87曲目 ティックの鍛冶工房にて
俺たちがやってきた鍛冶屋の中では、朝っぱらから親御ゲンカの真っただ中だ。
頭にバンダナを巻いた筋肉のおっさんと、短い赤い髪の毛を逆立てた坊主が睨み合っている。まったく、一体何があったっていうんだ。よりによって俺らがやってくる日に限ってよ……。
なんともいえないタイミングの悪さに、俺の表情は多分ぐしゃぐしゃに歪んでるぜ。ギターになっているせいでよく分からねえがな。
「あの、お取込み失礼しますが、ジョッカ鍛冶工房で間違いありませんよね?」
「ああ、そうだ」
ピッコロがリーダーとして質問をすると、男はものすごくめんどくさそうな様子で答えている。取り込み中に話しかけんなという雰囲気が伝わってくるぜ。
だが、そうは問屋が卸しやしねえ。こっちだって用事はあるんだ。しかも、とんでもなく重要な用事がな。
俺はキーボと一緒になって、モニーに話題を切り出すように促す。俺たちに押されたモニーは、仕方ないですねという顔をしながら一歩前に踏み出している。
「朝からの訪問というご無礼をお許しください。私はメジョールカ大陸の聖女でモニーと申します。本日、こちらを訪問をさせていただいたのには理由があります」
「あん?」
モニーに対して、おっさんの鋭い視線が飛ぶ。この男、聖女相手でも遠慮がねえな。
「ほう、メジョールカ大陸からの客人かい。そりゃあ、遠くからわざわざご苦労なこった」
そうかと思えば、あごに手を当てながらじろじろとモニーのことを見始めた。職人なせいか、その視線はまるで見定めるかのような感じだな。
「だが、だからといって俺はひいきはしねえ。ここには聖女様の求めるような者はねえから、帰った帰った」
そうかと思えば、今度は俺たちを追い出そうとしてきた。話を聞く気がほとんどねえな、このおっさん。
さすがにカチンと来た俺は、メロディに声をかける。
『メロディ、ちょっとだけ俺を鳴らせ。聖器があるなら、きっと何かしら反応があるはずだ』
「わ、分かりました」
俺の声を聞いたメロディは、俺をしっかりと構えると、すうっと深呼吸をして思いっきり弦を弾く。
ギャーンという音が工房の中に響き渡る。それと同時に、工房の中はしんと静まり返ってしまった。おや、これはハズレかな?
そう思った時だった。
『こいつは、リーダーのギターの音だ!』
どこからともなく声が聞こえてきた。しかも、なんかすんごく聞き覚えのある声だ。
やっぱり、打弾弩羅夢のやつはここにいるってことで間違いないな。
よく見ると、赤い髪の坊主も声のした方向に顔を向けている。ということは、こいつがドラムの主ってわけだな。
「なんだ、今の音は」
「親父、今のはそこのちび女が持っているへんてこなやつから出た音だよ」
「なんと。そんな妙な形のものから発せられたというのか? むむむっ、興味深いな」
げっ、なんかこのおっさん、妙なスイッチが入ったか?
坊主とのやり取りが終わると、俺からまったく目を離そうとしないんだが……。俺はぞわぞわとした寒気を感じてしまっている。
だけどよ。俺が鳴らした音が原因で、工房の中の雰囲気が変わったのは間違いねえ。親子ゲンカは終わったみたいだし、俺たちに対する視線もまったく違ったものになっている。
「なあ、親父」
「なんだ? ちょっくらこの妙な道具を持った連中と話をさせてもらっていいか? オレの持っているやつとどこか似てる感じがするんでな」
「あん? ああ、あの拾った変な筒か。分かった、そいつらはお前に任せるとする。俺は、こいつらの相手だな」
おっさんは俺たちを坊主に任せると、ピッコロたち三人の方へと視線を向けている。リリアはいなくて正解だったな。
ピッコロたちにおっさんがうざ絡みをし始めると、それをしり目に、俺たちは工房の奥へと案内される。
それにしても、あのおっさんの子どもにしちゃあ、この坊主はずいぶんときゃしゃな体をしてんな。もっとこう、がっちりしててもいいような気もするんだが。
まっ、細っちょろい体で力持ちとか、ファンタジーじゃよくある話だから、あんまり気にすることじゃないか。
俺たちは坊主の案内で工房の奥へとやってきた。
「オレの部屋だ。ちょっと散らかっちゃいるが、気にしないでくれ」
「は、はい」
坊主の言葉に、モニーだけがなんとか反応している。メロディとフォルテは、完全に雰囲気にのまれている感じだな。まっ、しょうがないな。
部屋の中に入ると、散らかっているという割にはずいぶんときれいに片付いているようだ。なんだ、散らかっているうちに入らねえぞ、これ。
「なあ、お前ら」
「なんでしょうか」
部屋の隅っこの方へ行ったかと思うと、後ろを向いたまま、坊主が話し掛けてくる。
そうかと思うと、何かを抱え上げるような動作をして、俺たちの方へと振り返ってきた。
「こいつが何か分かるか?」
坊主が持っているのは……間違いない。これはドラムのやつが使っているキックドラムだ。
だが、分かるのは楽器である俺たちだけで、メロディたちは顔を見合わせながら首を捻るばかりだった。
『ははっ、こんなところにいやがるとはなぁ!』
「り、リードさん?!」
「うわっ、どっから聞こえんだよ、この声!」
俺が大きな声で喋ると、メロディと同時に目の前の坊主も驚いている。
『やっぱこの声、リーダーですね。会いたかったですよ、リーダー!』
『おう、やっと会えたな、ドラム!』
ようやく俺たちのバンドメンバーが、勢ぞろいした瞬間だった。
ははっ、なんか嬉しくて涙が出そうになるぜ。




