86曲目 鍛冶師の街ティック
ティックについてからというもの、やはりというかリリアの落ち着きがなくなっていた。俺も影響されたとはいえ、こいつは重度の刀好きだからな。まさか、目的が聖器だっていうことを忘れてねえよなぁ?
俺がじろりとリリアに視線を向けると、視線を感じたのかリリアが体をびくっと跳ねさせていた。
しばらくすると、ピッコロたちが戻ってくる。
「すまない、待たせてしまいましたね。数日間、滞在することになるから、先に宿に行きましょう」
「分かりました」
どうやら宿の方が先らしい。多分、お金が足りねえってことなんだろうな。
ちらりともう一台の馬車を見る。
そこにはとにかくお金のかかりそうなやつがごろごろと存在している。ほとんど肉しか食わねえ連中だからなぁ、こいつらは。
ついでに言えば、こいつらがいるからどうしても大部屋になっちまう。だから、宿に泊まるとその分余計に金がかかるんだよ。
事情が分かるだけに、俺たちからは反対の声が出ることはなかった。
案の定、ティックの宿屋に行くと、スフォルたちの分だけ大きな部屋が割り当てられた。これだけで、一日あたり倍近いお金がかかる。いや、食事代を入れれば、倍以上どころか三倍近くなるぜ。
到着時間のこともあって、今日のところはこのまま宿で滞在することになった。
「それで、問題の聖器のことは聞き出せましたのかしら」
一部屋に集まって話を始めると、フォルテが真っ先に最優先の話題を切り出している。
俺たちが最も気にするのはそこだよな。なんといっても、俺たちのもう一人の仲間である打弾弩羅夢かどうかっていう最大の関心事があるわけだからな。
ドラムっていうのは、バンドにとっちゃ要なんだよな。リーダーである俺はどっちかというと引っ張っていくタイプだ。ドラム担当の打弾弩羅夢は、それをそこから支えるって感じなんだよ。
それにだ。やっぱりドラムのないバンドっていうのはどこか締まりがねえ。やっぱ、俺たちにはあいつが必要なんだよな。
「ああ、それだったら情報は手に入りましたよ」
っと、そういえば聖器を探しに行くって話だったな。
ピッコロが冒険者ギルドでもらった街の地図を広げている。かと思えば、とある地点を指差した。
「ここが変な道具があるっていう鍛冶屋ですね。宿がここですから、すぐ近くになります」
「思ったよりも目と鼻の先ですね」
おっと、そういう慣用句はこっちの世界にもあるのか。いや、俺たちの都合で勝手に翻訳されているだけかもしれないな。うん、こういうことに突っ込むのは野暮だ、黙って聞いておこう。
俺はじっと地図へと視線を落としている。
「近いですけれど、やはり先に長旅の疲れをとる方が先決ですね。というのも、相手は頭の固い鍛冶屋が相手ですからね」
「今すぐに行くと何か不都合でも?」
「はい。下手に怒らせようものなら、そのまま口論に突入しかねません。職業柄、彼らは短気で力が強いですから、もしみなさんを守れないなんてことがあっては困るわけですよ」
あーなるほどな。普段金属相手に格闘している連中だもんな、鍛冶師ってのは。こだわりはあるし、腕っぷしも強いっていうから、まあ警戒して当然ってわけか。
いろいろと納得のいった俺は、とにかくピッコロたち冒険者たちの意見を黙って聞いている。
そんなわけで、今日のところは早めに休むことにした。
食事は部屋まで持ってきてもらえたんだが、これがまたうまかったらしい。鍛冶屋の街だからか、食事にもずいぶんとこだわりがあるみたいだ。くそっ、こんな体だから食えねえのが悲しくて仕方がねえ。あとで由利のやつから聞き出してやる。
そんなこんなで、翌日を迎える。
この日は、リリアには別行動をとってもらった。
もし目的地に行って聖器があり、それが打弾弩羅夢だとすると、リリアのことに気が付くかもしれねえからな。あと、魔物たちには自分たちの食い扶持を自分で稼いでもらわねえといけねえ。そのことを話すと、スフォルたちは喜んでいたな。フォルテたちの役に立てると思ったんだろうな。
冒険者ギルドに向かっていったリリアたちを見送ると、俺たちは目的の鍛冶屋へと向かっていく。
その目的の鍛冶屋だが、本当に俺たちの泊まっている宿からすごく近かった。多分、冒険者ギルドの人が分かって手配してくれたんだろうな。
俺たちが鍛冶屋に到着して、中を覗き込もうとする。
「なんだと、このくそ親父が!」
そんな声が聞こえて来たかと思うと、何かが勢いよく飛んできた。
ドカッという音が響き渡り、何かが床に落ちる。何が飛んできたかと思えば、トンカチじゃねえか。
まったく怖いもんだな。
「おいおい、朝っぱらから親子ゲンカですか。鍛冶師ってそんなに血の気の多い職業なんですかね」
冒険者のリーダーであるピッコロが、オカリナとフルートを連れて鍛冶屋の中に入っていく。
「誰だ!」
野太い声が響き渡り、誰かが歩いてくる。
うわぉ、実にテンプレート的な、筋肉隆々のひげ親父が出てきたな。頭にはバンダナを巻いているし、服装全体から鍛冶師だって雰囲気が漂っているぜ。
出てきたおっさんとピッコロたちの間で、どういうわけか火花が散っている。
おいおい、最初っからこんな調子で大丈夫かよ。
あまりの雰囲気に、俺はつい心配になってきちまったぜ。




