93曲目 音楽の限界
眼鏡をかけたおっさんが命令を出すと、魔物たちが一斉に動き出し、ティックに対して襲撃を仕掛ける。
『そうはいくか。スフォル、アー、ベー、ツェー、デー、エー、アニマート、街を守れ!』
「ガウッ!」
俺の声に、スフォルたちが一斉に動き出す。さすがに七体もいる魔物の名前を全部呼ぶとなげえぜ。
「ほう、お前たちも魔物使いですか。ひひっ、これは私との勝負と見てよろしいのですかね」
『てめえみてえな悪もんと一緒にしてくれんじゃねえよ。メロディ、みんな、いっちょやってやろうぜ!』
『がってんでさぁっ!』
「ひっひっ。魔王四天王が一人、ディスコー。お前たちのお相手をして差し上げましょう」
なんと、こいつは魔王の配下なのかよ。
聞いても答えなかったのに、こいつ、勝手に自分から名乗ったぞ。まったく、わけが分かんねえな。
名前はディスコーっていうのか。由来はディスコ……じゃなくて、ディスコードか。不協和音たぁ、魔族らしい名前じゃねえかよ。
ならば、こちらだって負けちゃいねえ。
初めての魔族戦で、俺たちの音楽というものを見せつけてやろうじゃねえか。
『いくぜぇ。ワン、ツー、ワンツースリーフォーッ!』
俺の合図で、メロディたちは一斉に俺たちを奏で始める。
ティックの近くで、俺たちの音楽が響き渡り始める。
「ワオオオーンッ!」
俺たちの音楽を聴いたスフォルたちが、遠吠えを始める。まるで力がみなぎってきたと言わんばかりだ。
いきなり始まった演奏に、ディスコーのやつも面食らっちまっているようだな。攻撃されると思ったんだろうが、これが俺たちの戦い方だ。
「くくっ、これはなかなかに面白い魔法ですな」
ディスコーは俺たちの音楽を前に平然と立っている。眼鏡をまた触ると、目を光らせているようだ。
「ですが、この程度で魔王四天王と戦おうなど、笑止。格の違いを見せてあげましょう」
俺たちの音楽が響く中、ディスコーは普通に動いて攻撃を仕掛けてくる。
今奏でている俺たちの音楽には、フォルテとモニーの魔力が乗っている。だが、やつの攻撃はその中を平然と突き抜けてくる。
「そうはいきませんよ」
その声と同時に、何かが飛んできてディスコーの攻撃を相殺していた。
唯一ここに残っていた魔物であるリリアだ。わずかに使える魔法で、ディスコーの攻撃を相殺してみせたのだ。
「ゴブリンの分際で小癪な……。この私に逆らったこと、後悔させてあげましょう」
「四天王だか知りませんけど、私だって負けませんよ」
リリアはそういうと、懐からマイクを取り出していた。って、あれってどう見ても向こうの世界のマイクだよな? なんでこっちの世界にあるんだよ。
そういえば、あれと接触させると向こうのものを持ち込めるみたいなことを言っていたな……。もしや、俺たちと一緒に向こうにあった道具が少し紛れ込んだのかもしれない。
なにせ、俺たちの乗っているワゴン車には、マイクやアンプも載せてあったからな。
俺がそんなことを思っていると、ディスコーのやつはリリアに向けて攻撃を仕掛けていた。
「♪~」
あぶねえと思ったんだが、リリアは歌い始めていた。
魔力のこもった歌声は、なんてことだろうか、魔王四天王のディスコーの攻撃を無力化してしまっていた。
魔物の中でも弱い類に入るゴブリンに攻撃を防がれて、ディスコーのやつは驚きを隠せないようだな。
「ぐぬぬぬ……。ゴブリンの分際で生意気な」
おーおー、ずいぶんと頭にきているようだな。糸目は相変わらずだが、頭に血管が浮かんでいるぜ。
ところが、ディスコーはもう一度眼鏡に触れていた。
「おっといけません。私は頭脳派ですからね、本能に忠実になってはいけないというものです」
冷静さを取り戻していた。
俺たちの行動に攻撃力がないと分かったからだろうか、ものすごく冷静になってやがるな。
「お前たちは結局捨て置いて問題ないようですからね。ならば、後ろにある街を先に滅ぼすこととしましょう。魔物たちを追加投入ですよ!」
『なにっ?!』
ディスコーの声に応えるようにして、新たな魔物たちが姿を見せる。
しかも、さっき現れた連中とは、またずいぶんと雰囲気の違う魔物のようだ。
「さあ、行きなさい。私の可愛いペットたちよ。思う存分、たらふく食うといいのです!」
「ガアアアアッ!」
新たに現れた魔物たちが、一斉にティックへ向けて飛び出ていこうとする。
くそっ、そうはさせるかよ。
俺は焦るが、攻撃力のない俺たちの音楽では、限界があるというものだ。このままじゃ、街が危ない。
その時だった。
ドンッ!
大きな音が響き渡る。
その音が響いた瞬間、ディスコーが新たに呼び出した魔物たちが、驚いてその場で動きを固めてしまう。
「なんですか。何が起きているというのですか」
さすがのディスコーもあたふたとしている。
『リーダー、オケやるんなら、俺様も参加させてくれないか?』
何が聞こえてくるかと思ったら、打弾弩羅夢の声じゃねえか。
どうやら、ドラムも来てくれたようだ。
安心したのも束の間、次の瞬間、見えてきた姿に俺たちは唖然としてしまったのだった。




