84曲目 ティックに向けて出発だ
準備に時間がかかるということで、俺たちはもう一泊フェルマでのんびりとしていた。
次の目的地は、同じテヌート王国の中にあるティックという田舎町らしい。話によれば、近くに鉱山があるので、鍛冶が盛んなのだという。
その話を聞いた時、俺はなんともわくわくしたものだ。
それというのも、だいたいは妹である由利のせいだ。あいつ、話をするたびに刀のことをやたらと話してくる。なんでもそういう系統のゲームにはまったとかなんとからしい。
由利の影響のせいで、俺もそこそこ詳しいくらいになっちまったし、一回鍛えるところを見に行きてえなぁとか思ってたんだ。
結局、ノーマルタイヤのバカが山道走ってたせいで、拝めねえままこんな体になっちまったんだがな。
「リードさん、なんだか楽しそうにしてません?」
『おう、そんな風に見えるか?』
俺といろいろ共有しているメロディが声をかけてくる。やばいな、楽しみにしているのが伝わっちまったか。
『リーダーは、鍛冶が見れるってうきうきしてんですよ』
『そういえば、時々話をしていましたよね。刀がどうだとかって』
「カタ……ナ? なんですか、それ」
ベスとキーボのやつが余計なことを言うから、メロディが興味を持ってしまったじゃねえか。やめてくれよな、そういう話を勝手にするのは。
『刀というのは、私たちが元々いた場所に伝わっている刃物ですよ。こちらでいうところの剣といったところです』
「へえ、剣なんですか。そのようなものがあるんですね」
『まっ、詳しい話になるとリーダーが止まらねえから、この話題はここらで打ち切っときやしょうぜ』
『ですね。オタク特有の早口を発動されては、面倒なことになりますからね』
『おまえらっ! 俺を何だと思ってるんだよ』
『刀オタク』
『ぐっ!』
くそっ、二人が声をそろえて言いやがって! その通りだから反論できねえじゃねえか。
俺がぐぬぬぬと震えながら周りを見ると、リリアもなんだかそわそわしてやがる。
そうだよ、俺以上の刀オタクだからな。でも、リリアのことについては秘密にしているから、指摘ができねえ。くそっ、なんて卑怯な!
とまあ、その日の夜はこんな感じに賑やかに過ごしていたな。
とりあえず、なんにしてもいろんな意味でティックの街が楽しみなのは違いないからな。
翌日、俺たちは冒険者ギルドに向かう。
到着すると、そこには馬車が二台と、見たことのない女性が数名立っていた。
「おはようございます」
メロディたちが挨拶をすると、ミュゼスとヴィオラが気が付いて顔を向けてくる。
「やあ、来たか」
「おはようございます。出発の支度は整っておりますので、すぐにでも出発しましょう。魔王絡みであれば、少しでも早い方がいいでしょうからね」
「そうですわね。それはそれとして、そちらの方はどなた様かしら」
ヴィオラに言われたことにフォルテが同意しているが、やはり立っている冒険者のことが気になっているようだ。
待ってましたとばかりにヴィオラがにこりと微笑む。
「フェルマの冒険者の中では中堅に位置する冒険者たちです。あなたたち、自己紹介しなさい」
ヴィオラに言われ、女性たちはモニーたちの前に整列する。
「私はピッコロと申します。見ての通り剣士です」
「遊撃を得意とするオカリナと申します」
「フルートと申します。魔法なら基本的なものはひと通り使えます」
女性三人がそれぞれ自己紹介をしてくる。
なんで音楽がない世界なのに、名前が楽器なんだよ。しかも、全員笛じゃねえか。誰だ、この名前を付けたやつは! おいこら出てこいや!
まぁ、この際名前はどうでもいいか。しばらくはこの三人に世話になるんだしな。
「お話は伺っておりますので、そちらの自己紹介は不要です。では早速、ティックへと向けて出発しましょう」
「は、はい。よろしくお願いします」
ピッコロの声に、メロディは頭を下げている。
ひと通りの話を終えると、俺たちは馬車へと乗り込む。
メロディ、フォルテ、モニーとリリアの四人と、スフォルたち魔物たちで馬車が分かれる。
スフォルたちは文句を言うように唸ってはいたが、フォルテとモニーでどうにか言い聞かせていた。
ちなみにだが、空の飛べるアニマートのやつはそのまま空から警戒にあたるために、馬車には乗り込んでいない。そのため、スフォルたちからはうらやましがられていた。
「では、我々は出発致します」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい」
ピッコロたちはミュゼスとヴィオラと言葉を交わし、いよいよ馬車を走らせ始める。
そういえば、こっちに来てからはスフォルたちで移動していたから、今回初めての馬車だな。乗っていなかった期間はそんなに長くないが、なんとも久しぶりな気がするぜ。
あと、ちょっと困ったことに、最初は俺たちはメロディたちと別々の馬車に乗せられかけた。聖器とはいえ、ただの荷物扱いにされかかったってことだ。だが、それはモニーが必死に訴えたためになんとか免れた。
事情を知らなきゃ、そういうことになるんだろうな。先日、わざわざ演奏してみせたったのにな。さすが、音楽のない世界ってところだぜ。
とまあ、出発にあたってもいろいろとトラブルはあったんだが、俺たちは無事にティックへ向けて王都を発った。
さて、鍛冶の街ティックとやらはどんなところなんだろうな。俺は楽しみのあまり心を躍らせてしまっていた。




