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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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二十八話

「長いわっ! どんだけ喋んねん!」


 自分語りを終えたヤツは満足した顔で天を仰いでいる。

 そんなヤツに向かって望が吠えた。


「過去を明かすシーンってのは簡潔にまとめんとあかんやろ!」

「そうですよ。過去話というのは扱いが難しくて、視聴者や読者が興醒めしてしまい客離れを招く原因にもなりかねませんからね」


 望に追従して七節までもが文句を口にしている。……誰目線なんだ。


「やれやれ。これから立志編が始まる予定だったのだが」

「もう、ええって!」


 ヤツは肩をすくめて、頭を左右に振る。

 その動作すら芝居じみていて、安っぽい演劇を眺めている気分になってくるが、相手はこちらの力が及ばない強敵であることを忘れてはいけない。

 言動の数々で緊張が緩みそうになるが、改めて引き締め直す。

 無駄に思える自分語りだったが、ヤツの行動原理が理解できたのは大きい。

 一つ、別の策を思いついた。普通に戦えば勝てる可能性は1%……いや、もっともっと低い。宝くじの一等を当てるぐらいの幸運を引き当てない限り無理だ。

 ならば……。


「一つ提案がある」


 素早く考えをまとめて話を持ちかける。一か八かではあるが、確率で考えるならこっちの方が遙かにましだ。


「何かな?」


 圧倒的強者の余裕。神無月が消滅したことを警戒しているとはいえ、俺たちがヤツの足下にも及ばないとわかっている故の、傲慢さによる立ち居振る舞い。


「お前は強くなりたい。その為に俺を利用したい。ここまでは間違ってないか」

「その通り! 今でもとんでもなく強いのだが、まだまだ目標には届かない。更なる力を手に入れるために、自分と共に時間逆行を繰り返そうではないか!」


 ヤツには別世界が増えることへの葛藤がない。

 自分のことしか考えておらず、他人がどうなろうが知ったことではない。

 だから、【ワームホール】に飛び込み時間を遡ることに抵抗がない。楽に力を増幅させられる、便利な道具程度の認識か。


「提案に……乗ってもいい」


 その言葉を聞いた仲間たちが一斉にギョッとした顔を向ける。

 声を聞かなくてもわかる「何を言っているんだ⁉」と表情が叫んでいた。


「おー、物わかりが良くて助かるよ。さすが、親友。心の友よ」


 笑みが更に深くなり、感動を全身で表現しているつもりなのか、その場で一回転した後に両腕を広げて上半身を仰け反らしている。


「ただし、予め伝えておくが、この方法では無限に強くはなれない。回数が増える度に体と精神への負担が増えていく。実際、お前はまだ一回目だから少し気分が悪い程度だろうが、俺は既に三回行い限界が近いのを感じている」


 あえて真実を口にする。

 回数制限があることを伝えることで、俺の負担が大きいことを理解させる。それにより、俺への対応も変わってくるはずだ。


「ほう、そんなデメリットが。自分が耐えられても先にそちらが死ぬ、と。納得するまで強くなった暁には、キミを葬るつもりだったのだが手間が省けて助かる」

「そうだろうとは思っていたが、口に出すのか」


 利用し尽くした後に処分する。よくある話なので驚きはしないが、なんでも素直にバラし過ぎだろ。


「繰り返すことで強くなるのは自分もキミも同じだからね。最大の脅威となるのは間違いない。ならば、始末するに越したことはあるまい」

「違いない」


 本来なら怒る場面なのかも知れないが、わかっていたことだ。そんな希望は端から抱いていない。


「とはいえ、少しの慈悲ぐらいは期待してもいいだろ。俺が自滅するまで付き合ってやるから、地球に手を出さないと約束してくれ」


 世界が分岐して多くの別世界を作り出すことになるだろう。

 だが、指揮官であるヤツの権限があれば、少しの間だけでも殺戮はなくなる。侵略戦争はヤツの判断でどうにかなるものではない。それでも、たった数年ではあるが平穏な日々が約束される……はずだ。

