77曲目 ただで海は渡れない
ミドレストを出発した俺たちは、航海を順調に続けている。
ただ、ミドレストまでとは違って、今回は魔物どもがちょくちょくちょっかいをかけてきている。まったく、なんだっていうんだ。
「こんなに魔物が出るなんて聞いていないぞ」
「いつもの航路だっていうのに、なんだっていうんだ」
どうやら船員たちも経験のない襲撃のようだ。となれば、何かに反応して魔物が襲い掛かってきてるというのか?
考えても分からないな。となれば、俺たちにできることは魔物を追っ払うことだけだ。
海の上ではスフォルたちウルフはほとんど役に立たない。なにせ、落ちてしまったら助けるのが困難だからな。
となれば、フォルテとモニーの魔法とアニマートくらいしか攻撃する手段がない。船員たちもそれなりに戦える人間ではあるみたいだが、限度っていうものがあるからな。
本当に、なんだってこんなに魔物が襲い掛かってくるんだ。
「悪しき者たちをこの船から遠ざけませんと」
「本当ですわね。このままでは、船を沈められかねませんわよ」
「わ、私だって戦います」
モニーとフォルテに続いて、メロディも参戦するつもりのようだ。とはいえ、メロディはほぼ特殊能力がない一般人だ。戦うには向いていねえ。
そうだ。俺たちの楽器といえば、そもそも電気を使っているな。それなら……。
『メロディ!』
「なんでしょうか、リードさん」
『海に向かって、俺をかき鳴らせ! 俺の予想通りなら、魔物どもをおとなしくできるはずだ!』
「なんだかよく分かりませんけど、分かりました!」
俺の圧に負けたのか、メロディは俺をしっかりと構えて甲板の中央に立つ。
すぅっと息を吸い込むと、思い切り俺をかき鳴らし始める。
どんな旋律かは分からねえでたらめな音楽だが、なんだろうと音が出せれば問題ねえ。
「う、うるせぇっ!」
「こんなんで戦いに集中できるか!」
さすがに音楽のない世界だと、俺の音は雑音にしかならねえよな。まあ、メロディがかき鳴らしているのはまったくでたらめなんで、間違っちゃいないんだがな。
だが、でたらめだろうが今は関係ねぇっ!
俺は気合いを入れて集中すると、音にエレキギターらしさを乗せていく。
「な、なんですの、これは……」
「なんだか、空気がピリピリします」
フォルテたちが異変を感じ取ったようだ。
そう。今メロディが奏でている音に、エレキギターっぽく電気を乗せているんだ。普通ならそうでもないんだが、これが海水に触れればどうなるか……。
「ギエエエエッ!!」
「ゴオオオオッ!!」
突然、魔物たちが苦しみ始める。
あまりにも突然のことに、船に乗っている全員が驚いている。
『へへっ、狙った通りだぜ』
俺は顔をにやつかせている。いや、今はただのリードギターだから、顔なんてものがあるかといわれたら困るんだがな。
「ど、どういうことですの、これは」
フォルテが声を上げて驚いている。
『なるほどな。リーダーは電気で海の連中にダメージを与えたってわけだ』
「で、電気?」
ベスがすぐに分かったようだが、電気が分からないフォルテはさらに頭がこんがらがっていく。
『なんと説明したらいいのでしょうかね。この世界にも雷はありますよね』
「はい、雷はございます」
『モニーさん、ありがとうございます。その雷を小規模化したものといったところでしょうか。私たちの世界では、その電気を使ってあらゆるものを動かします。その電気というものは、人や動物が触れると、たちまちに大きなダメージを受けてしまうものなのです』
「よ、よく分かりませんね……」
キーボの説明でもよく分からないらしい。モニーは首を横に振っているようだ。
『電気ってのはな、海水だとよく通るんだよ。俺たちはそうでもないが、あいつらは海水の中から出てきたからな。だから、耳からその海水を伝って、体の中に大きなダメージを与えているってわけさ』
「な、なるほど、よく分かりません」
俺が説明を加えてやるも、メロディにはっきりこう言われてしまった。まあ、俺たちも知識不足でうまく伝えられねえから、しょうがねえな。
だが、そうやっている間に船を襲った魔物どもは、次々と動かなくなって沈んでいく。俺たちの音から遠ざかろうとしているんだろうな。
一部、力尽きた連中は海面に浮かんでいた。
やがて静かになると、俺はメロディに演奏をやめるように伝えた。
「すげぇ、魔物どもが全部逃げていった」
「嬢ちゃん、やるじゃねえか!」
「耳障りだったが、効果はすごかったぞ!」
「えへ、あはははは……」
船員たちに囲まれて、メロディは対応に困っていた。
なんにせよ、魔物は撃退された。
力尽きた魔物は船の上に引き上げられ、解体処理をしてから再び海の中へと投げ捨てられていた。
おかげで、その日の夜は豪華な海鮮料理だったぜ。楽器の体じゃ食えねえのが残念だがな。
俺が電気の力で魔物を退けてからというもの、すっかり魔物の襲撃はなくなった。下手に手を出せばやられると学習したのだろう。
ようやく安心できる状況になった俺たちの目の前に、いよいよ陸地が見えてきた。
「見えてきたぞ! あれがマイネリア大陸だ」
船員たちの声に、俺たちはようやくほっとする。
長い船旅を終えて、俺たちは目的地であるマイネリア大陸に上陸することになる。
さあ、早いところドラムを見つけて、久しぶりにバンドのメンバーを勢ぞろいさせねえとな。
俺たちを乗せた船は、いよいよ港町ラルゴへと到着しようとしていたのだった。




