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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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二十五話

 太陽が頂点に差し掛かった、夏の真昼。

 豪先生の口利きで見張りをしていた自衛官に侵入を許され、フェンスを超えて深淵の縁に立っている。

 深淵から異世界の空気が流れ込んでいる影響で草木が枯れ、生物の気配は全くない。

 今から一年後には急ピッチで建造された境界壁にぐるっと取り囲まれることになるが、今は簡易のバリケードとフェンスのみ。


 現在、この場所に近づける地球人はオーラを使える俺たちだけだ。

 ここなら他人の目を気にせずに暴れることができる。

 着信音と振動がポケットから伝わってきたので取り出し、名前を確認してから着信ボタンをタップした。


『昼想と日輪の二人が空港を出てタクシーを拾ったとの連絡がありました。進路方向から察するに、やはりそちらに向かっているみたいです』


 静先生の説明を聞いた仲間たちの顔に緊張が走る。

 予想通りの展開で覚悟はしていたが、ヤツの脅威を知っているからこその反応だ。


「神無月はいないのですか?」

『そうね。二人だけしかいないわ。神無月の情報も集めているのだけど、目撃証言すらなくて』


 ……空港から別の便で移動した可能性は消していいのか?

 なら、他の移動手段か。飛行機が無理なら船しかないが、別々に移動して監視の目を割くのが目的なら、船の移動方法は飛行機に比べてあまりにも遅い。

 目的地には間違いなく昼想と日輪が先に着いてしまう。それだと、戦力ダウンをしただけにしかならないか。


 目的がわからない。何かもっと別の考えがあるのかも知れないが、それに意識を持っていかれて本命の対策がおろそかになっては本末転倒。

 ただ、ずっと……一つだけ引っかかっていることがあった。


「とりあえず、二人に集中しつつ、神無月の情報収集も続けて下さい。それと……韓国で発生した深淵に巻き込まれた身元不明の遺体に、神無月と似た外見をしている日本人がいないか調べてもらえませんか?」

『身元不明の遺体? ええ、わかったわ。至急、調べてみる』


 ただの憶測でしかないのだが、調べておいて損はないはずだ。


『私もそっちに向かっている最中だから。戦闘力に関してはみんなに劣るけど【鑑定】と青のオーラで援護や治癒は担当できると思う』

「ありがとうございます」

『何かあったら、また直ぐに連絡するね』


 通話が切れた。

 戦力で考えるなら豪先生がいれば頼もしいが、この時点ではまだオーラにすら目覚めていない。戦いに参加されても足を引っ張られるだけだ。

 時間逆行の影響で今が何時なのか混乱しそうになるが、深淵が現れてからまだ三日しか経過していない。

 この世界でオーラと異能を使える地球人は俺、すみれ、望、七節、静先生、淵上の六名のみ。

 これ以上の増援は期待できない、というより存在しない。

 時間逆行を三度行った影響で世界は0世界、1世界、2世界、3世界に分かれた。分岐した世界を渡り歩く度に強さが増している。


『開示』


 何度も見返している能力パネルを起動させて、自分の能力を再確認する。

 筋力、敏捷力、耐久力、精神力、知力の項目は1世界の初期値とほぼ同じ。オーラを使わない状態での身体能力なので、一般人と比べてそこまで大きな差はない。

 注目すべき点はそこじゃない。能力が重要になってくる。

【バイオレットオーラ】は言うまでもないが、異能の存在が勝敗を大きく分けることになるだろう。


【穴】【譲渡】【地獄耳】【読心】【反射】【怪力】【硬化】

 それに加えて異能職である【墓守】


 これが俺のすべて。

【地獄耳】はヘルハウンド。【読心】は選抜隊の兄弟二人。【反射】は兄。【怪力】【硬化】は日輪から奪った異能。

 島での戦いで多くの異世界人兵士を倒し、何人かは埋めたのだが異能は増えなかった。正確には【読心】【怪力】【硬化】を所有している兵士が何人かいて、その力が加算されてはいる。

 だが【読心】は既に何度も兄弟から奪っているからなのか能力強化の割合が低い。ゲームで例えるならレベルが上がりすぎて、少しの経験値では次のレベルに上がらない、といったところか。


