116曲目 知らないを作りましょう
再びリリアとして異世界に戻った私は、どうしたものかと頭を抱えたものでした。
(はぁ……、まさかあのハキースって魔族が蓮美とはねぇ……。私も人のことを言えた義理じゃないですけど)
そう、昨日、私たちと戦った魔族が、向こうの親友である蓮美と同一人物だなんて思ってもみませんでしたからね。うん、さすがにこれは兄さんたちには教えられません。
ですけれど、私だけが知っているというこの状況は、はっきり言って心苦しいですね。
それにしても、なぜ私はリリアになると丁寧語になるんでしょうね。まったく分かりませんね。
まぁ、それはどうでもいいですね。今の問題は、どうやって魔族たちを追い返すかですから。
あのハキースという魔族が蓮美であるので、私にはとてもではないですけれど殺せませんからね。あと、歌に関してもほぼ互角です。採点付きカラオケでまともに決着が付いたことがありませんから。
改めて私は、大きなため息をつきます。
「ハキースの正体のことを考えますと、既存の楽曲ではすべて歌われてしまいます。なにせ、私と一緒にいますから、兄さんの楽曲は全部知っていますからね。うむむむ、こうなったら、私たちのオリジナル楽曲を作るしかありませんね」
いろいろと悩んだ結果、私はそのような結論に至りました。
私はぐっと立ち上がります。
勢いよく立ち上がった私にスフォルたちが近付いてきましたので、私はその体を撫でてあげます。
「さあ、みなさん。一緒に朝食を食べに行きましょうか」
「ばうっ!」
声をかけますと、元気よく返事をしてくれましたので、私はにっこりと微笑んで一緒に部屋を出ていきました。
食堂へとやってまいりますと、メロディさんたちが全員集まっておりました。どうやら私たちが最後のようです。
「あら、リリアさん、遅かったですね」
「ごめんなさい。ちょっと起きてから考えごとをしていましたので」
フォルテさんから声をかけられてしまいましたので、私は言い訳をしておきます。実際に考えごとはしていましたからね。
言い訳をしましたが、フォルテさんは特にお小言を言うことなく、私に座るように促してきました。ここまで一緒に旅をしてきた仲間ですから、気を遣っていらっしゃるのかもしれませんね。
食事の席に着きました私は、しばらくは黙って朝食を食べています。話をし始めて食事が止まってしまってはどうかと思いましたからね。なので、ある程度食べ終わるまでは話をしないようにしました。
そうして、食事もほとんど終わる頃になりました。そろそろ頃合いかと思いまして、私は話を切り出そうとします。
ですが、それよりも早く話をし始めた人がいました。
『そろそろ食事も終わるな。じゃあ、ちょっと話を始めるとしようか』
ええ、兄さんですよ。
どうや他続いた言葉を聞く限り、兄さんもハキースのことが気になっているようです。なにせ、自分たちの楽曲の歌を歌われてしまったのですからね。
知られているということは、以前に戦いましたディスコーのようにはいかないということです。それに、こちらの楽曲の効果を打ち消されかねません。そう、私たちを従えることのできたあの効果をです。
となると、早急に対策が必要になるということですね。
さすが兄さんです。私と同じことを考えていました。
『確かに、あれは驚きやしたね。まさか俺たちの楽曲を歌われるとは……』
『昨日聞かされた時、私も驚きましたね。もしかしたら、魔族の中に何かネットワークがあるのですかね』
ああ、キーボさんがあさってな推理をしてます。でも、私たちのことを疑わないだけマシですかね。これにはちょっと安心しました。
ですが、そこから先はあれこれと意見がぶつかり合いそうな雰囲気になりました。ケンカになっては困りますので、ここは私が思い切って提案してみることにします。
「あの、よろしいでしょうか」
「なんでしょうか、リリアさん」
私が小さく手を挙げて主張すると、フォルテさんがこっちを見てきました。
「新しい曲を作ってみるというのはどうでしょうか。歌われてしまうのであれば、対策としては知らない曲をぶつけるしかありません。ならば、新曲を作るのが一番かと思うんです」
『いやぁ、俺たちが演奏できればその問題は簡単に解決するんだがなぁ……』
『俺様たちがこんな体じゃ、演奏したくてもできねえしなぁ』
『そうですね。モニーさんたちに演奏していただくにしても、どうやって音を伝えるかという問題がありますからね』
『それにだ。曲を作るっていったって、一朝一夕にいくもんじゃねえ。軽々しく言うんじゃねえぞ』
うわぁ、兄さんたちから総反撃をされしまいましたよ。やはり、自分で演奏できないというのはネックなのですね。これは困ってしまいました。
ですが、これに対して演奏者であるメロディさんたちは考え込んでいます。
「そうですわね。わたくしたちもベスさんたちを手にしてから長いのです。自分たちで楽曲を作ってみるというのはありかもしれませんわね」
「そうだな。俺はあんたらと知り合ってから短いが、面白そうだし手伝ってやるよ」
なんてことですかね。フォルテさんやミクスさんはやる気十分のようです。
この様子を見た兄さんたちは、どうやら乗っかることにしたようですね。
『分かった。なら、やってやるか。俺たちの異世界での初めての作品をよ』
兄さんがこう発言すると、みなさん元気よく同意してくれたようです。
こうして長らく既存曲でやってきた私たちに、新しい曲が生まれることになったのでした。




