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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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二十話

「前みたいに深淵に飛び込んで過去に戻るんか。……確かにそれなら助かるけど」


 珍しく望の歯切れが悪い。

 それが何を意味するかを理解しているからだろう。


「この世界……2世界から、新たに3世界へ移動するわけですね」


 七節が望の後を継いで話を続けた。

 そう、俺がずっと躊躇っていたポイントがそこだ。過去に戻れば俺たちは助かる、だけど、それはこの世界を見捨てると同義。

 滅びに向かう世界を増やし、分岐した世界を救う。それは正しいのか未だに判断が付かず、迷いが捨てきれない。


「ちなみに、守人君のワームホール? で飛ぶとして、ここにいる全員を送るのは可能なの?」


 静先生の疑問はもっともだ。前回は俺を含めた三人同時には成功している。


「あの時と比べてオーラ量は倍増しています。二度の発動で【ワームホール】のコツも掴みました。おそらくは大丈夫だと思います」


 皆を安心させるための嘘……ではない。実際にやれる自信はある。

 いや、本音を言えば確実性を求めるなら七人は多すぎる。四、五人であれば安定性は増すのだが。


「あとは守人の気持ち次第か。お前はどうしたいんだ?」


 心の葛藤を見抜かれていたようで、全員が黙って俺の返答を待っている。

 俺はどうしたいのか、他に手段はあるのか。

 ……ない。残念ながら、ここにいる全員が助かる手段を他に思いつかない。時間を掛けて迷えば迷うほど貴重な時間が失われていく。

 今はまだ島中で人間の掃討が行われているが、日が明ける頃には殆どが死に絶えているはずだ。そうなったら、ターゲットを俺たちに絞り総動員で探索、殺害という流れは確定。

 動くなら今しかない。


 答えは明確だというのに、それを声にすることができないでいる。何十億もの人間を見殺しにして、別の何十億もの人間を救う。

 逆行する度に世界が分岐するという事実を知らされてから、ずっと後悔と疑念が俺にまとわりつき剥がれてくれない。

 いつまで、同じ葛藤を繰り返せばいいんだ、俺は。

 前回は限界まで追い詰められ、それしか手段がなかった。だけど、今は。

 そんな俺の頬を温かい何かが包み込んだ。

 床に向けていた視線を上げると、すみれが正面に移動してかがみ込み、俺の頬を両手で挟み込んでいる。呆けている俺をそのまま引き寄せると、強く抱きしめた。


「時間を逆行しようよ、守人君! また、世界が分かれちゃうかもしれないけど、それだってあの昼想君に化けた異世界人が言っているだけで、本当かどうかもわからないんでしょ?」


 確かに、ヤツの発言に確たる証拠はない。だけど、ヤツの性格からして真実を明かす方が俺へのダメージを与えられると考えたからこそ、真実を明かした。

 そう考えた方がしっくりくる。そして、その考えは間違っていない、はずだ。

 すみれも本当はわかっている、わかっていて俺を励ますために口にしたのだろう。


「もし、本当だとしても、助かる道を選ぶべきだよ! 迷ってここで死んだらそれで終わり。続きはないんだよ。でも、時間を遡ってやり直したら、まだ物語は続くから。世界が分岐したとしても、戻る方法を見つければ済むだけの話。それに……侵略なんてしてくる連中に一矢報いないと気が済まない! だよね」


