113曲目 レンガート最前線
負傷した兵士たちがいる場所では、モニーがキーボードを演奏していた。
ケガの種類によっては、音楽は悪い影響を及ぼしかねないんで、こういう場所では普通は遠慮をするもんだ。だが、音楽がないこの世界じゃ、そんな断りみたいなものはないんだよな。
だが、この音楽は普通の音楽とは違う感じだ。
キーボもそもそも俺たちのバンドの中では意見の調整役みたいな役割を担っていることが多い。そのことが影響しているのか、場所に響き渡る音楽は、なんとも心地いい感じのものとなっていた。おそらくは、そんなキーボの性格とモニーの聖女としての能力の相性がいいってことなんだろう。
『なんとも癒されやすねぇ』
『だな。さすが相棒となるだけあってか、音楽と能力の相性がいいみたいだな』
離れた位置で様子を見守りながら、俺たちはそんな感想を抱いていた。
ところが、そんなほのぼのした雰囲気は、すぐに終わりを迎える。
「た、大変だ」
「どうした」
「魔王四天王が、直接打って出てきたんだ」
「なんだと?!」
兵士が報告にやってきて、場に緊張が走る。
そういや、ここは戦いの最前線の少し後ろだったな。となりゃあ、こんな報告が飛び込んできても当たり前ってわけか。
四天王の一人が出てくるとは、向こうも焦っているってことなんだろうな。
現場は当然のように騒然となってしまっている。対処をどのようにすべきか、慌てたように対策を練り始めていた。
俺たちは、まだ軽度のケガ人たちに対して、ちょっと声をかけてみることにした。どう動くべきか、ちょっとでも情報が欲しいからな。
俺たちが話し掛けたケガ人は、快く情報を話してくれた。
今レンガートの街で交戦している魔王四天王は、声のハキースという名前の女性型の魔族らしい。なんでも、声を使って敵味方関わらずに操ってみせるのだという。
普通に聞いただけでも、かなりやばそうな相手じゃねえか。声で操るっていうことは、耳を持っているならば誰だって通じるってことなんだからな。
幸いながら、今まではほとんど前線に出てこなかったので、テヌート側はなんとか戦えていたらしい。
『なんともめんどくせぇことだな』
『だが、声であるのなら俺様たちの出番ってもんですぜ、リーダー』
『まあ、そうだな。俺たちの武器は音楽だ。声を使うというのであれば、うまくいけば打ち消せるからな』
そう。普通ならば脅威となる声というものも、俺たちの音楽も、どちらも音というものを介している。なので、対消滅ということも可能というわけだ。
俺たちは、すぐに打って出ることにする。
声のハキースとかいう魔族にも興味があるしな。
俺たちそろって出発……といきたかったが、モニーとキーボはまだ治療の真っ最中。やむなく、モニーだけを残して出発することにした。もちろん、伝言だけは頼んでおいたがな。
俺たちは戦いの最前線へと赴く。そこでは、俺たちには信じられない光景が広がっていた。
こちらの世界にやってきて何度か見てきた光景だが、やはりまだ俺たちには非日常のように映る。守りをガチガチに固めた兵士たちが、剣を持って魔族や魔物と戦う姿だ。
互いに攻撃を仕掛ければ、傷ついたりぶっ飛んだりする。これが戦いなんだなと、改めて心が痛むぜ。
『よしっ。俺たちの音楽で、魔族どもを追い返すぞ』
「はいっ!」
いつまでもびびってられねぇ。俺は思い切って声を出して、メロディたちに呼び掛ける。
リリアはボーカルとして残ってもらい、スフォルたちには兵士たちを援護するように指示を出す。魔物ではあるが、従魔の証を持っているので、区別はつくだろう。
久々に暴れられるとなれば、スフォルたちは喜んで飛び出していった。
俺たちはモニーとキーボを欠いた状態ではあるが、早速演奏へと入る。
ドラムは変形して、ドラムセットとなる。備えられた椅子にはミクスが座って準備完了だ。
『おらぁっ! 俺たちの魂を聞きやがれぇっ!』
俺の声が響くと、ミクスの手によってスティックが打ち鳴らされる。
それを合図として、戦場に向けて俺たちの音楽が響き渡る。キーボがいないのでちょっと音が足りないが、今はそうこう言ってられねぇ。
なんとしても魔族たちを追い返すべく、俺たちは全身全霊を込めて音楽を奏でる。
リリアもボーカルとして、しっかりと歌っている。
そういや、あのマイクってどこで手に入れたんだろうな。リリアは話してくれた覚えがない。気になるが、それはまた後でって話だ。俺たちはとにかく音楽をかき鳴らす。
バサッバサッ……。
俺たちの耳に、翼がはためく音が聞こえてくる。
そうかと思えば、シャンという音まで聞こえてきた。
「ふふふっ。これがうわさに聞いた連中ね。なるほど、耳障りな音だことね」
なんだこいつは。俺たちの音楽を聞きながらも、平然と立っているぞ。
どういうことだ。ディスコーの奴は音楽に耐えきれず撤退したというのに。
だが、今さらながらに音楽は止められない。ならば、もっと魂を込めてかき鳴らすのみだ!
「あたしの名前はハキース。魔王四天王の一人、声のハキースよ。お会いしたかったわ、みなさん」
俺たちの音楽が激しくなる中、目の前に現れた魔族が平然と自己紹介をしてきたのだった。
それこそが、音を操る者同士が対峙した瞬間だった。




