沙奈江との初デート
沙奈江とのデート当日、俺は待ち合わせとなった駅のホームにやってきた。ホームに上がる階段付近という事だったのでその辺りを探すと沙奈江をすぐに見つけることが出来た。
パンツルックに上はTシャツ、その上から薄手のカーディガンを羽織り帽子をかぶっている。きらびやかな服装をしている訳でもないが、スタイルの良い沙奈江が着ると様になる。俯き加減で壁に凭れながらスマホを弄っている沙奈江の横顔を見て美人は何をやっても絵になると痛感させられた。
「おはよう、沙奈江」
「おはよう、侑汰。準備は大丈夫?」
俺が声をかけると沙奈江は爽やかな笑顔で答えてくれた。やっぱり沙奈江は美しい…
「一応言われたものは持って来たよ」
ハイキングなので飲み物や雨具などを言われた通りに持って来たが、弁当は沙奈江が作ってくると言っていた。
「ちゃんとお弁当は作ってきたからね… へへっ」
少し照れ笑いしながらリュックの中の弁当の包みを見せられた。
それから電車がやって来て二人で乗りこみ目的地へ向かった。
長椅子に隣同士で座ったが、最初は少し隙間を開けて座っていた沙奈江だったがちょっとずつ擦り寄ってきてやがて互いに触れ合う距離まで近づいてきた。沙奈江の顔は距離が詰まるにしたがって赤みが強くなっていく。
俺は最近気づいたんだが、沙奈江の少女のような恥じらう姿に何故か萌えてしまう。怒らせるととんでもなく怖い沙奈江が俺の傍に来ると途端におどおどしだす。そのギャップが何だか… 萌えてしまう。そんな沙奈江を見るとどうしても悪戯したくなる。
「沙奈江は山歩きとか結構行くの?」
「たまにね、キャンプとかも好きだし…」
そんな話をしながら沙奈江の膝に置かれている手をいきなり握る。すると体をビクンとさせ沙奈江は一気に固まる。顔はどんどん赤くなっていき、やがて体は小刻みに震えはじめる。そんな恥じらい方を見てるととても愛おしく思えてくる。
ただ、今日はいつもと少し違い俺の握っている手を沙奈江も握り返してきた。相変わらず表情は固いが、なにか安心している表情になっていった。
目的の駅に到着してそこからバスに乗る。暫くして高原への入り口付近に到着し、ここからハイキングが始まる。
「侑汰はハイキングとか大丈夫?」
「多分人並みにはいけると思う…」
正直あんまりアウトドアな遊びは好きではないが、たまに自然と触れるのも悪くはない。
「それじゃ 行こうか」
俺はそう言って沙奈江の手を取って歩き始めた。沙奈江は馴れて来たのか俺の手をしっかり握って楽しそうに歩いている。
標高も高い場所なので昼間でも街よりは涼しく風に吹かれると凄く心地よい。天気も良く周りに人もいない自然の中で二人っきり手を繋いでハイキングというのもなかなか悪くない。
「侑汰、あっちに綺麗な小川があるよ。冷たくて気持ちいいかも…」
そう言って二人で小川の水を手に取ってみると凄く冷たくて夏の暑さも忘れることが出来る… 本当に気持ちよかった。
ようやく高原の目的地点辺りまで来たのでここでお昼にすることとなった。
昼ご飯は沙奈江の手作り弁当だ。そう言えば俺は女の子の手作り料理を食べるのはこれが初めての経験…
「朝早く起きて頑張ったんだ。侑汰、いっぱい食べてね」
そう言っていくつものパックに別れた弁当を開けていく。取り敢えずおにぎりを頬張りながらおかずを見ていった。
「へ~ スクランブルエッグか、弁当には珍しいね」
「… それは玉子焼きです…」
「ミートボールもあるんだね」
「それはミニハンバーグ… 」
「この黒いのは酢豚かな?」
「…… から揚げ…」
俺は聞くのをやめた。これ以上聞くと空気が悪くなることをひしひしと感じる…
「料理は見栄えよりも味だからね… それじゃ まずはスクラ… 玉子焼きを一つ…」
その味は未知との遭遇だった。甘いの、辛いの、酸っぱいの、しょっぱいの、苦いの… 全ての味覚が凝集されていた。
「どう、侑汰… 美味しい?」
沙奈江が恐る恐る聞いてくる… この味をどう表現していいのか分からない俺は、沙奈江に分かってもらうためにある方法を思いついた。
「沙奈江、あ~んして」
いきなり言ったので沙奈江は照れて恥かしそうにもじもじしたが、やがて口を小さく開けた。その口にさっきの玉子焼きを入れてあげる。顔を赤らめて照れていた沙奈江は、玉子焼きを食べた瞬間、別の意味で顔を真っ赤にして急いでお茶を飲み始めた。
「何この味? ヤバい…」
俺が感じたのと全く同じ意見を沙奈江は言ってくれた。
「玉子焼きにいったい何入れたの?」俺が聞くと、
「ちょっと隠し味的に色んなものを…」
