97曲目 再び出会った男
俺たちのティックへの滞在はまだ続いていた。
それというのも、今回の襲撃で俺たちが従わせた魔物たちの様子を見守らないといけないからだ。
そう、魔物たちが本当に大丈夫だということを確認できるまで、俺たちはティックの街に縛り付けられちまったってわけだ。
とはいえ、それは主だってモニーとリリアの二人が請け負ってくれていた。モニーは聖女だし、リリアは言葉の通じる魔物だからな。
で、俺とメロディはというと……。
「む~……」
「えっと、どうしたらよいのでしょうかね、リードさん……」
『いやぁ、ぶっちゃけ、どうしようといわれてもなぁ……』
俺たちは最後の一人であるドラムの所有者であるミクスの説得で苦しんでいた。
今日も説得にやってきたんだが、俺たちの目の前で椅子の上にあぐらをかいた状態で、頬を膨らませながら俺たちと目をまったく合わせようとしていない。
どうしてここまでまったく応じようとしないのか。
その言い分はこうだ。
ミクスはそもそも鍛冶屋の娘であって、現在は絶賛修行中の身だ。そういった状況にあって、家から出ていくことができないと言い張っているってわけだ。
そんで、親父さんである鍛冶師のおっさんに話をしたんだが、こっちは意外にあっさり好きにしろという返事をしてくれた。
多分、女性は鍛冶師には向かないとでも思ってるんだろうな。ミクスの体はどう見ても細いしな。
で、体格的にも鍛冶師には向いていないから、好きにしてもらって構わねえってことなんだろう。言い方が言い方ゆえに、薄情に聞こえちまうのが難点ではあるな。
ところがだ。そんな親父さんの娘だからか、こっちもこっちですっげぇ頑固だ。
ドラムとしちゃあ、俺たちと一緒に行きたいんだろうが、ミクスが意固地に家に留まろうとするために、板挟みって感じになってやがる。道具になっちまったがゆえの苦難ってやつだな。
いやぁ、マジで梃子でも動きそうにねえ状態なんだが、こりゃどうしたらいいんだろうかな……。俺もすっかり頭を抱える状況だぜ。
結局、ミクスの説得は一度諦めることにした俺たちは、宿に戻ることにした。
向こうの要請で街に留まっているので、宿代がかからねえのはいいんだが、ずっとこの街に居続けるわけにいかねえ。俺たちは魔王を討伐しろっていう命令を受けているからな。
こうやって、じっとしている間に、どこで魔王どもからの被害が生まれているか分からねえ。
なんといっても、このティックも四天王の一人に襲撃されたんだからな。
だが、そんな魔王四天王も、俺たちが揃った状態での音楽で追い返すことができた。操っていた魔物どもも、音楽によっておとなしくできたんだ。
だったら、俺たちをとっとと解放して、魔王軍の被害に遭っている場所に向かわせるべきだろう。
だというのに、現実はそう甘くはなかった。
魔物たちの状態が信用できないからと、安心できるまで解放するつもりはないらしい。まったく、どうしたらいいっていうんだよ。
俺たちの中に焦りよりも苛立ちの方が強く募り始めていた。
そんな時だった。
「なんだか外が騒がしいですね」
『ああ、ちょっくら見に行くとしようか』
気になった俺たちは、宿を出て様子を見に行くことにした。
そしたら、そこには見知った顔があった。
「あっ、ミュゼス様」
『本当だ。スラーの街のギルドマスターだよな?』
そう、そこにいたのは、スラーの街で会った、冒険者ギルドのマスターであるミュゼスだった。
いや、なんでこんなところに来ているんだろうか。俺たちは不思議で仕方がなかった。
今はフォルテも出払っているので、俺とメロディだけでミュゼスに近付いていく。
「おや、これはメロディさん、お久しぶりですね」
向こうも気が付いたようで、メロディに挨拶をしている。俺のことはただの道具だと思っているみたいだから、完全スルーだ。
「ミュゼス様、どうしてこちらに来られたんですか?」
「いや、ティックが魔物に襲われたという報告を受けたので、こちらに出向いてきた次第というわけなんだ。これから、冒険者ギルドと自警団で聞き取りをするところだよ」
面識があるということもあってか、ミュゼスは俺たちにティックへとやってきた理由を話してくれていた。だが、そんな重要なことをほいほいと話してしまっていいのだろうか。俺はちょっとばかり訝しんでしまう。
「そうだ。君たちも当事者だろう。だったら同席してもらいたい、いいだろうか」
「は、はい。ご一緒させてもらいます」
ミュゼスの提案を受けて、メロディは元気よく返事をしていた。
そんなわけで、俺たちはミュゼスと一緒に、まずは冒険者ギルドへと向かっていった。
冒険者ギルドには、モニーやフォルテたちがいて、いろいろと話をしている真っ最中だった。
ところが、ミュゼスが中に入った瞬間、ギルド内にいた連中が一気に騒めき始めたことだ。一体何がどうなってるんだ?
「こ、これはミュゼス・テヌート王弟殿下。どうしてこのような場所に?」
はぁ? 王弟?
冒険者ギルドの中にいた人物たちの反応に、俺はつい固まってしまう。
メロディたちも一緒のようだな。
そしたら、ミュゼスのやつはにっこりと微笑んで笑っていた。
「すまなかったね、黙っていて。俺はテヌート国王の二番目の弟なんだ」
な、なんだってーっ!?
このミュゼスという男は、テヌート王国の王族の一人だったのだ。




