110曲目 新たな目覚め
その日の夜、あたしは普通に眠ったはずだった。
「うん……、ここは?」
眠ったと思ったのに、あたしは意識を取り戻す。
体を起こしてみると、見たことのない景色が周りに広がっている。でも、なんだか知っている気にもなる。
(なに、これ……)
あたしは混乱している。
「ハキース様!」
唐突に声が聞こえてくる。ハキースって誰よと思った瞬間、あたしの中に大量の情報が流れ込んでくる。
「痛っ……」
「だ、大丈夫でございますか、ハキース様」
駆け寄ってきた声の主は男性だけど、見たところ、獣人っていうものらしい姿をしている。
……あたしはこいつのことを知っている。
「大丈夫よ。ちょっと寝つきが悪かっただけだから。で、何の用かしら」
取り乱しかけたあたしだったけれど、流れ込んできた記憶の通りに行動をすることにする。
「はっ! 戦況の報告にやってまいりました」
なるほどね。あたしはこいつらを使って、どこかを攻めていたというわけか。
ようやくふたつの意識がひとつに混ざってきて、意識がはっきりしてくる。
「そう。では、早速報告してちょうだい」
「承知致しました。現在攻略中のレンガートの街ですが、思ったよりも人間たちが粘っており、いまだ攻め落とせずにいます。ハキース様の妹君であられるノイジー様が合流することにはなっておりますが、妹君様の手まで煩わせたとあっては、ハキース様の手腕を問われかねません」
「そう、そのようになっているのね。心配は要らないわ。あの子が来るまでには、レンガートの件は決着させるわ。あたしが出ていけば、ちゃちゃっと済むでしょうからね」
獣人の報告を受けたあたしは、そのように返してしばらく一人にするように伝えておいた。
今、あたしがいる場所には鏡のようなものがないから、どんな姿をしているのは確かめられなさそうだわね。でも、顔以外は確認できるから、一応確認しておきましょうか。
まぁ、あたしとは違って、かなりグラマラスな体型をしているわね。向こうのあたしだって、そこそこいい体型だと思っていたけれど、それ以上だわ。
あと、あたしが着ることのなさそうな格好をしている。夢魔みたいな感じかしらね、これって。
不思議なことが起こるものよね。
どうやらあたしは、魔族と呼ばれる存在みたいだわ。
魔王四天王の一人、声のハキース。魅了の声でもって相手をとりこにするということらしいけど、どういえばいいのかしらね、これって……。
「えっと、今のあたしの任務は、テヌート王国の北西の街であるレンガートを攻め落とすことね。魔王様の領地拡大のためにも、人間たちを配下に置くことを目的としている……と」
あたしはこめかみあたりに両手の人差し指を当てながら、うぬぬと唸っていた。
「眠る前、由利はレンガートの街に向かっているとか言っていた気がするわね。まさか、こんな形でこっちで会うことになるとはね……。まったく、神様とかいるんだったら恨むわよ」
あたしは頭を片手で押さえながら、やけになるしかなかった。
なんといっても魔王四天王の一人としては、あたしは最弱の位置。妹のノイジーの方が、実力は上ときているわ。
ああ、姉とか妹とか言っているけれど、こっちのあたしもどうやら双子みたいだわ。ただ、魅了を得意とするあたしとは違い、あの子は残虐的に破壊して回ることだけを得意としていた。方向性の違いってやつかしらね。
(それにしても、破壊の妹ねぇ……。あたしの双子の妹の祈里はヘビメタをやっているから、そういう傾向なのかなぁ)
あたしはため息が出てきてしまう。
なんとも、向こうの世界の自分たちとリンクしているように見えるのは、なぜかしらね。
大きなため息をついた私は、ふと自分の右の腰に何かがぶら下がっていることに気が付いた。
何だろうかと思って触れてみると、チリンという音が鳴った。
「鈴?」
さっき全身を見回した時には気が付かなかったけれど、あたしの服に鈴が付いていた。
なんで鈴なんだろうと思いながら触れてみると、その鈴が姿を変える。
「わっ!」
驚いてしまったあたしだけど、すぐに落ち着く。その手に持たれていたのは、タンバリンだった。さっき鈴だったのに、なんで変形したらタンバリンなのかしら。まったくもって理解ができない。
音は確かにシャンシャンとなるから似ているとはいえば似ている。だけど、その形状が違いすぎるので、とても理解不能な変化だった。
「いや、あたしは祈里の歌う場所によく持ち込んでいたからかしらね、タンバリン……」
向こうでの自分の行動を思い出して、納得がいってしまった。このタンバリンが普段使いでは鈴になっているのは、目立たなくする目的があるからなのかな。あたしはとにかくそう思うことにした。
「よし。とりあえずは魔王四天王として、人間界制圧のために動かないとね。あれだけ来たいと思っていたこっちの世界だもの。すぐさま退場だなんてモブすぎるから、ごめんこうむりたいわ」
あたしはむんと気合いを入れる。
このままなら由利とすぐに衝突することになるだろうけど、うまく周囲の目を盗んで、こちらの世界でも接触しておきたいわ。
覚悟を決めたあたしは、出撃のために外へと出ることにしたのだった。