 それにこの3世界から昼想がいなくなれば脅威が一つ減る。


「OK、OK。それぐらい構わないさ。上にも進言しよう、話が通るとは思えないが。結果はどうあれ、自分が強くなれればあとはどうでもいい」


 予想以上に事が上手く運んでいる。

 あとは、時間逆行を繰り返すことでヤツを強化させ世界を延命させる。……それしか今は手が……ない。


「だが、わずかな可能性も排除しておく必要がある。自分はこう見えて小心者で繊細でね」


 その言葉を聞いて悪寒が走った。

 理屈じゃない。頭で考えるより早く体が動く。

 隣にいた、すみれを咄嗟に引き寄せて抱きしめた。

 ――瞬間。地面から伸びた黒い闇が、望、七節、淵上を股下から両断した。

 真っ二つに裂け、無惨な死体を晒す仲間たち。

 あまりの衝撃に思考が体が……止まる。


「いやああああああっ!」


 これまで気丈に振る舞ってきた彼女だったが、凄惨な現場を目の当たりにして絶叫がほとばしる。


「どういう、こと、だ」


 怒りで爆発しそうな感情をギリギリで抑え込み、なんとか言葉を口にする。


「何か勘違いしているようだが、主導権はこちらにある。自分がわかり合える存在に見えていたのかい? 悪役を、道化を、演じることで油断してくれるのは自由だが、立場をわきまえろ」


 冷たく言い放たれた言葉が重くのしかかり、再び重圧が蘇った。

 膝を突きそうになるが、なんとか堪えながら睨みつける。……せめてもの抵抗とばかりに。


「さっすが、リーダー。ようしゃないね」

「強くなるのは自分だけでいい。他は邪魔でしか、ない」

「えっ?」


 冷笑を浮かべるヤツの目の前で日輪の首が宙を舞った。


「ペットも必要ない。さて、親友よ。キミの功績に免じて、彼女の存在だけは許そう。彼女はキミにとって特別な存在のようだからね。殺せば、何もかも投げ出して自害しかねない。そうだろ?」


