112曲目 レンガートの街にて
俺たちはようやくレンガートの街に到着する。どうにか街に入ったのはいいのだが、俺たちの目の前から兵士が大慌てで走ってくる姿が見える。一体どうしたっていうんだ。
「せ、聖女様でいらっしゃいますでしょうか」
何かと思えば、どうやらモニーに用事があるらしい。
「はい、私が聖女ですけれど」
兵士たちの質問に、モニーが答える。そしたら、連中は安心した表情を浮かべている。
悪いんだが、分かるように事情を説明してもらいたいなぁ。
「実は、魔族との交戦において、多くの負傷者が出ているのです」
「治療は施しているのですが、いかんせん被害が大きく間に合っておりませんでして、聖女様のお力をお借りしたいのです」
ああ、なるほど。そういうわけか。
そういや、この手の話だと、聖女っていうのはそういう役割を担っているもんなぁ。この世界もそういう世界だったってわけだな。
俺が納得している目の前では、モニーは少しだけ考え込んでいる。
モニーの性格上、二つ返事で引き受けると思ったんだが、これは意外な反応だったぜ。
そうかと思えば、モニーは顔を上げている。
「承知致しました。すぐにご案内をいただけますでしょうか」
「は、はい。こちらです」
兵士たちはすぐに案内をしようとするが、モニーは呼び止めて条件を追加していた。
「彼女たちもご一緒させて下さい。私が治療を施している間、戦況についてお教えいただけると助かりますから」
「は、はい。承知致しました……」
兵士たちは戸惑ったように顔を見合わせていた。
それもそうだろうなぁ。どう見たって戦闘要員には見えないメロディたちに加え、魔物まで連れているんだもんな。そりゃそんな顔にもなるってもんだよ。
モニーの説得によって、俺たちも一緒に傷ついた兵士たちがいる場所へとやってくる。
だが、そこの様子はとても見れたもんじゃなかったな。
異世界出身の俺たちは当然だが、メロディもフォルテも、傷ついた人を見ることには慣れていない。だけど、さすがに聖女のモニーだけは落ち着いていたな。俺たちと別れて、キーボを背負ってモニーはケガ人の収容所へと入っていった。
俺たちは近くの建物に移動して、そこで戦況の説明を受けることになった。
「戦況はどうなっていますのかしら」
こういう時にはさすがに頼りになるフォルテだな。子爵令嬢とはいえど、兵士たちに対して堂々としているぜ。
フォルテに尋ねられた兵士たちは、この周囲の地図を取り出して、あれこれと説明をし始めた。
近くにある森との境目の辺りで、魔族とその魔族が率いる魔物たちとの交戦が行われているらしい。
向こうの総大将は魔王四天王を名乗っているらしく、その激しい攻撃に押されつつあるということだった。
「魔王四天王が出てきておりながらも、よく持ちこたえていらっしますわね」
「はい。どういうわけか魔族はあんまり前線に出てきておりませんでしてね。よく戦っている魔物が多いものですから、数は多いもののなんとか対処できております」
「ですが、いつその均衡が崩れるともわからず、兵士たちは疲労が溜まってきておる状態なのですよ」
俺たちに説明してくれている兵士たちは、周りへと視線を向けている。
確かに、ちょっと疲れた感じの様子が見受けられるな。
「魔族との戦いか。俺の作った武器で蹴散らせられればいいんだが、いまいち自信が持てないのがつらいぜ」
普段から強気な様子を見せているミクスですら、魔族との戦いというのはあんまり自身がないみたいだな。
『まあ、やってみるだけやってみるしかないぜ。魔王四天王なら、ディスコーのやつを退けられたんだからな、俺たちの音楽は』
『そうだなぁ。今回もとっとと追い返してやりましょうぜ』
『俺様の刻むリズムに勝てるやつなどいない』
話を聞いていた俺たちは、周りに聞こえないことをいいことに盛り上がっている。
キーボの奴はモニーのところにいるから加われねえが、あいつもここにいたら、同じように前向きなことを言っただろうな。
「分かりましたわ。モニーさんが戻り次第、わたくしたちも参戦しますわよ」
「そうですね。ティックでも魔王四天王が襲撃してきて、それを追い返せましたもんね」
「その通りですわ。同じように通用するかは分かりませんけれど、せめて魔物だけでもおとなしくできれば違うと思いますわよ」
メロディが直前の実績を口にすれば、フォルテは頷きながら話をしている。それにはリリアとスフォルたちも同じような反応を示していた。
だが、さすがに目の前の兵士どもは信じられないって顔をしているみたいだな。
俺たちがそんな感じで話していると、どこからともなく音楽が聞こえてくる。
「この音は、キーボさんの音ですね」
「ということはモニー様が弾いていらっしゃいますのね。ちょっと見に行きませんこと?」
「そうですね。どんな状況で演奏に入ったのかが気になります」
突然聞こえてきたキーボの音色が気になって、話はここで一度打ち切りになってしまった。
ケガ人が収容されている場所へと向かった俺たちは、そこでなんとも不思議な光景を目にすることになったのだった。




