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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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二十四話

 あれから七時まで意見交換をして策を練ったのだが、現状を打破するような画期的な作戦が提示されることはなかった。

 カーテン越しでも屋外がかなり明るくなってきたのがわかる。

 タイムリミットまで残り四時間。


「よっし、ご飯食べよう! 食べる物を食べないと元気がでないからね! 今から作るからちょっと待ってて」


 すみれが勢いよく立ち上がると、あえて元気な声を出して台所へ向かう。


「俺も手伝おうか」

「いいよ、座ってて。この世界で私の手料理は初めてなんだから、食べて欲しいし」


 微笑む彼女にそう言われては、大人しく従うしかない。

 前の2世界では何度も手料理を食べさせてもらった。奴隷時代は自分たちで料理をする機会などなかったので、俺は彼女の腕前を知らなかった。

 でも、料理が好きだということは知っていた。「いつか、守人君に食べてもらいたいな」と寂しそうに話すのが彼女の口癖だったから。

 結局、奴隷時代にその夢が叶うことなく人生を終えた彼女。その後悔と鬱憤を晴らすかのように、彼女と過ごすときは外食よりも手料理を食べる機会が多かった。


「いやー、手料理食べられるなんてめっちゃ嬉しいわ」

「サラダ用に我が家の新鮮野菜を持ってくるべきでしたか」

「あの畑にものごっつう野菜生えとったもんな」

「トマト、キュウリといった夏野菜がオススメですよ」


 すみれの言動で張り詰めた空気が緩んだようで、二人も肩の力が抜けた状態で雑談を始めている。

 俺はすみれが愛用している大きなクッションに身を埋めて体を休めておく。

 この後、どんな戦いが待っているかもわからない。少しでも英気を養っておかねば。





「できたよー。運ぶの手伝って」


 すみれの声に促されて意識が覚醒した。

 時刻を確認すると七時半過ぎ。三十分ほど眠っていたようだ。

 仮眠程度だが、体の疲労がかなり抜けた気がする。

 大きく息を吐いてから立ち上がり、彼女の料理をテーブルまで運ぶ手伝いをした。

 玉子焼き、豚生姜焼き、具だくさんな味噌汁、漬物。純和風の食卓。

 朝ご飯にしては量も多く、ガッツリ系の豚生姜焼きが異彩を放っているが、長時間の作戦会議で腹を空かせている俺たちには何よりのご馳走だ。


「ほな、いただきます!」

「おいしそうですね。いただきます」


 望と七節が手を合わせて直ぐに朝食を口に運んでいく。

 かなりお腹が空いていたようで待ちきれなかったようだ。

 その姿を見て俺たちも手を合わせ「「いただきます」」箸に手を伸ばした。


「うん、美味しい」

「えへへ。腕によりをかけてるからね」

「めっちゃ旨いで! はああぁ、味噌汁が疲れた脳に染み渡るぅぅ」

「ほっとする味ですね。味噌汁と漬物が絶品です。野菜の良さを引き出していますよ」


 二人にも好評のようで何よりだ。自分が作ったわけではないが、愛する者の手料理が褒められて嬉しくないわけがない。


「ふふ。じゃんじゃん、お代わりしてね。ご飯もいーっぱい炊いたから」

「「「おかわり」」」


 勢いよく突き出された空になった茶碗たちを見て、すみれはにっこりと笑った。





 ご飯を食べ終えて、食後のお茶を嗜んでいる。

 時刻は八時。残り三時間か。

 このまま、だらだらと過ごせたら最高の時間になるのは間違いないが、そろそろ意識を切り替えよう。


「作戦会議を再開するぞ。昼想一味対策につい――」


 俺の言葉を遮るようにスマホの着信音が響く。

 取り出して画面を確認すると、着信者名ではなく電話番号が表示されていた。

 つまり、スマホの連絡帳に入れていない人物からの電話ということになるのだが、その番号を俺は知っている。


「静先生からのようだ」


 注目している仲間にそう告げてから、通話ボタンをタップする。周りにも聞こえるようにスピーカーモードにしておくのを忘れない。


『もしもし、石川君?』


 やはり、静先生の声だ。


「はい、そうです。ここには皆もいます」

『了解です。お爺ちゃんの説得が終わって協力してくれることになりました。今、一緒に時間逆行をした淵上さんの居場所を調べてもらっています』


 考えることが多すぎて彼女の存在を忘れかけていたが、あの人も記憶を保持したままこの世界にいる。誰とも連絡が付かずに戸惑っているはずだ。できるだけ、早く合流してあげたい。


