88曲目 ドラムとミクス
ティックの街の鍛冶工房のひとつで、ついに俺たちはもう一人のバンドメンバーである打弾弩羅夢と再会した。
俺たち同様に、打弾弩羅夢も自分の使っている楽器に意識が入った状態になっちまっていた。
『それにしてもキックドラムか』
『それはそうでしょうね。ドラム全体となると大きいですし、パーツが多すぎて自我が保てませんでしょうよ』
『普通に一番でかいパーツが選ばれたって感じですなぁ』
俺たちは、ドラムの姿を見てわいわいと盛り上がっている。
ただ、こっちの世界の連中は俺たちのことなんざ何も分からねえから、どういう反応をしていいのか困っているようだ。
「なあ、このへんてこな物体どもは、ドラムの仲間なのか?」
『ああ、俺様のバンド仲間だぜ。いやぁ、懐かしさのあまり、つい丁寧語で話してしまったなぁ』
坊主の問い掛けに反応しているドラムだが、やっぱさっきの言葉遣いはミスったのか。
とはいえ、全員揃ったことだし、自己紹介といこうじゃねえかよ。
『俺は暮軽利威度ってんだ。リードって呼んでくれ』
『俺は米須義多だ。ベスって呼んで下せえ』
『私は喜以保芽露です。名前の似た方がいらっしゃいますので、キーボとお呼びください』
『俺様は打弾弩羅夢。ドラムって呼んでくれりゃあいいぜ』
まずは俺たちが自己紹介するも、坊主は反応に困っているようだな。ドラムと一緒にいるっていうのに、さすがに喋る楽器ってのには抵抗があるか。
とはいえ、慣れてもらわねえとなぁ。俺たちがそろっちまった以上、巻き込まれるのは確定事項なんだからよぉ。
「私たちも自己紹介しないといけませんね。私はモニーと申します。東の大陸メジョールカで聖女をしております」
「わたくしはフォルテ・ピアノートですわ。父の爵位は子爵ですわよ」
「わ、私はメロディといいます。ただの村人です」
モニーが自己紹介をすると、続くようにしてフォルテとメロディも自己紹介をしている。にしても、やっぱりメロディの自己紹介がなんとも寂しいなぁ。事実なんだけどよ。
こうなれば、目の前の坊主だな。
ところが、この坊主ときたら機嫌悪そうに俺たちを見ながら黙り込んでいる。自己紹介の流れだろうが、さっさとしやがれよ。
『ミクス、君も自己紹介したらどうなんだい?』
ドラムも自己紹介をするように催促するも、坊主は黙り込んだままだ。
『おいこら、坊主。いつまで黙り込んでやがるんだ。残るはてめえだけだぞ』
俺は思わず声に出してしまう。
その瞬間、坊主の顔がカチンと不機嫌を露わにした。なんだ、やろうってのか?
「坊主って表現は、オレには合ってねえんだよ。ちぇ、仕方ねえ。その言葉を訂正させるためにも、自己紹介してやんよ」
坊主は頭をかきながら、俺の方をじっと睨みつけてくる。
「オレはミクス。鍛冶屋の娘だ。まったく、オレのどこをどう見たら男に間違うんだよ」
『はぁ?』
睨みつけてくるミクスとか名乗る坊主だが、どこをどう見たら女に見えるんだ?
どこをどう見ても男にしか見えないせいで、俺の頭は混乱し始めているぜ。
「失礼だとは思いますけれど、言葉遣い、服装、髪型、態度……。どれをとっても殿方のようにしか見えませんわよ」
そこに、フォルテが正直な言葉をぶつけていた。さすが貴族、やってくれるな。
「ああっ?!」
ところが、不機嫌極まりない表情でフォルテを睨みつけている。そういうところが男にしか見えねえって言ってるんだよ。こいつ、話が通じないタイプか?
俺どころか、周りのみんなも困ってるじゃねえか。
『悪いな、リーダーたち。ミクスはあの親父さんの下で育ったからか、そういう風に育ってしまってるみたいなんだ』
そんな中、ドラムが俺たちに対してフォローを入れ始めたようだ。
親父さんっていうのは、外でピッコロたちと話をしているあのバンダナ筋肉ひげ親父のことだな。かなりケンカ腰みてえだし、あの親父さんを見て育ったのなら、まぁ、こうなるのも頷けるってもんだ。
『子がいるなら、母親はどうしたんだ?』
「お袋なら旅に出てるよ。まったく、小さい頃までにしか会ったことがねえんで、記憶にはねえんだがな」
なるほどなぁ……。
母親の愛情も知らずに、頑固職人の父親の影響でこういう風になっちまったってわけか。
しばらく見させてもらって分かったが、体型的なところは男のそれとは違うところがあるっぽいな。年齢的にはフォルテくらいなんだろうが、フォルテと比べるとまあ……、いや、セクハラだからやめとくか。
とまあ、こんな感じで打弾弩羅夢との再会を喜んだわけなんだが、それ以上の衝撃に襲われて、なんだかそんな気分は吹き飛んじまったよ。
なんにしても、最後の聖器が見つかったわけだし、ドラムと一緒にこのミクスとかいう生意気な少女を俺たちの中に引き込むしかねえ。
ただ、ものすごく乱暴な性格ということもあり、男と間違えられたこともあってか少々ばかり厳しそうだ。
はてさて、一体どうしたものかねぇ……。
ちょっとしんみりした空気になったこともあってか、俺たちはどう話を切り出すべきか、頭を悩ませることになっていた。