… 全然隠れてねーし… てか思いっきり主張してるよね、この隠し味… もはや主人公だよ。
「ミートボ… ミニハンバーグは大丈夫だよね?」
「それには変なものいれてないと思う…」
とにかくミニハンバーグを食べると… 鹹くて辛かった。 塩の鹹さと唐辛子?の辛さが絶妙なハーモニーを醸し出す…
俺は急いでお茶をがぶ飲みした。それでも口の中は燃え盛ったままだ…
「最近激辛料理が流行っているから唐辛子を…」
沙奈江は申し訳なさそうな表情で元気なく項垂れて小さな声で喋った。
よく女子が「胃袋を料理でつかむ」というが、沙奈江のは「胃袋を料理で破壊する」だ。
その後はとにかく食えそうなものだけ選んで何とか昼食は終わった。
「ごめんね、侑汰…」
沙奈江はすっかり元気をなくしてしょげている… 俺の反応を見て悲しくなり、実際に味見してショックを受けたようだ。
そんな沙奈江を見て俺は… 朱莉の時と同じように沙奈江をそっと抱きしめた。
「練習すればきっと上手くなるよ。俺のために作って来てくれただけで嬉しいよ」
びっくりして固くなっている沙奈江の頭を撫でてあげると泣きそうな顔を俺の胸に押し当て沙奈江も俺を力強く抱きしめる。
朱莉とは違う沙奈江のいい匂いがして心地よくなりそのまま暫く抱きしめていた。
「侑汰… やっぱり優しい…」
そう言って潤んだ瞳をして上目遣いで沙奈江に見つめられた俺は、そんな瞳をした沙奈江に吸い寄せられていく… 朱莉の時と全く同じだ…
俺の唇が沙奈江に近付こうとするのを止めるのに必死になった。これ以上見つめられると本当に我慢できなくなるので沙奈江の頭を抱きかかえて俺の胸に押し当てた。沙奈江も俺の胸に顔を埋めてしっかりと抱きしめていた。
悲しそうな表情だった沙奈江の顔は恥じらうようでいて何処か妖艶な感じを漂わせる表情に変わっていた。
「そろそろ弁当を片付けて次の所に行こうか…」
「そうね、行こうか…」
少し元気が戻った沙奈江はてきぱきと荷物をかたずけてリュックに仕舞い込み、それを背負って歩き始めた。
「行こう」
そう言って差し出した俺の手を沙奈江はしっかりと握る。もう朝のように緊張することもなく嬉しそうに手を繋いで歩きだした。
それから景色の良いポイントなどを順番に巡っていたが、流石に午後になると気温も上がり顔にも汗が出てきた。
「侑汰~ こっちに来て!」
俺から離れて辺りを見に行った沙奈江が大きな声で俺を呼んだ。俺が沙奈江の方に近付くと、
「凄く綺麗な湧水が湧いてるよ…」
そう言ってその湧水を手に取り顔にかける…
「冷たくて気持ちいい~」
そう言うと、リュックから空になったペットボトルを取り出してその湧水を入れ始めた。ペットボトルの水が一杯になると、帽子をとり片手で髪をたくし上げてやや前屈みの状態で頭の上からペットボトルに入った湧水を落とした。
服が少々濡れることも気にせず頭から水を被る姿は本当に沙奈江らしい…
「気持ちいい~ 侑汰もやりなよ」
そう言って俺にペットボトルを差し出す沙奈江は濡れた髪や顔から水が滴り落ちていた。
顔や髪に着いた水や滴り落ちる水滴が夏の強い日差しを反射して沙奈江の顔をキラキラと光らせる。
その光景は一瞬息を呑むほどに美しかった。その姿に暫く見惚れていたが、早く侑汰もやれと沙奈江にせかされて俺も頭から水を被った。
二人とも髪や顔から水を滴らせてお互いの顔を見合うと自然と笑いがこみあげてきた。最高に爽快な気分だ…
それからも二人は手を繋ぎながら色んな所を巡っていったが、朝とは違いお互いに寄り添うような姿で歩いていた。
夕方前になったのでバス停に戻り、バスに乗ってそれから電車に乗り換え家路についた。
沙奈江を家まで送るため電車を降りて歩いていると沙奈江が服の袖をつまんで立ち止まった。
「ちょっとあっちの方へ行こう」
そう言って沙奈江に連れられて行くと、人気のない倉庫街のような場所に着いた。
「帰る前にもう一度ギュってして欲しい…」
沙奈江は恥じらいながらも真剣な表情で言ってきた。
「いいよ」
そんな沙奈江がいじらしくて俺は沙奈江を抱きしめた。高原の時よりも力強く沙奈江を抱きしめると、沙奈江も俺の腰に腕を回して俺を抱きしめる… 最初は弱弱しかったその力もやがて強くなっていった。
「今日はありがとう、二人で行く高原があんなに楽しいと思わなかった…」
「俺も今日は凄く楽しかった。沙奈江のおかげで…」
そう言って沙奈江とお互い見つめ合うと俺の顔は自然と沙奈江に近付いて行ってしまう。
何とか自分の感情を抑えこんで沙奈江の手を取り沙奈江を家まで送っていった。