『そっちの状況はどんな感じですか?』


 その質問に対して、今後の考察と全員での話し合いの結果を伝える。


『そうですか、最悪の展開を想定して動いているのですね。お爺ちゃんに頼んで空港を見張ってもらうことにします。昼想が到着したら直ぐに連絡がくるように手筈を整えますね』

「助かります」


 昼想の動向を探れるのはかなり大きい。

 深淵の周囲に自衛隊を配置している現状なので、何人か人員を割いて見張りを任せるのだろう。

 被災者の支援も重要な役割だが、ヤツを見逃せば被害が更に大きく桁外れに広がってしまう。


「もし、可能であれば……どの便の飛行機に乗るかわかると助かります」

『それは空港側の協力も必要となるから難しそうだけど、やってみるね』

「お願いします」


 今は少しでも情報を得て、先に手を打つ必要がある。

 どんな些細な情報でも精査して、勝利への道を見いだす力に。


『じゃあ、また何か情報を得るか、状況が変わったら直ぐに連絡するね』

「はい、待ってます」


 通話が終わり一息吐く。


「これで、おおよその時間ではなく正確な時間を知ることができるだろう」

「やっぱ、豪先生が味方に付くのはデカいよな。なんせ、自衛隊陸軍のトップなんやろ」

「人海戦術が使えるメリットは大きいですからね」


 情報収集に関しては俺たちではやれる範囲に限界がある。そのジャンルにおいては所詮素人の集まりに過ぎない。餅は餅屋。自衛隊にはそういったことに長けた部署が存在しているそうだ。


「これでヤツの動向については任せられる。こちらは今後の作戦を練ることに集中しよう」





 更に一時間が経過してから、静先生から連絡があった。


『九時半の飛行機に乗って新千歳空港に向かうそうです』


 思ったよりも出発が遅い。予定では片道二時間四十分。そこから更にここまで車で四十分。

 タイムリミットは十一時と予想していたが、かなり伸びてくれた。


「十三時ぐらいまでは余裕ができた、っちゅうことやな」


 安堵の声を漏らす望。

 俺も同じ思いだが口には出さなかった。


『ただ、想定外のことが一つあって……』


 スマホ越しにも伝わる、困惑を隠しきれていない声。

 嫌な予感しかしないがスルーするわけにもいかない。


「何があったんです?」

『その、日本に向かっているのが昼想と日輪の二名だけなんです』


 この状況で三人が一緒に行動をしていない?

 それも厄介な異能を多数所有している、あいつが同行していないというのか。


「……神無月は?」

『何処にも見当たらないの。向こうの空港に韓国在住の職員を向かわせて見張っているのだけど、その姿がないって』


 ……どういうことだ?

 何を目論んで別行動をしている?


「別のルートで北海道に上陸するつもりなのでしょうか。私たちが警戒しているのを把握したうえで、見張りを分散させるのが目的とか」


 七節の意見は一理ある。

 今回はヤツも記憶を得た状態から始まっている。こちらの手の内を読んで対策してもおかしくはない。

 俺がその場にいれば【地獄耳】を発動させて、相手に認知されない距離から声を拾うことも可能なのだが。

それを現地の職員にさせるわけにもいかない。迂闊に近づけば悟られるだけだ。


「気にはなりますが、今は昼想の方に集中してください。あと、距離は充分にとって警戒してもらうように」

『了解。口を酸っぱくして注意しておくね。じゃあ、また』


 最後だけは砕けた口調で対応してくれた静先生との通話が切れた。

 神無月の動向という懸念材料が増えてしまったが、ヤツの現状は把握できた。それだけでも満足するべきだ。


「俺たちの最優先事項は昼想に化けたヤツを始末すること。色々考えてはみたが、正面から戦って勝つことは不可能。となると、俺たちの助かる方法は限られている。前々回の戦いで唯一相手を撃退した方法を使おう」


 話し合いの結果、たどり着いた答えは当初から決まっていたも同然だった。

 勝率は低いが端から選べる道がそれしかない。足場も悪く、細く頼りない道だが、覚悟を決めて進むしかないんだ。

 全員の顔を見回して、俺の出した結論を口にする。


「深淵の近くで待ち構えて、迎え撃とう」


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― 新着の感想 ―
こういう時に「まず食事」と考えられるすみれさんは賢いなと思いました。 「腹が減っては戦はできぬ」です。 とある漫画でも空腹だと考え方が悲観的になるというセリフがありました。 あと料理上手な人って憧れ…
いっそ打ち落とせば良いのにと思ってしまった。 思考がフィクションに毒されてる。
別の人にいったか そういえば他の人も乗っ取る体は別でもいいわけだから静先生とかを乗っ取られてもおかしくなさそうですね
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