が脱走しようとしているぞ!』

『囲め、囲め! 絶対に逃がすな』


 少し離れた場所で飯を食っていた兵士たちが一斉に駆け寄り、檻から出た俺とすみれを包囲する。その数は二十程度か。

 鼻息荒く俺たちを取り囲んでいるが、その目には怯えの色が見えた。

 昨日まで従順で怯えていた奴隷が、急に手の平を返して仲間を殺し、平然とした態度で立っている。あちら側からしてみれば恐怖でしかない。


『なんの真似だ! 我々に刃向かうというのか、原住民ごときが!』


 威圧的な態度は恐怖の裏返しか。

 これだけの人数差にも関わらず、俺もすみれも平然としている。


『私も手伝う?』

『いや、俺に任せてくれ。万感の思いを込めて……すべて吹っ飛ばす』


 ヤツらに伝わるように、あえて異世界の言葉で話す。


『ふざけやがって、ぶっ殺してやる!』

『お、おい。殺害は禁止だろ! 将軍にどやされるぞ!』

『構いはしねえ! 自殺した、とでも言えばいい!』

『じゃあ、女の方も用なしか。そいつはまだ殺すな、後で目一杯楽しんでから殺そう』


 【ワームホール】に目覚めさせる目的で俺は生かされていた。だから、下っ端の兵士が俺をいたぶることはあっても、殺されることはなかった。

 当時の俺は気づきもしなかったが、ちゃんと命令は伝わっていたのだな。すみれが死ねば俺も自暴自棄になって自殺しかねない。だから、彼女も生かさず殺さず……。


『御託はそれぐらいでいいか?』

『舐めるなよ、原住民風情がっ!』


 四方八方から一斉に襲いかかってきた。

 一番始めに接近した右側の兵士の顔面を右拳で吹き飛ばす。

 そのまま勢いを止めずに回し蹴りで、二人目、三人目の頭を刈る。

 仲間が抵抗する間もなく殺される様を目の当たりにして、兵士たちに迷いが生じたのか動きが鈍くなった。が、見逃してやる義理はない。

 腹、首、胸と続けざまに突きを放ち、肉も骨も内臓も破壊する。

 瞬く間に十名の兵士が屍と化した。

 力の差に愕然として怖じ気づいた兵士たちが、一斉に踵を返し逃げ出すが……見逃すかよ。


「開け」


 ヤツらは足下に開いた巨大な穴に呑み込まれ、悲鳴が徐々に遠ざかっていく。

 穴を覗き込むが暗闇しか見えず、遙か下にある穴底で全員が落下死していることだろう。


「お疲れ様。あっさりだったね」

「今の実力なら、こんなもんだ」


 すみれの労う言葉に平然と返す。

 この程度の兵士相手なら何十人を同時にしても勝てる自信がある。


「私たちはここで戦って、倒した相手から力を奪って強くならないといけないんだよね」

「ああ。普通に鍛錬をしたところで強くなりすぎた俺たちの伸び率は微々たるものだ。だが、アグリウスタル人を倒してオーラを取り込めば、まだまだ強くなれる」


 オーラを所有している者を倒すことで、そのオーラを取り込み自身が強くなる。兵士たちのオーラ量は少ないが、数だけは多い。

 北海道だけではなく日本、世界各地で人間狩りが行われている。ヤツらが侵攻してきてから五年が経過した現在、地球の敗北は決定され、今は地球人を完全に滅ぼすための掃討作戦中。

