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異世界バンド~俺たちの熱い魂(ソウル)で異世界を救ってやるぜ!  作者: 未羊


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109曲目 広がる恐怖

 現実に戻ってきた私は、バイトもないこともあって蓮美と顔を合わすことにする。

 私と一緒に眠ったけれど、蓮美には何も起きなかったようで、彼女はなんとも落ち込んだ様子を見せていたわ。

 でも、私はそれでよかったと思っている。だって、いきなり剣と魔法の世界へと放り込まれたんだもの。自分が覚えてなかっただけだとしても、そんな世界に放り込まれてまともな状態を保てるとは思えないものね。

 うん、これでよかったのよ。


 そんなわけで、今日の私は蓮美とカラオケへとやってきた。

 身内が音楽をやっている者同士、どうしてもここへと顔を出してしまうものだわ。

 カラオケボックスの中に入ると、蓮美はさっそく私に問いかけてくる。


「どうなの、お兄さんたちの様子は」


 蓮美はまだ兄さんたちの記憶を維持できているようで、私に心配そうに声をかけてきている。

 身内の行方不明になっている上、どんどんとその存在がかき消されていっているから、親友として心配なんでしょうね。

 でも、私は大丈夫。

 夜に眠れば、兄さんたちに同行しているリリアっていうゴブリンになるんだもの。こっちではつらい目に遭ってはいるけれど、そのおかげで私は元気でいられるわ。

 とはいえ、魔族との戦いに巻き込まれているわけだから、安全っていうわけじゃないんだけどね。


「兄さんたちは元気よ。今日も魔族との戦いを前にすっごくやる気になっていたわ」


「そう……。それはよかったわ」


 魔族との戦いなんて、こっちじゃ普通に聞くことのない単語なんだけど、蓮美はそれを聞いてなぜか安心していた。

 兄さんたちを覚えている人たちの一人として、すっごく気がかりなんだろうなぁ。

 私は蓮美の顔を見ながら、歌うためにリクエスト用の端末を手に取って操作をしている。

 兄さんのバンドの名前で検索すると、なぜか端末にはアーティスト名の書かれていない楽曲がヒットしている。


「あっ、兄さんのバンド、ここで歌えるんだ……」


「えっ、ホント?!」


 私の声に、蓮美もものすごく反応している。私から端末を奪うと、じっと覗き込んでいる。


「本当だわ。あのバンドの楽曲、歌えるのね」


 蓮美はものすごくふるふると震えていた。

 そういえば、蓮美の妹が所属しているバンドが、兄さんのバンドを敵視していたんだっけかな。

 あっ、そうだ。妹さんの方の様子はどうなのかしらね。

 その考えに至った私は、蓮美にちょっと確認してみることにした。

 そしたら、蓮美はなんともいえない渋い顔をしていた。一体どういうことなのかしら。


「は、蓮美……?」


「ごめん、由利。妹ってばもう、覚えてなかったみたいよ」


「……なんで?」


 蓮美から返ってきた答えは、予想もしないものだった。

 あれだけライバル視していたバンドに所属していた、蓮美の妹さえも、忘却の波にのみ込まれてしまったというのだという。一体どういうことなのかしら……。


「私だって、再三聞き返したわよ。楽曲も聞いてもらったけど、知らないの一点張り。双子の妹だから、まるで自分が言っているみたいで信じられなくなったわよ。まさか、双子の間でもこんな差が出ちゃうとはね……」


 私に話す蓮美の声が、悲しそうな感じでとても震えていた。

 兄さんのことをライバル視していたし、蓮美の双子の妹だからと思っていたけれど、接点が弱いとそうなってしまうのかしら。私もとても信じられない顔をするしかなかった。


「こうなってくると、私も怖くなってくるわね。お兄さんたちが行方不明になって苦しんでいる友人を見て、無邪気に笑えてしまう日が来るんじゃないかって……」


「蓮美……」


 苦しむ友人を見て、私も心が痛くなってくる。

 心配そうに私が目を向けていると、蓮美が急に私を見て、がっしりと手をつかんでくる。


「由利、お願いがあるの」


「な、なによ、蓮美」


「今夜、もう一度部屋に泊まらせて。この状態を維持するには、向こうの世界との接点を作らないといけないと思うのよ。この間は失敗しちゃったけど、絶対に……絶対につながってみせるわ!」


 蓮美の表情は真剣だった。

 こんな表情を見せられて、私だって断われるわけがない。

 だって、蓮美の気持ちは、私に向けられたものなんだもの。私のために、記憶を失いたくないって言ってるんだものね。

 となれば、私だって全力で答えるしかない。

 私が持っている、この謎のマイクに賭けても。


「分かったわ。でも、忘れちゃったとしても私は責めるつもりはないわよ。兄さんたちがこっちの世界に戻ってきたら、全部元通りになると信じているもの」


「由利……、強いのね」


「強いというか、なまじ、向こうの世界と接点持っちゃったらね」


 涙を浮かべる蓮美に対して、私は複雑な気持ちで笑顔を見せるしかなかった。

 とはいえども、現状では何もやれることがないわね。

 しょうがないので、私たちはカラオケで兄さんたちの楽曲を歌えるだけ歌って帰ることにしたわよ。

 兄さんたちの存在を葬り去ろうとしている世界へのささやかな抵抗よ。私たちは、最後まで世界の意思に抗い続けてやるわ。

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