91曲目 それぞれ
結局、ミクスから追い出されるようにして、俺たちは部屋を出ていく。
まったく、なんでリリアはここへやってきたんだ。予定が早く終わったからとはいっても、なんともうかつだったと思わねえのか。
俺が視線をリリアに向けると、それに気が付いたリリアは視線を逸らして口笛を吹こうとしていた。
ああ、このごまかしたかは本当に由利のやつだ。まったく、リリアの本来の性格に合わせて丁寧語で喋ってはいるようだが、そういうところで素が出るんだよ。
俺が視線を向け続けている間、リリアはまったく俺と視線を合わせようとしなかった。
宿へと戻った俺たちは、目的を果たせはしたものの、なんともいえない気持ちで座り込んでいた。あの様子じゃ、あのミクスとかいう女は引き込めそうにない。
てか、見た目が男過ぎて気付けなかったぜ。男に間違えられてショックなのは分かるが、誰があの姿で女と思うんだよ。強いて言えば、丈の短い服を着ていたことくらいだろうが、そんなもんで性別に差は出ねえんだ。
「とりあえず、失敗しちゃいましたかね」
「仕方ありませんわ。あの姿で女性だなんて、誰が思いますでしょうか」
「私も、ずっと男の子だと思ってました」
「私でも、見破れませんよ、あれは……」
現地人であるメロディたちもこれだ。まず無理だぞ。引っかけクイズみたいな状態で間違ったからってキレられたんじゃ、理不尽極まりねえ。
ミクスのことは、一緒にいるドラムに任せるしかねえな。
いろいろと話した結果、ミクスと会うことはしばらく避けた方がいいという結論になった。これはやむなしだ。
結論が出て各々にくつろぎ始める中、俺はリリアの様子をじっと見る。なにやら落ち着かない感じに見えるな。
『おい、リリア。どうしたんだ』
「わっ、兄さん。急に声をかけないで下さい」
驚いたせいか、俺の呼び方が『兄さん』になっている。言葉遣いはリリアなのに、うっかり素が出てっぞ。
『やけに楽しそうにしているなと思ったから、声をかけたんだが、どうしたんだ?』
とりあえず、気にしないで俺は質問をぶつけている。
そしたら、リリアはにっこりと笑ったじゃねえか。こりゃ、何かあったな。詳しく聞いてみるしかねえってもんだ。
「実は、私用の武器を作ってもらえることになりました」
『ほう、そりゃいいな。短剣か?』
話を聞いた俺が聞くと、リリアはこくりと頷いていた。
やっぱ、ゴブリンといえば短剣だよなぁ。ナイフやダガーでもいいが、ショートソードもいい。まあ、どんな武器ができるのかは知らねえが、作ってもらえるとなりゃ、わくわくするもんだろうな。なんてったって、ここはファンタジーの世界なんだからな。
話を聞いた俺は、ふっと安心したような気持ちになる。ギターの体だから表情なんて出ねえよ。
リリアの装備を作るとなれば、滞在を延ばす理由にはなる。しばらくはこのティックの街でいろいろ見させてもらうとしようじゃねえか。
いくらメロディたちのメインが楽器とはいえど、戦いに身を投じるならば、それなりの身なりってのが必要だしな。フォルテとモニーは魔法も使えるから、そういう系統の装備を持たせてもいいかもしれねえな。
せっかく鍛冶屋がたくさんある街にやってきたんだし、依頼をこなしながらしばらく滞在してみたいところだな。なんなら、鍛えるところを見せてもらいたいぜ。
くうぅっ! なんだかテンション上がってきたぜ!
「……兄さん?」
お互いにしばらく黙っていたせいか、俺の心の内がリリアに伝わってしまい、リリアからはジト目を向けられる結果になってしまった。
俺は笑ってごまかしておいたぜ。わっはっはっはっ。
夜を迎えると、俺たちをティック迄護衛してきてくれたピッコロたちも合流する。
俺たちの前に座ったピッコロたちだが、なんとも様子がおかしい気がするぜ。
「モニー様たちにお聞きしたいことがございます」
神妙な面持ちからピッコロが話を切り出す。
一体何を話すつもりなのだろうかと、俺たちはぐっと構えて話を聞く。
「私たちの任務は、みなさんをティックの街まで無事に送り届けるというものでございました」
「それで、私たちとの契約についてのお話をしようかと思います」
なるほどな。ティックに着いちまったから、俺たちとの間の契約は終わったわけだ。つまり、ここで別れるか、同行を継続するかの判断を迫ってきたというわけだな。
だが、俺たちの任務は魔王の討伐ゆえに、これ以上は巻き込みたくはない。それだったら、魔王の手下どもとの戦いに備えてそっちに回ってもらった方がいいだろう。
とはいえ、この判断はモニーたちに任せるしかないな。俺たちはじっとモニーたちの様子を窺うことにした。
「分かりました。では、みなさんとの契約はここで終わりにしましょう。私たちの任務は危険なものです。これ以上、巻き込むわけにはまいりません」
どうやら、モニーも俺と同じ意見のようだった。
ところが、驚いたことにメロディとフォルテも同じように頷いている。
となれば、俺たちの総意ってことだ。
ピッコロたちは、俺たちの意見を受け入れ、翌日、ティックを発つことになった。
短い間だが、世話になったな。
俺は心の中で礼を言っておいた。