 侵略時に猛威を振るった将軍の大半は自国へと帰還していて、地球にいるのは下っ端の兵士が大半で数名の将軍だけで行っている。それも昼想と同程度の地位にいる、九十番台。


 というのを、殺さずに残しておいた兵士から【読心】で聞き出したところだ。

 欲しい情報を手に入れたので、そいつは穴に埋めておいた。


「えっと、異世界と地球を繋ぐ深淵の大半はもう消えてるんだよね?」

「そうらしい。多くの兵士は撤退しているからな、もうこの地球に興味もないのだろう。残された深淵は……ここ、北海道。そして、アメリカと中国の三箇所のみらしい」

「じゃあ、まずはここだね。深淵までそんなに遠くないし」

「だな。さっさと片付けるとするか」


 全身から紫色のオーラを噴き出すと、すみれも負けじと青のオーラを放出する。

 ここから目的地まで少し距離はあるが、今の俺とすみれならあっという間にたどり着ける。





「殲滅完了」

「意外と早く片付いたね」


 深淵近くで陣を張っていたアグリウスタル人の兵士たちを正面からなぎ払い、すべてを葬った。

 圧倒的な力量差による、一方的な殺戮劇。

 俺は血に飢えた殺人鬼ではないが、ヤツらを倒すことになんの躊躇いも迷いも生じることはない。

 死体はすべて【穴】に放り込み、俺の糧となってもらう。


「この世界でも、おっきいね。当たり前だけど」


 すみれが深淵を覗き込みながら、自分で言ったことに苦笑している。

 深淵――すべての元凶。

 異世界と繋ぐ【ワームホール】。大量の人員を運ぶことが可能な侵略戦争の要。

 これさえなければ、地球が滅ぼされることはなかった。

 俺とすみれは目配せをして深淵に飛び込む。

 もう慣れてしまった落下する感覚。以前の俺なら恐怖を覚えていたのだが、今はなんてことはない。


「ジェットコースターとか苦手だったけど、今なら大丈夫そう」

「そうだろうな」


 落下中だというのに暢気なことを口にする彼女。こんな状況下でも、すみれの存在は俺を和ませ、いつだって人の心を取り戻させてくれる。

 暴力と血と死に染まりかけていた俺を、何度でも引き戻してくれる。

 最下部に到達した俺とすみれは、あっさりと着地する。今更、この程度の高さで死ぬほど柔な体をしていない。

 俺たちは深淵の【ワームホール】に飛び込んだのではなく、その縁の地面に降り立った。


「そこで待っていて」

「うん、気をつけてね」


 心配する彼女に軽く手を振り、紫色のモヤを今も輩出し続けている巨大な【ワームホール】の手前で膝を突く。

 そして、手を伸ばして【ワームホール】に触れると、目を閉じて意識を集中する。

 異能の力が格段に上がり、制御方法を学んだ今の俺ならいけるはず……いや、いける!

 目をカッと見開き、全身からバイオレットオーラを全力で放出!


「閉じろっ!」


 【穴】の異能でなんどもやってきた、掘った穴を閉じる行為。

 それを、この巨大な【ワームホール】で試す!


「ぐああおおおおっ、ぐおおおおおああああああっ!」


 裂帛の気合いを放ち、全身全霊の力を込め、強く、強く念じる。

 ヤツらが二度とこの世界に現れないようにするため、この元凶は絶対に閉じなければならない!


「閉じろおおおおおおおおおおっ!」


 俺の紫色のオーラが【ワームホール】の紫色のモヤと混ざり合い、渦を描き、ひびが入っていく。

 更に限界までオーラを振り絞り、注いでいく。

 あと少し、あと少しなんだ。

 全身から力が抜けていくが、執念だけで意識をつなぎ止め、限界の縁で踏みとどまる。

 本当にもう少しで手が届く。俺の今まで足掻いてきた人生が、ここで――


「頑張って、守人君!」


 俺の背に触れる手。そこから流れ込む温かく青い光が全身に浸透していく。

 これはすみれのオーラかっ!

 彼女の力が、想いが、最後の一押しをしてくれた。

 目の前で【ワームホール】に亀裂が広がっていく、縦横無尽に。

 亀裂からあふれ出した光が徐々に大きく眩く輝き――破裂した。

 目の前にあるのは地肌がむき出しな穴の底。紫色のモヤは何処にもない。


「やった、やったぞっ!」


 穴底から天に向かって吠える。

 熱いモノが頬を伝うのを感じた。そうか、俺は涙を流しているのか。


「やったね、やったね」


 正面から抱きついてきた彼女の温もりを感じ、全身の力が抜けた俺は腰を突いた。

 これで、目的の一つを達した。

 ここからだ、これからだ、俺の……俺たちの反撃は!


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― 新着の感想 ―
何年にもわたって自分を虐待してきた相手でもあっさり殺して「即死」させてあげるというのはある意味「優しさ」のような気がします。 主人公もすみれもとても優しい人なんですね。 ちなみに古代中国の刑罰で、人…
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