106曲目 再びの王都フェルマ
いろいろとあったが、俺たちは無事にティックを出発できた。
フォルテとモニーの二人が、このテヌート王国の地図を持っていてくれたおかげで、フェルマの位置が分かったしな。いやぁ、地図があるっていうのはいいもんだ。
なので、ミクスの隣の助手席には、聖女であるモニーが座っている。相棒であるキーボも一緒だ。まあ、いつらならうまくやってくれるだろうな。
というわけで、俺とメロディは居住空間に戻ってきている。
「……兄さんのおっちょこちょい」
助手席から戻ってきた俺を見て、リリアがぶすっとした顔でぼそりと呟いている。
まったく、うるさいっていうんだよ。そもそも、俺だけいろいろとあった中でいちいち覚えてられるかっていうんだ。
確かにバンドのリーダーは俺だが、ブレーンはそもそもキーボだろうが。俺が責められる筋合いはそもそもねえんだよ。
そう言いたいところだが、リリアのやつがやけにガンをつけてきやがるもんだから、言い返すに言い返せなかった。くそう、こんなところで向こうの世界での関係が反映されるとは予想外だぜ。
ものすごい圧を感じるジト目に、俺はさすがに視線を逸らさざるを得なかったぜ。
まったく、ゴブリンだっていうのに、中身が妹ってだけでこうもやりづらくなるとはな。
俺は楽器の体とはいえどため息をついてしまっていた。
それはそれとして、このドラムが変形したキャンピングカーの旅はなんとも快適なものだった。
サスペンションが完璧なのか、こんなオフロードでもまったく揺れやしない。馬車もそれなりにサスペンションはあったんだが、さすがに揺れまくってたからな。
あと、一応窓もあるんで、外の景色は見ることができた。外から見た時と中にいる時とで幅が違うように見えるんだが、景色はそれに合わせてるんだろうかな。まったく、これも異世界ファンタジーあるあるなのかね。ご都合主義というのも便利すぎるってもんだ。
夜になって休憩をする時に確認をしてみたんだが、運転席にはミクスが座っているが、キャンピングカーの移動自体はドラムが制御しているとのことだ。
まっ、こっちには道路交通法も、運転免許も関係ないとはいえ、メロディたちとあんまり年の変わらねえ子どもには運転させられねえよなぁ。
ついでにいえば、散々俺たちの移動のたびに運転を引き受けてくれたドラムへの信頼っていうのもある。なので、俺たちとすれば、ドラムが制御していることには何の文句もないってわけだ。
あと、スフォルたちはずっとそわそわしていたな。よっぽど走ったり魔物を倒したりとかしたかったようだが、出番がなかったからしょうがない。
唯一いつも通りにしていたのは、たった一匹だけ空の飛べるアニマートだった。
旋回しながら、周囲のことをずっと見ていてくれたからな。だが、街道ではそうそう魔物が現れることがないので、やはりアニマートもあんまり出番がなかった。
「さぁ、ここが王都フェルマですよ」
そうやっている間に、俺たちはついにフェルマに戻ってきた。相変わらず、でかい街でにぎやかだぜ。
だが、街の中に入ろうとすると、ドラムが目立ちすぎてしまう。なので、ドラムには元の状態に戻ってもらい、スフォルたちに乗っての移動となる。
「アウーンッ!」
ようやく活躍できると、スフォルたちは嬉しそうに鳴いている。うん、悪かったな。ここまで閉じ込めさせちまってよ。
「とりあえず、国王陛下に謁見いたしましょうか。ミュゼス様のお名前を出せば、比較的簡単にお会いできると思いますので」
「そうですわね。とにかく次の目的地を決めませんとね」
モニーとフォルテは国王に会う気満々のようだな。
ところが、国王という単語が出ると、メロディとリリア、それとミクスの三人がガッチガチに固まり始めた。
うん、ここが庶民と貴族や聖女との違いだよなぁ……。俺たちだってまだ慣れないんだよ、国王陛下はよ。
「お、俺は遠慮しておくぜ。鍛冶職人たってまだ見習いだしよ、国王陛下にお会いするなんて、そんなおそれ多いこと、できやしねえんだ」
「わ、私もです。ミクスさんと一緒に商業ギルドに行くことにしましょう」
「ああ、賛成だな」
リリアまで何を言ってやがるんだ。一度会ってるっていうのになぜ逃げようとしている。
ドラムの中でのやり取りの仕返しをするように、俺はリリアをじっと見つめている。その視線に気が付いたのか、リリアはびくっと体を跳ねさせたあと、ごまかすように口笛を吹いていた。
「ダメですわよ。お二人もご一緒にするのです」
「そうですよ」
「わうっ!」
フォルテとモニーが逃がさないという発言をすると、ツェーとエーが頷くように鳴いている。
うん、諦めろ。
そんなこんなで、リリアとミクスもやむなくまずは国王陛下と会うことになった。終わった後なら自由にしていいという条件を付けたので、二人とも渋々といったところである。
まったく、こんな調子で大丈夫なのかと、俺たちはつい心配になっちまうぜ。
こうして再び訪れることになった王都フェルマ。今後の行き先を決める重要な情報が手に入るのか、ちょっとした期待をしながら俺たちは城へと乗り込んだのだった。




