90曲目 絡まる状況
私の目の前に現れたのは、どう見ても男の子にしか見えない女の子でした。
ピッコロさんたちと一緒にいたおじさんが『娘』と言っていましたので、女の子でいいんです……よね?
うん、見れば見るほどに女の子だとは思えませんよ。
『ミクス、どんなに文句を言おうと、その姿じゃ女の子には見てもらえんぜ。もう少し成長すりゃあ、違うかもしれねえかもな』
「うるさいな、ドラム。お前までそんな風にいうってのか?」
『客観的意見だよ。言葉遣いもまるっきり男だからな。ちょっと高いくらいだから、変声期前の少年と変わりがない。まっ、とやかく言うつもりはないが、女と主張するのなら少しはなぁ……』
「うるせえよ!」
あらあら、女のことだと認めさせようとして、逆に言い伏せられちゃってますね。
私が驚いていますと、その女の子の顔が私の方に向けられます。
「誰かいんのか?」
まるで睨むような表情に、私は思わずびっくりしてしまいます。なんというか、ものすごく怖いですよ。
『おや、リリアが来てたのか』
ああ、兄さんの声が聞こえてきます。なんでしょうかね、兄さんの声で少し落ち着きます。
「リリアさん、どうしてこちらに?」
モニーさんが私に声をかけてきました。私は胸に手を当てて、少し意識をした呼吸をして心を落ち着かせます。
「はい。私は依頼をこなしてきて戻ってきたのですが、みなさんがまだ戻ってらっしゃらないとお聞きしまして、こちらにやってきたんです」
私は正直に話します。
兄さんにはドラムさんと会うとバレるからって止められていましたが、一人で宿で待っていても退屈ですからね。
なんといいますか、むしろバレてしまった方がいいとも思ったんですよ。
『なんだ、このゴブリン。でも、なんか初めて会ったような気がしねえな』
わわっ、リリアとして話をしているだけなのに、ドラムさんになんか勘付かれてしまっています。これが付き合いの長さっていうやつでしょうかね。由利としての特徴は出してないのに、どうしてですかね。
私はついおどおどとしてしまいます。
『なあ、リーダー』
『なんだよ、ドラム』
『このゴブリン、絶対、俺様たちの知ってるやつですよね?』
『たとえば?』
目の前で、ドラムさんが兄さんに話を振っています。私は黙ってその話を聞いていることしかできません。
「ストップですわよ、リードさんたち」
『なんだよ、フォルテ』
ナイスです、フォルテさん。この場で私の正体にたどり着くことを阻止して下さいました。
「わたくしたちのそもそもの目的をお忘れでして? リリアさんのことは、今はどうでもよいことでしょう」
『ああ、そうだな。そうだった』
フォルテさんに言われて、兄さんは私の方に視線を向けたような気がします。心配してくれているということでしょうかね。
「ミクスさんと仰りましたわね」
「そうだけど。なんだよ、あんたは」
「申し遅れましたわ。わたくしはフォルテ・ピアノート子爵令嬢ですわ」
「けっ、お貴族様かよ」
フォルテさんが自己紹介をしますと、露骨なまでに嫌そうな顔をしていますね。どうやら、ミクスさんと仰るこの方、貴族のことをあまりよく思っていないようですよ。
ハラハラしながら、私はその様子を見守っています。
「私はモニーと申します。メジョールカ大陸で聖女を務めております。こちらの方はメロディさん、こちらのゴブリンはリリアさんです」
今度はモニーさんが話を始めます。私たちのことまで同時に紹介していますよ。これで、私は口を開かずに済みそうです。
「私たちは、私たちの持つこの楽器と呼ばれる聖器と同じような物を持つ方を探して、このティックの街までやってきたのです」
「これが、聖器だっていうのか? 聖器っていうのは、確か魔王や魔族に対抗しうるものだって聞いたんだが、こんなもので立ち向かえんのかよ」
モニーさんの説明を聞きながら、ミクスさんはものすごく嫌そうな顔をしています。どういった意味合いで、そんな表情をなさっているのでしょうか。
ですが、そんな態度を取られながらも、モニーさんはにこにこと笑顔を絶やしておりません。さすが聖女様ですね。
「魔族に対抗する力なら、ちゃんと持っておりますよ。そこにいるリリアさんとアニマートが証拠です」
「このゴブリンと鳥がか?」
モニーさんが聖器の力を紹介するために私たちへと視線を向けます。同時にミクスさんも視線を向けてきますが、疑り深い鋭い眼光で怖すぎます。
私は思わず体を震わせてしまいます。
「ギャッギャッ!」
あまりに鋭い視線だったがために、アニマートがミクスさんへと反論するかのように騒いでいます。そのこともあって、アニマートとミクスさんの間で火花が散っているように思えますね。
「はい。リリアさんもアニマートも魔物でした。ですが、私たちの聖器の力によって、心を改めて下さいました。どうでしょうか、ミクスさんも、その聖器の力を試してみませんか?」
モニーさんは両手をがっちりと組み合わせたまま、ミクスさんに笑顔を向けています。
ところが、モニーさんに笑顔を向けられたミクスさんは黙り込んでしまいました。
そうかと思うと、ミクスさんは私たちに出ていくように言ってきました。いろいろなことを言われて、おそらく混乱しているのでしょう。
なので、私たちはそれに従って部屋から出ていきました。
とりあえず私の正体は明かしませんでしたが、気になる私は最後までちらちらと視線を向けていたのでした。