 悔しいが俺のことを把握している。

 もし、今の惨劇で彼女が犠牲になっていたら、玉砕覚悟で突っ込んでいた。それ程までに彼女の存在は大きい。……自分の命よりも。


「では、早速だが時間逆行をお願いしようかな」


 仲間を殺したヤツに従うのは屈辱でしかない。だが、俺は黙って立ち上がる。

 もう選ぶ権利も、他の方法も存在しない。


「その前に彼らを埋葬させてくれ」

「この国では死者を穴に放り込み埋葬する。我々アグリウスタル人はゴミを穴に捨て浄化する。似て非なる風習だが。それぐらいの猶予は与えよう」

「そいつもついでに葬って構わないか」


 ヤツに裏切られ殺された日輪を指差す。


「侵略者すら埋葬するというのか。好きにすればいい」


 許可を得たので、仲間と日輪を穴に埋めて閉じた。

 すみれと共に手を合わせて冥福を祈り、謝罪する。


「守れずに、すまない」

「みんな、ごめん……ね」


 また、二人だけ生き残ってしまった。

 彼女と二人きり。こんな状況でなければ喜ぶことなのだろうが、今はただただ虚しい。


「さあ、弔いが終わったのなら、そろそろ初めてもらえるかな」


 辛抱が限界に近いのか、自分の体を抱きしめて身悶えしている。

 ヤツにとって殺しは罪悪感を抱く行為ではない。それこそ息を吸うのと大差ないのだろう。わかっていた、わかってはいたが、改めて相容れない存在だということを心に刻む。


「じゃあ、跳ぶぞ。俺の……限界に達するまで」





 四回目の時間逆行で4世界に到達。

 頭が軋み、視界が激しくぶれているが堪える。

 身構えていたので、前回よりは立ち直りが早い。

 目の前には大穴があり、選抜隊の兄弟が穴の底で恨めしげにこちらを睨んでいる。

 隣に小さな穴を空けてから、鉄パイプを投げ込む。

 弟を容易く貫き、兄の方は咄嗟に【反射】で跳ね返したが俺の【反射】ではじき返して葬る。

 もう、作業でしかない。


 すみれに連絡を取り、望、七節、静先生に事情を話す。

 最後まで揉めて着いてこようとしたが、なんとか説得をした。着いてきたところで殺される未来が待っているだけだと、わかってくれた。納得はしていなかったが。

 深淵の縁に立ち、すみれと一緒にヤツを待つ。

 また過去に戻ったことで力が増大している。単純計算で倍に増えた。

 だが……ヤツも同じく倍に増えているのだ。俺が倍々に強くなろうと、同じ速度でヤツも成長する。

 結果、力の差は開く一方。


「やあ、待たせたね。じゃあ、跳ぼうか」


 いつの間にか現れていたヤツの指示に従い、俺たちは再び【ワームホール】に飛び込んだ。





 五回目の時間逆行。5世界に到達。

 更に力が倍になる。3世界の自分と比べたら四倍。

 同じ事を繰り返す。





 六回目、6世界。

 3世界と比べたら八倍に増加。

 同じことをする。





 七回、7世界。

 十六倍。

 頭が割れるように痛い。全身の骨が軋み、内臓がミキサーにかけられたのかと思うほどに痛みと不快感が凄まじい。

 自分の体が限界なのを理解した。あと一回、時間逆行を行えば俺は……死ぬ。

 思ったよりも耐えられたのは、皮肉にも繰り返すことで自分の体が強化され、尋常ではない耐久力を手に入れたからだ。

 すみれに連絡を取ったが、彼女も限界が近い。俺より回数が一回だけ少ないので負担は減っているが、それでも次は耐えられない。

 合流した俺たちは、いつもの深淵の縁で並んで座っていた。


「これで最後だね」

「すまない、こんなことに巻き込んでしまって」


 肩を寄せ合い囁く二人。

 まだ、時間逆行の影響が抜けないのか、すみれの目の下にはクマがあり疲労が見て取れる。

 俺はもっと酷い顔をしているのだろうな。


「ううん、謝らないで。一緒に過ごせて嬉しかったから。一人で何もかも背負い込んで、私を置いて行かれるのが何よりも怖いんだよ。だから、一緒にいれて嬉しい」


 こんな状況で微笑み感謝の言葉を口にする彼女。

 彼女を抱きしめると、熱い口づけを交わした。


「おっと、もう少し後で来るべきだったかな」


 他人の神経を逆なですることに特化した、ヤツの声が聞こえた。

 二人同時に立ち上がると、正面からヤツを見据える。

 俺たちと違って上機嫌を具現化したかのような表情と態度。

 ステップを踏みながら、こちらへと近づいてくる。

 ヤツを目の当たりにして理解してしまう。化け物なんて生易しい存在ですらない。

 近づかれるだけで死を受け入れそうになるぐらいの存在感と圧迫感。呼吸をすることすら忘れそうになる。

 今のヤツが本気を出せば、地球を征服することなど赤子の手を捻るよりも容易い。


「ごめん、ごめん。これじゃ、萎縮して力を発揮できないか。これでも極力抑えているつもりなのだが」


 全身にのしかかってくる重圧が和らいだ。

 完全に消滅したわけではないが、この程度なら耐えられる。


「既にアグリウスタル人の頂点に立つ、一将にも勝てる実力のはずだが、念には念を入れないといけない。キミには申し訳ないが」


 感情のこもっていない謝罪の言葉。

 俺の生き死になど気にも留めていないくせによく言う。……いや、強くなるための便利な道具が壊れるぐらいの焦燥感は持ち合わせているのか。


「これで親友でもあるキミと、さよならになるのか。悲しいよ」

「俺は清々するけどな」

「うーん、最後までわかり合えなかったか、残念だよ。ならば、とっとと始めたまえ」


 戯れ言をぶつけ合い、俺もヤツも満足したようだ。

 すみれと手を繋ぎ、穴の縁ギリギリまで移動する。

 眼下には深い深い穴が広がり、深い闇が佇んでいるだけ。


「闇と穴の組み合わせ。まさに、自分とキミのようだ」


 何か言っているが聞き流し、最後にもう一度彼女の顔を見つめる。

 彼女はこんな逆境でも優しく微笑み、俺の手を強く握りしめた。

 それで、充分だ。

 覚悟は――決まった。


「行くぞ」

「ああ、いつでも構わないよ! さあ、最強の力をこの手に!」


 俺とすみれが呼吸を揃えて、穴へと飛び込む。

 続いて、ヤツが身を投じた。

 重力に負けて落下する感覚にも慣れてしまった。恐怖を感じることもなく身を任せる。


「最後にありがとう、と言わせてもらおう。最初にして最後の親友よ」


 逆さの状態で落下中にも関わらず、握手を求めて手を差し伸べてきた。

 左腕はすみれを抱えているので右手を伸ばし、やつの手に触れる直前に拒絶の意志を秘めて叩く。


「ふっ、最後まで態度を曲げないか」

「最後はお前だけだ」

「この期に及んで負け惜しみと強がりかい。去り際は足掻かない方が印象はよいのだが」


 呆れた表情のヤツをじっと見つめる。

 この状況下でも希望を失っていない俺の顔を目の当たりにして、ヤツの表情から余裕が消えた。


「何を考えている。起死回生の一手でも思いついたとでも言うのかい? これほどまでに圧倒的な力の差があるというのに」


 考え込む素振りを見せたが、直ぐに一笑する。

 何をされようが通用しないという自信があるのだろう。ここまで力の差が開けばそうなって当然だ。

 これまで、俺はずっと抵抗の素振りすら見せず大人しく従っていた。

 一度目、二度目まではある程度警戒はしていただろう。だが、最後になる今回でヤツの警戒心は消えた。すべて、この時のための布石だとも知らずに。


「お前は順調すぎるぐらいに順調に力を得て、万能感に酔い、当初の疑念を忘れてしまった。一番警戒すべきことを」


 この方法は確実ではない。だが、ヤツを倒す唯一の可能性。

 俺はそれに賭ける!


