104曲目 そろって出発だ
俺たちが食事を終えて外に出ると、ミュゼスのやつが立っていた。
「おやおや、ちょうどいいところにいたね」
「なんでしょうか、ミュゼス様」
なんとも気さくな感じで声をかけてくるミュゼスだが、俺たちの方は警戒をしている。フォルテの態度にもよく現れている。
俺たちから露骨に警戒されたミュゼスは、なんとも引きつった笑みを浮かべている。まったく、なんだっていうんだよ。
「困ったものですな、そのように警戒されては。いい情報を持ってきたというのにですね」
「いい情報?」
ミュゼスが小さく笑みを浮かべながら話してくる。メロディがきょとんとした顔で反応している。
俺たちの反応を見たミュゼスは、体を翻し、顔だけ俺たちの方へと向けて声をかけてくる。
「まあ、詳しい話は現地に着いてからですよ」
なんだかよく分からないが、とりあえず俺たちはミュゼスたちについて行くことにした。
俺たちがミュゼスについてきて到着した場所は、えっとなんて言ったっけかここ。
「まあ、ジョッカ鍛冶工房ですわね」
おっ、そうそうそれ。いやぁいけねえな。音楽以外のことだとつい忘れっぽくていけねえや。
俺がつい口からぽろっとこぼしてしまうと、ベスとキーボからなにやら視線を感じたな。まったく、しょうがねえだろ、苦手なんだからよ。
「兄さんってば……」
くそっ、リリアからもこれかよ。悪かったな、コンチクショー!
とまぁ、なんだかんだといいつつ、俺たちはジョッカ鍛冶工房の中へと入っていく。
鍛冶工房の中では、俺たちが来るのを待ち構えていたのか、ひげ面の筋肉のおっさんと、そのむす……めのミクスが立っていた。
いけねぇ、相変わらず赤い髪を短く、それも逆立てているせいで男にしか見えやしねえ。名前自体も男女どっちでもいけるからな。頭が混乱するぜ。
「マジーンさん、その様子ですと、決意が固まったようですね」
「ああ、こいつには一度外を経験させた方がいいと思ったからよ。なんでしたっけか、その聖器とかいうやつを持っているんだったら、ちょうどいい機会ってもんだからよ」
「……親父」
マジーンと言われたおっさんは、ミクスを見ながら語りかけるように喋っている。ミクスもなんかしんみりした表情を見せている。
「お前は細腕だが、腕は俺を超える可能性がある。外には未知の金属もあるだろうし、いろいろと勉強してこい」
「親父がそこまで言うんだったら、俺、行ってくるぜ」
「うむ」
ミクスが少し涙を浮かべながら返事をすると、マジーンっておっさんは、ミクスの頭に手を置いて……わしゃわしゃと髪の毛をまぜくり始めた。
「親父、あんまり強くやるんじゃねえ、はげる!」
「がっはっはっはっはっ!」
ミクスに怒られて、なぜか大声で笑い始めるおっさんだった。
『おう、俺様がいるんだ。動けやしねえが、ミクスの面倒はしっかり見てやる。安心してくれ』
『ドラム、ミクスにゃ聞こえるが、そのおっさんには聞こえねえぜ』
『なんだと?!』
ドラムが宣言するも、俺が悲しい事実をぶつけてやると驚いていた。
『くそう、かっこよく決めたつもりが、空振りかよ。チックショーッ!』
どっかの芸人みたいに叫んでんじゃねえよ。
心配するな、お前の言ったことは、誰かが伝えてくれるからよ。
「おい、ミクスが笑ってるが、どうしたんだ?」
やっぱり、状況が分かんなくてマジーンのおっさんが困っているぜ。ミュゼスは置物のように黙り込んでいて、まったく反応しない。おいおい、仲介役!
「ドラムさんが、ミクスさんをお守りすると意気込んでいらっしゃいます。聖器のみなさんの声は、使い手である私たちと、魔物のリリアさんにしか聞こえませんので、盛大な空振りに悲しんでいらっしゃるみたいです」
おいおい、モニー。全部ばらしてやんなよ。見ろ、ドラムがまた恥ずかしがってんじゃねえか。あんまりいじってやんな。
俺がモニーにツッコミを入れている間に、ドラムにマジーンのおっさんが近付いていく。
「そうか。じゃあ、お前さんに娘のことを任せるとしようか」
『おう、任せてくれ!』
マジーンのおっさんに期待されたことが嬉しかったのか、ドラムの奴の機嫌はすっかり直ってやがるな。現金なこった。
ミクスとドラムを仲間に加えた俺たちは、マジーンのおっさんに手を振りながら別れを告げる。
ティックの外へと出た俺たちは、ミュゼスと改めて向き合う。
「王弟として、貴殿らに頼みごとがある」
ティックを出たところで、ミュゼスは改めて俺たちに声をかけてくる。頼みごととは何なのか、俺たちは緊張に身構えてしまう。
「四天王が出てきたということは、これからの魔族たちの行動は激しさを増すだろう。テヌート国王の弟として、魔王の討伐を依頼したい。王国内各所には協力を惜しまないように通達を出しておこう。俺たちの方でも魔族の対処は行うが、君たちほどの力はない可能性がある。君たちだけが頼みの綱なのだ」
ミュゼスはそう告げた最後に、俺たちに向けて頭を下げてきた。王族なのだから、モニーとは対等くらいではあるが、基本的には立場が上の人間。頭を下げるなんてことはまずありえない話だ。
つまり、ミュゼスとしては俺たちを頼りにしているということだ。ならば、それに応えないというのは男が廃るってもんよな。
結論から言えば、俺たちはその依頼を快く引き受けた。すでにメジョールカ大陸の国王たちから命令が出ているってこともあるしな。断る理由がありゃしねえ。
それどころか、魔王相手に俺たちの音楽をぶつけられるとなりゃあ、やる気が高まってくるってもんよ。
「ありがとう。協力は惜しまないゆえ、必要なことあれば何でも申し付けてくれ」
「はい、ありがとうございます」
ミュゼスとの話を終えた俺たちは、次の目的地へと向けて出発することになる。
近づきつつある魔王との戦いに向け、俺たちは武者震いが止まらなくなったぜ。