 【怪力】【硬化】に関しては、日輪の異能が既にかなり強い――レベルの高い状態だったらしく、兵士たちから得た異能の程度では誤差の範囲らしい。

 それでも、強化されているのは間違いないので、それ以上を望むのは贅沢な話か。

 ちなみに【読心】【怪力】【硬化】は、アグリウスタル人の間で習得方法が広まっている。なので、下級の兵士たちは最低限どれか一つは強制的に覚えさせられるそうだ。

 この知識は選抜隊兄弟の夢から得た。

 かなり増えた異能の数々を何度も確認して、どうにも納得のいかない点があった。


 ――あるべき異能がここにない。


 本来なら増えているはずの異能が存在していない。それがずっと引っかかっている。


「どうしたの、守人君」


 自分にしか見えない能力パネルをじっと見つめて唸っていた俺を気遣って、すみれが声をかけてきた。

 端から見れば、何もない虚空を睨みつけているだけにしか見えないから、心配になったのだろう。


「能力パネルの確認をしていただけだよ」

「そうなんだ。昔と比べたら凄く強くなったし、異能も増えているよね守人君は」

「わいなんて【炎上】が一個しかないまんまや!」

「私も【譲渡】だけだよ」

「【光】【水】【土】の三種ですね」


 意図せずして仲間の異能の確認となった。

 仲間の三人で一番の戦力は七節で間違いない。異能の数もそうだがオーラの濃度、それに準じた身体能力の向上。どれを取っても仲間内ではずば抜けている。

 望は身体能力が七節に劣り、すみれよりは上。異能は【炎上】のみ。前衛で戦うより、距離を取っての支援がメイン。

 すみれは……いるだけで、その存在だけで俺の力になる。【譲渡】は意外にも使い道が多く、不意打ちや逃走にも活躍してくれている。さすが、すみれだ。

 布陣としては俺と七節が前衛。正確には俺がメインで戦い、七節が補佐。すみれと望は後方からの援護。これでいくしかない。


「あの強い豪先生がいてくれたら頼りになるんやけど」

「今の豪先生はマッチョな一般人枠ですからね」

「それでも私より強い気がする……」


 オーラと異能が扱えなくても強そうに見える外見をしているからな、豪先生は。

 実際はすみれと戦っても余裕で完封されるぐらい、実力差がかけ離れてしまっている。


「前からずっと疑問やったんやけど、豪先生強すぎへんか? わいらと違って過去に戻ったわけでもないのに、あの強さって納得いかんわ」

「才能なのですかね。入社式の時で目覚めてから半年程度。あの島での戦いでは一年が経過しただけ。それにしては規格外の強さなのは確かです」

「うんうん、守人君より強く見えるっておかしいよね?」


 皆も俺と同じく、その疑念を抱いていたのか

 1世界で俺を上回る強さだったのは、まだ納得はいく。

 だが、2世界でも俺は叶わなかった。自分が強くなったからこそ、実力差を測ることができてしまった。豪先生は俺よりも高みにいる、と。


「なんか、裏技つこうてんかな? 政府が極秘にしている覚醒者強化プログラムとか」

「かなり無理して鍛えたとか? 漫画とかだと無茶な投薬や実験を繰り返して、意図的に超人を生み出したという展開も」

「うーん、なんか、そういうのと違う気がする。上手く言えないんだけど、豪先生って安心感というか近くにいるとほっとするんだよね」


 望と七節の考察はどうでもいい。それよりも、すみれが頬を少し赤らめて語る横顔を目の当たりにして衝撃が走る。


「ま、まさか、すみれは……豪先生のことが」

「えっ、やだ、勘違いしないで。頼れるお父さん、みたいな感じに近いかも。私が好きなのは愛しているのは守人君だけだよ」

「すみれ……」


 上目遣いで潤んだ瞳を向けてくる彼女をぎゅっと抱きしめようとしたら、望が彼女の肩を掴んで遠ざけた。


「決戦前にいちゃいちゃすんな! TPOをわきまえようや! わいの目が黒いうちはラブコメ展開にはさせへんで!」

「野暮なことはやめましょうよ、希望さん」


 俺たちの邪魔をする望を羽交い締めにして止めている七節。

 これも見慣れた日常の光景になってきた。

 俺はこの些細な幸せを守るために足掻いている。優先するのはすみれの命。次に世界を救うこと……だったのだが、今は優先順位が変わりつつあるのを自覚している。

 すみれだけではなく、望や七節も助けたい。できることなら、だが。静先生や豪先生、黒服の淵上、クラスメイトも助けたい。


「全員が助かるのが理想……だけどな」


 それが難しいのも理解している。能力が倍増し、記憶も保持している昼想。

 前回までよりも難易度が上がっているのは間違いない。

 頭で何度もシミュレーションしてみたが、戦って勝てる未来が見いだせなかった。

 準備運動の柔軟をしつつ、仲間と作戦の確認をしていると、再び着信が。


『ごめんなさい! 渋滞に捕まって私より先に昼想と日輪が着きそうです! 二人はもう直ぐそこまで来ているとの連絡が』

「わかりました……。すみません、切ります」


 深淵の影響で周辺の道路は常に混雑している。

 ギリギリまで情報収集を手伝っていた、静先生の到着が遅れるとの連絡だった。

 スマホをポケットに入れて大きく息を吐いてから、正面を見据える。

 視線の先に小さな人影が見える。目を凝らし、それが誰であるかを理解した。

 深淵を挟んだ向こう側にはニヤけ面の昼想と、喜色満面で体を揺らしている日輪の姿。


『やあ、守人君。最高のプレゼントをありがとう! まさか、時間逆行という貴重な体験だけではなく、自分の力を強化してくれるなんて! キミのことは強敵ライバルではなく親友ともと呼ぶべきだろうか!』


 両腕を広げ、いつも通りの大げさで芝居がかった言動で感動を表現する昼想。

 ドーム型球場を呑み込む大きさの深淵を挟んで声が届くわけはないのだが、ヤツは【念話】を使って心の声を運んでいる。

 これだけ距離が離れているというのに肌がチリチリと焦げるような感覚があり、全身が総毛立つ。

 無意識に体が身構え、全身から噴き出る冷や汗が止まらない。

 一目でわかった――勝てない。

 以前よりも圧倒的な力量差を体が、本能が、感じ取ってしまう。


「化け物や……」

「これはちょっと想定外過ぎませんか……」

「あ、う、あ」


 腰の引けている望と七節。すみれに至っては声も出ないようだ。

 昼想からは目を逸らさずに、すみれの肩を抱き寄せる。

 小刻みな震えが伝わるが、それが徐々に収まっていくのを肌で感じた。


『まずは話し合いでもしようじゃないか。戦ったところで勝ち目がないのは理解しているだろ?』


 ヤツは自身の体に起こった変化を理解している。

 以前なら人を見下す態度に怒りを覚え、心を奮い立たせることができた。だが、今は重圧と恐怖を前に言葉が出ない。

 あの桁外れの強さを有する化け物を俺が――生み出してしまった。



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まさか豪先生……
ありきたりな感想ですみませんが ど・ど・ど・どうするんですか!? これを何とか出来るんですか?!
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