82曲目 フェルマの冒険者ギルドへ
最初に国王に謁見したことで、俺たちは冒険者ギルドに行く必要はなくなった。国王の名の下に、スフォルやリリアたちはしっかりと認証されたからな。
ところがどっこい、ミュゼスがどうしてもというので、俺たちはフェルマの冒険者ギルドに行くことになった。そういや、こいつは冒険者ギルドのマスターだったな。
同僚に挨拶に行くのだろうと思ったので、俺たちはそれに付き合うことにした。
城を出た俺たちは、貴族街と平民外の境界付近にある冒険者ギルドへとやってきた。
冒険者ギルドへと入っていくと、中は騒然となる。
もちろん、俺たちが原因だろうと思っていたら、中の人たちはほとんどがミュゼスを見ている。
「ミュゼス様?! お戻りになられていたのですか」
冒険者ギルドの奥から、すらりとした体型の女性が出てくる。どうやらミュゼスの知り合いのようだが、様付けとは一体どういうことだ?
「久しぶりだね、ヴィオラ」
出てきた女性に対して、ミュゼスはさらりと挨拶をしている。やはり知り合いのようだ。
驚いていた俺たちだが、ヴィオラと呼ばれた女性は、俺たちも含めてギルドの奥へと案内し始めた。何が起きているというんだ。
俺たちは、冒険者ギルドのマスターの部屋へとやってきた。つまり、このヴィオラという女性の執務室だ。
応接用のテーブルに座るように勧めてくるので、メロディたちはそれに従い座っている。人型の魔物であるリリアも同じように座っている。ちなみにスフォルたちは後ろでしっかり座っているし、アニマートも同じようにおとなしくしている。魔物とは思えない行儀の良さだぜ。
「まったく、これだけ多くの魔物が王都にいるとは前代未聞ね」
「まあ、そうだな。俺もスラーで見た時は驚かされたよ。だが、それ以上に驚かされたこともあるのだけどね」
「それはなんでしょうか」
ミュゼスの話がとても気になっているようだ。それを受けて、ミュゼスはモニーに声をかけている。スコア国王から渡された王令状を出すように言っているみたいだな。
モニーから王令状を渡され、ヴィオラは広げて目を通す。読み終わったヴィオラは、眉間に指を当てながら下を向いてしまった。
「いや、まあ……。このスコア国王というのは、頭のおかしい人ですね。聖器を持っているとしても、こんな少女たちに護衛もなしで魔王討伐を命じるとは……」
おう、もろに口に出してくれたな。こっちの人間はまだ常識がありそうで安心したぜ。
頭を上げたヴィオラは、モニーに王令状を返し、じっと真剣な表情を向けてくる。
「ところで、聖器を見せていただいてもよろしいでしょうか」
「はい」
真面目にお願いをされたので、モニーはメロディとフォルテに視線を向けて、抱えている俺たちをテーブルの上に……置けなかった。
分かっちゃいたが、俺たちがでかすぎんだよ。特にキーボ。
そんなわけで、メロディたちは俺たちを抱え、モニーの持っているキーボだけをテーブルへと置くことになった。
「見たことのない形の道具ですね」
俺たちを見たヴィオラの第一声はそれだった。いや、楽器の名前を持っているのに、楽器は見たことねえってオチかな、こりゃ。
「これらが、わたくしたちの持つ聖器ですわ」
フォルテが俺やベスを指差しながらはっきりと告げる。
「すまないが、どういうものなのか説明をしてもらってもいいかな?」
ミュゼスが確認してくる。
そしたら、何を思ったのか、メロディたちは俺たちを持って立ち上がっていた。
なるほどな、口で説明するよりは、実際を見せた方が早いというわけだ。
『メロディ、みんな、やるならワンコーラスくらいにしておけ。こういう時は手短にしておいた方がいいからな』
『ちなみに、ワンコーラスというのは、サビまでを一回だけ演奏して終わりにすることです。すべてを演奏したら、それはフルコーラスというんですよ』
俺たちの言葉に、メロディたちは小さく頷く。
そして、互いを見合ってタイミングを計る。
次の瞬間、ギルドマスターの部屋に俺たちの音楽が響き渡る。唐突に大きな音が響き渡ったので、ミュゼスもヴィオラも、思わず耳を塞いでしまっていた。ちなみにだが、聞き慣れてしまったスフォルたちは平然としているぞ。
ワンコーラスに絞ったので、演奏終わりまでは一分四十秒ほど。慣れない連中には雑音だろうが、これが俺たち聖器の使い道なんだよ。
「な、なんという魔力のこもった力だ」
「ああ、耳が痛いわ……」
至近距離で聞いたこともあって、二人のダメージは相当あるみたいだ。同じ至近距離で聞いていたリリアがピンピンとしているから、やっぱり慣れが必要なんだな。
「私たちは、魔王を討伐するためにマイネリア大陸に来たのですが、実は、聖器はもうひとつあるようなのです。その情報をご存じありませんでしょうか」
演奏を終えて、モニーが必死の様子で訴えている。
その必死な様子を見て、ミュゼスもヴィオラもどうしたものかと顔を見合わせていた。
「ごめんなさい、今のところすぐに情報が出せないですね。今日のところはここまでにしてもらって、また、明日来てもらえないでしょうか」
「承知致しました。それでは、また明日、改めてお伺いさせていただきます」
ヴィオラからの提案を受け、俺たちは一度冒険者ギルドを去ることとなった。
一度保留にしたということは、もしやということはあり得る。ちょっとした期待を持って、この時はおとなしく引き下がった俺たちだった。