「何を言って……まさか、神無月を消した方法を……。だが、そんな手が使えるならもっと早く」


 これ以上ネタばらしをして、反撃をされたら一瞬で勝負がついてしまう。

 動揺を隠せていない、この勝機にすべてを託す!


「墓穴よ、浄化しろ!」


 大穴が目も眩む光を発して、俺と目を閉じているすみれと、驚愕の表情を浮かべ何かを叫ぼうとしたヤツを呑み込む。

 目蓋越しでも伝わってくる眩い光が収まったので目を開けると、ヤツの姿は――消えていた。まるで、始めからそこに存在しなかったかのように。


 あまりにも呆気ない決着。


 安堵の息を漏らすのも確認も後回しだ。穴の底にもう直ぐ到達してしまう。

 俺は落下地点に【ワームホール】を発動させて、その中へと飛び込んだ。

 ふっと、体が浮くような感覚の後に足下から伝わってくる確かな感触。

 さっきの【ワームホール】は時間逆行ではなく転移するためのもの。以前はできなかった芸当だが、今の実力ならワープ程度は容易い。


「守人、君。上手くいったの?」


 正面から抱きついたままの格好で、すみれが上目遣いでこっちを見ている。


「ああ、目論見取り、完璧にやれた」

「気付かなかったんだね。この穴が深淵を上書きした守人君の【墓穴】だってことに」


 そう、深淵に重なるように一回り大きな【墓穴】を事前に俺が開けていた。

 以前の俺なら、そんな巨大な穴を作ることは不可能。どう足掻いても無理。

 だが、何度も時間逆行を繰り返し、異能の力を強化した結果、それが可能となった。

 強くなっていたのはヤツだけではない。実力差は広がる一方だったが、そんなことは関係ない。俺がこの計画を可能にできるだけの力を手に入れる。それが当初からの目的だった。


「浄化か」


 【墓穴】に落ちた者を問答無用で世界から消滅させる。その一点に希望を託し。

 ヤツの願いも野望も綺麗さっぱり浄化されたようだ。存在と共に。


「私たちが助かったのは淵上さんの異能のおかげなんだよね」

「この【遮断】がなければ、俺たちも消滅していた」


 3世界で死んだ淵上さんを穴に葬ったことで、俺は力を譲渡された。

 異能すら遮り通過させない能力を有する異能【遮断】を。

 すみれと俺を【遮断】で包み込むことで浄化から逃れ、ヤツだけを消滅させることに成功。

 この力を使えば【ワームホール】に飛び込んだ際の負担を無くすことが可能だったかも知れない。だが、ヤツに悟られないために今まであえて使わなかった。


「これでもう、時間逆行をしないで済むんだ。よかったー」

「問題は山積みだけど、今は何もしたくない」


 二人揃って地面へ大の字に寝転び、空を見上げる。

 雲一つない青空が視界を埋め尽くし、頬を撫でる熱風が吹き抜けた。

 今まで気温を感じる余裕すらなかったが、今は夏真っ盛りだったか。


「すみれ、この後プールにでも行こうか」

「うん。行こう、行こう!」


 さっきまで命懸けの死闘をしていたとは思えない会話だが、こんな日常を守るために俺は戦った。

 なら、その褒美として、少しぐらい幸せを噛みしめることは許されるはず。

 一つの脅威を退けたに過ぎず、侵略戦争すらまだ始まっていない。

 問題は山積みだが、今だけは怒りも未来への不安も穴の底に埋めてしまおう。

 安らかに眠ってくれ。再び掘り出すまでは。



二章の最終話になります。

三章が最終章の予定ですので、しばらくお待ちください。

次の投稿は一週間かもう少しかかるかも知れません。

最後まで気合い入れて書きますよー。

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― 新着の感想 ―
しかし、こんなのがあと90人以上いるのかw
昼熊さんの繰り返し系と強敵を作戦で倒す話大好きです!
呆気ねえ、あんな強敵感出して…あれ?何か忘れてるような?(あえて言わん)
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