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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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二十一話

「どんだけ邪魔すんねん!」


 敵の兵士五名に追いかけられ逃走中にもかかわらず、望が愚痴をこぼしている。


「しつこい男性は嫌われますよっ! 光っ!」


 最後尾にいた七節が追いすがろうとする兵士に向けて、至近距離から最大出力の【光】を放った。

 後ろを向いていないというのに、その光に目が眩みそうだ。


『うがあああっ!』


 異世界語の悲鳴に続いて、何かが倒れる音が遅れて聞こえた。

 兵士たちが視界を奪われた状態で躓いたのだろう。ここは森の中で地面が整備されていない。凹凸がそこら中にあり木の根にでも引っかかったか。

 後方を確認すると追っ手が消えている。なんとか振り切れた。


「目的地は近い! あと少し踏ん張ってくれ!」


 静先生を背負った状態で走っている豪先生の励ましに応えて、俺たちは足を止めずに拳を掲げる。

 この逃走劇で真っ先に限界に達したのは静先生。元から体力がなく運動神経も低いそうで、オーラでなんとか底上げはしていたが、俺たちに付いてくるのが精一杯だった。

 そこで、豪先生が拒否する時間も与えずに強引に背負い走っている。誰よりも力強い足取りで先頭に立ったまま。


「もう少しで付くぞ。オーラがいつもより強化されているはずだ、耐えてくれ」


 仲間を励ます目的で口にしたが、嘘ではない。

 疲労が溜まってきているにもかかわらず、走る速度は上昇している。

 全身から噴き出るオーラの量と質が上がっているからだ。深淵に近づけば近づくほど、オーラが増えて身体能力が強化される。それを利用して、俺たちは北海道にある深淵の側で鍛錬を続けていた。

 だからこそ、この強化されていく感覚には馴染みがある。

 ここまで仲間の脱落者はいない。全員無事……というには疲労困憊で服も返り血と泥にまみれているが、それでも全員が深淵までたどり着きそうだ。


「そろそろ、森を抜けるぞ!」


 前方に森の切れ目が見える。あそこを過ぎれば巨大な穴――深淵が待ち構えている。

 豪先生が真っ先に森から飛び出し、俺たちも続いて森を抜けた。

 視界の先に広がるのは開けた場所。周辺の木々は異世界の空気が影響して枯れ果てたのか一本も生えていない。大地がむき出しの殺風景。

 その中心部には深淵が大きな口を開けていた。


「まあ、こうなるわな」


 豪先生の足が止まり、俺たちも立ち止まる。

 深淵の縁にはずらっと兵士が待ち構えていた。その数はざっと数えて三十ぐらいか。

 目を凝らして、ヤツがいないか注視するが……何処にも姿が見当たらない。全員が軍服を着た兵士。これこそ、不幸中の幸いだ。


「ヤツがいないなら勝ち目はある。もし、わしらが倒れても守人……お前だけでも行け。理想は全員だが、お前が死ねばすべてが終わる。忘れるなよ」

「わかって、います」


 全員が助かるのが理想の展開。

 それが叶わない場合は俺だけでも時間跳躍をして……やり直す。

 これは逃げる途中で何度も説得された。仲間全員がそのことを理解して納得してくれている。


「だけど、全員助かっても問題はない。そうですよね」

「ああ、そうだな」


 俺が力強く言葉を返すと、豪先生は少し驚いたが直ぐに破顔した。


「よし、フォーメーション3だ。淵上ふちがみ、わしの背に乗れ」

「私ですか?」


 驚きながらも黒服が従い、豪先生の背中に乗っかる。これで二人の女性を背負っている状態になった。

 あと、この黒服の女性は淵上というのか初めて知った。


「わしが先頭で蹴散らす! 静は【鑑定】でヤツらの能力を調べて、注意すべき相手がいたら教えてくれ。淵上は状況に応じて【遮断】を発動して防ぐように」

「うん、わかった!」

「了解しました!」


 豪先生にしがみついた状態で敬礼をする二人。

 索敵、防御能力に優れた二人をオプションにした豪先生は、特攻隊長として優秀すぎる。


「腹くくれよ……行くぞ、付いてこい!」


 目の前には三十もの異世界の兵士。

 その中に躊躇いもなく突っ込んでいく豪先生。


「みんな、行こう!」

「おうよ!」「はい!」「うん!」


 全員の返事を聞いて、力が漲る。

 必ず守ってみせる。その為に俺はここにいるんだ!