 俺の心を代弁してくれたのか。勢いよく話していたが最後だけは、子供に優しく語りかけるような声だった。

 情けない。本当に自分が情けない。

 決断を彼女に託して罪を背負わせ、自分だけ逃げようとするなんて……最低だ。

 もう、迷わない。

 何度でもやり直し、最高の結末を掴むために足掻いてみせる。

 俺は雄々しく立ち上がると、頭を巡らせて仲間たちを見た。

 全員が真剣な顔で俺の決断を待っている。


「深淵に向かおう」


 それだけ伝えると、すべてを理解して察してくれた。


「おっしゃ、ほないっちょ褌締め直すで!」

「そうですね。気合いを入れ直して踏ん張りましょう!」


 望と七節が勢いよく立ち上がり、力強く握手をする。


「後のことは後で考えればいい。やるべきことをやるぞ」

「そうだね、お爺ちゃん。まずは生き延びないと」


 豪先生と静先生は顔を見合わせて笑っている。


「私もお供します」


 壁にもたれて聞き役に徹していた黒服も同行を口にした。


「よーし、みんな頑張ろうね! 私たちならきっとやれるよ!」


 すみれは最後に立ち上がると、拳を突き上げて鼓舞している。

 大人しい性格をしている彼女だ。無理をしてテンションを上げているのが伝わってくるが、その心遣いが嬉しくて微笑んでしまう。


「よし、行こう。深淵へ!」





 島の中心部にある深淵。そこへ向かっている最中なのだが、距離が縮まるにつれ兵士の遭遇率が上がってきている。

 もう既に二十体は倒した。


「ふううぅ、追加で三体撃破か」


 首から上を失った異世界人の兵士を見下ろし、豪先生が息を吐く。


「今のところはなんとかなっているが」


 豪先生が倒したのとほぼ同じタイミングで、俺も一体葬った。


「こっちもなんとかなったで」


 最後の一体は残り全員で相手にしていたが、誰も傷を負うことなく倒せたようだ。

 静先生と黒服は戦闘向きの能力ではないので戦力としては期待できない。なので、実質は望、七節、すみれの三人で倒したようなものだが。


「あと、五、六分全力で走ればたどり着くはずだが、問題は兵士たちか」

「深淵の警備が厳重すぎる。俺が【ワームホール】の異能持ちだというのを知っての警戒か」


 戦いで重要なのは純粋な戦力と、情報。

 相手の情報を得ていれば対策を練ることができ対処も可能となる。だからこそ、前の戦いでは不意打ちを仕掛けたのだ。

 今回はヤツも俺たちの能力をある程度は把握したうえで、この対応をしてきた。

 俺たちが深淵に近づき、再び【ワームホール】を発動させることを警戒して。

 倒した兵士たちは空けた穴にまとめて放り込んでおく。死体を隠すよりも、能力を得る目的が主だ。


「新たな異能は増えてないか」


 この島の戦いで十体以上の兵士を葬ってきた。さっきまでは穴に埋める余裕がなかったので、倒して死体は放置してしまっていたが。それでも敵を倒すことでオーラを取り込み、能力は上昇する。

 仲間たちは、この短時間で飛躍的に強くなっているのは間違いない。

 これがゲームなら効率の良いレベル上げの場と割り切れるが、ここは現実。こちらも相手も命懸けだ。


「これはたどり着くまで一苦労……どころの話ではないか」


 少し休憩を取りたかったが許してくれそうもない。

 俺たちの進路方向を遮るように、あらたな異世界の兵士が追加で七体現れた。


「時間を掛ければ掛けるほど警備が増える! こいつらを倒したら全力で一気に目的地まで走るぞ!」

「「「「了解!」」」」


 豪先生が飛び出すと同時に、俺たちも後に続く。

 瞬時に間合いを詰めた豪先生が、先頭にいた二体の頭を回し蹴りの一撃で吹き飛ばした。

 やはり、覚醒者の中でも桁外れに強い。敵は防御に特化した土色のオーラだったというのに相手にもならない。

 豪先生を強敵と判断した兵士三体が迂回して、後方の仲間の方へと向かう。

 一瞬だけ振り返ると同時に「開け」事前に設置しておいた【穴】を発動させて肩まで穴に埋めておく。そこを仲間たちが容赦のない攻撃を加えた。


 これで五体撃破。


 瞬時に半数がやられたことで二体ほど撤退しようとしているが、逃がすわけにはいかない。

 全身からオーラを放出して、大地を蹴りつける。

 一足飛びで逃走経路を塞ぐ位置に着地すると、相手に身構える間も与えず拳を叩き込む。

 咄嗟にオーラで防ごうとしているが無駄だ。異能を使って穴を空ける必要すらない。純粋な力でオーラの上から叩き付けた拳が二体の頭蓋骨を粉砕した。


 残りは三体。


 状況についてこれずに戦意を失い、怯えた表情で手を上げて降伏のポーズを取っている。


『お前たちは助けてと懇願した人間を助けたのか?』


 奴隷生活で学んだ異世界語で話すと兵士たちは驚愕している。

 それ以上は語らず、足下に穴を空けて地中深くに埋めて塞いだ。これで始末は完了。


「こっからは全員を相手にする必要はない。深淵への移動が最優先だ!」


 話し終えると同時に走り出した豪先生に全員が続く。

 あと少し、あと少しで深淵へたどり着く。もう、迷いはない。完全に吹っ切れた。

 全員で過去に戻り、再びやり直す!


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― 新着の感想 ―
主人公たちが過去に戻ろうとすることは昼想も想定しているはずです。ですからどう考えてもすんなりとは戻れないでしょう。 主人公が深淵に来ることはわかっているのですから万全の対策を立てて待ち構えているはず。…
第二章も終盤なのでしょうか。 昼想はどのように行動するのか、すんなりとワームホールで過去に戻れるのか。 そういえば熱を出して寝込んでいた吉田は現在どういう状況なのか微妙に気になります…。
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