 一足先に走り出すと、仲間もほぼ同時に駆け出した。

 前方では豪先生が戦闘に突入している。

 二人を背負いながら足技のみで敵を蹴散らす姿は、味方として頼もしすぎる。この人はどうやってここまでの強さを手に入れたのか不思議でならない。

 俺たちと違い、オーラに目覚めてから一年しか経過していない。だというのに、その実力は俺よりも高みにいる。……なんて疑問は今思うことじゃないか。

 集中しろ。ここを抜けて深淵に飛び込むことだけを考えろ。

 兵士たちが次々と吹き飛ばされていく。信じられないような光景なのだが、嘘偽りのない現実。


「豪先生、めっちゃ強すぎへんか!」

「同じ人類なのか疑いたくなりますね!」


 望と七節の声が弾んでいる。

 絶望的に見える状況で豪先生の活躍が二人に希望と力を与えてくれているようだ。

 圧倒的な実力差があるとはいえ移動速度は落ちている。数で囲まれ異能で遠距離から仕掛けてくる輩もいるので、そう簡単には行かせてくれないか。


「望、すみれ」


 走りながら足下に転がっていた手頃な大きさの石を数個蹴り上げて、それをすべて掴み、すみれへと手渡す。


「そういうことか。ほな【炎上】」

「あの異世界人にプレゼントしないとね」


 望が石に触れると小さな火種が灯り、それをすみれが【譲渡】で遠距離攻撃を仕掛けている兵士へ渡す。

 突如、右手に現れた石に驚く暇も与えず、体が炎に包まれていく。

 倒せはしないだろうが、目眩ましと動きを阻害する目的は果たせる。

 攻撃の手が緩まった隙を逃さず、豪先生が更に前へ前へと進む。俺たちも後に続いて、兵士たちを掻き分けて進んでいく。

 命令に忠実な異世界の兵士とはいえ自我はある。生物としての恐怖を覚えるのだろう。

 鬼気迫る表情で、悪鬼羅刹のような暴れっぷりの豪先生に尻込み、ターゲットを俺たちへ変更した兵士が三体こちらに向かってきた。

 対処しようと身構えたのだが、七節が腕を伸ばして俺を制す。


「石川さんは最後の大仕事が残っています。それまで出来るだけ力を温存して下さい。沼よ呑み込め」


 七節が地面に手を触れると前方の大地が沼地へと変貌した。

 そこに踏み込んだ兵士たちは膝下まで埋没していく。


「【水】【土】の合わせ技です。田んぼに利用できるかと思って考え出したのですが、意外なところで役立ちました」


 生み出した目的が七節らしいが、実用性のある組み合わせだ。


「お前ら、あと少しだ。先に行って準備しろ!」


 豪先生は振り返ると俺たちを先に行かせようとして、その場で踏みとどまっている。背中から、静先生と淵上を下ろして。

 深淵の縁まで残り十メートルもない。

 合流した静先生たちと一緒に豪先生の横を通り過ぎて、深淵の縁で立ち止まる。

 大きく深呼吸をして、覚悟を決めた。


「豪先生、大丈夫です。行きま……」


 振り返った俺の目に飛び込んできたのは十名の異世界人に囲まれた豪先生と、森の切れ目から現れた増援だった。

 その数は……百を超えている。会場だったホテルにいた兵士たちが加わったのか。

 問題はそこだけじゃない。増援を率いているのが――昼想。

 全力で駆けてくる無数の兵士とヤツ。

 時間の猶予はもうない!


「豪先生!」

「わしはいいから、行け! ここで誰かが足止めしないと、時間逆行を邪魔される!」

「だけど」

「若者を生かすために年寄りが盾となる! 爺としては最高の見せ場じゃねえか! 振り返らずに、行け!」


 この問答ですら貴重な時間を消費していることは重々承知している。それでも、俺は。


「行きましょう。おじいちゃんは大丈夫。死んでも死なないから」


 俺を後押ししたのは涙を堪えて唇を噛みしめている、静先生だった。

 誰よりも豪先生を助けたい、共に逃げたいと願っているのは彼女だ。それでも、豪先生の意志を受け継ぎ苦渋の決断を口にしたのだ。

 その思いを決意を……裏切れない!


「全員、俺に近づいて。合図をしたら一斉に深淵に向かって跳べ!」


 全員が俺を取り囲んだのを確認してから、最後に豪先生に目を向ける。

 増援はまだ到着していないが、周りにいた兵士たちが一斉に襲いかかり、その対応で手一杯の状況にもかかわらず、一瞬だけこっちへ振り向く。

 そして、満面の笑みを浮かべて「元気でな」送り出してくれた。

 俺は黙って大きく頷くと、振り返らずに前を向く。


「行くぞ。三、二、一、ゼロ!」


 合図と同時に全員が深淵に向けて跳び込む。

 胸元にはすみれ。右腕には望。左腕には七節。右足に静先生。左足に淵上。

 俺から離れないように一斉にしがみ付かれて圧迫感が凄まじいが意識を集中しろ。豪先生の想いを無駄にはできない!

 これで三度目。コツは掴んでいる、俺ならやれるはず!

 落下地点に目を凝らし、深淵が極限まで近づくのを待ち構える。

 こんな状況だが集中して意識を研ぎ澄ましていく。準備は整った。

 【ワームホール】を深淵の上に置くように配置。あとは、そこを潜れば過去に戻れる。

 迫り来る穴を凝視して跳び込むまで残り数秒のタイミングで、視界に何かが飛び込んできた。


『待っていたぞ、この時を!』


 脳に直接聞こえてくる歓喜の声に促され、視線を向けるとそこには異世界人の兵士がいた。

 軍服姿の兵士の顔に見覚えは――ない。だが、今の声は。


『また、会おう。あちらの世界で』


 軽く肩を叩き笑う兵士が自分の顔を撫でると変貌した。見覚えのある――昼想の顔に。

 何故だ! どうしてここにいるっ⁉

 頭の中が疑問符で埋め尽くされ、驚くよりも恐怖を覚えた。

 混乱の最中、なんとか一つの答えを導き出す。

 ヤツは兵士に化けていたのかっ⁉ 地球人に成り代わるときに使っていた道具で!

 どうにか引き剥がそうと相手に腕を伸ばそうとした瞬間、俺たちは【ワームホール】に吸い込まれた。


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