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侑汰の決心



沙奈江を送って自宅に戻った侑汰は部屋で考えに耽っていた。


今日沙奈江と一緒に居て本当に楽しかった。二人で会うと3人でいる時とは違ったものが見えてくる。それに沙奈江の感じも今までとは違った… でもそれは朱莉の時も感じたことだ。


今までより一歩踏み出してみるとよく分かった。やはり彼女達の魅力は凄いものがある。彼女達を好きになればなるほど彼女達の魅力に気付いて惹かれていく。二人はそれぞれ違った魅力を持っていてどちらがいいなんて俺には分からない。


一体どこに差が出てどちらかを選ぶ決め手になるんだろうか… それに俺は気づけるんだろうか…

もう少し時間を掛けて彼女達と真剣に向き合っていかないと結果を出すこともできないんだろうな…



それからは朱莉と沙奈江それぞれ何回か二人で会い、もうすぐ夏休みも終わるころとなった。明日は朱莉と、明後日は沙奈江と会うことになっている。多分これが夏休みに二人で会う最後の機会になる。


次の日、朱莉との待ち合わせ場所に着いて朱莉を探していると、後ろからいきなりギュッと抱きしめられた。


「おはよう、侑汰君。へへへ~」

「お、おはよう… びっくりした」


朱莉は腕を絡ませ「早く行こ」といって俺を引っ張るように歩きだした。今では朱莉も普通に手を繋いだり腕を組んだりしてくる。最近は寄り添うように引っ付いて歩くのが当たり前のようになってきた。


今日は公園に行ってのんびりしようかということになっている。電車に乗って30分ほどして目的の駅に到着し、そこからバスに乗って少々… ようやく公園に到着する。


「季節ごとの花畑があるから早く見に行こう」


そう言って朱莉は俺の手を取って歩き始める。花畑の後も庭園や色んな所を朱莉に引っ張られて二人で見学した。


「ちょっとトイレに行ってくる」


そう言って俺はトイレに行き帰ってきたが、待っていた朱莉は俯いてぼんやりしていて沈んだ暗い表情だった。


さっきまであんなに明るく笑っていたのにいったいどうしたんだろう?… そう言えば最近二人で会っているとき、朱莉も沙奈江も不意にこのような表情になることがある。


「朱莉、戻ったよ」


俺がそう声をかけるとすぐに明るい表情に戻る。


「じゃ、次に行こう…」


そう言って楽しそうに俺の手を引っ張っていくが、あの落ち込んだ表情がどうしても気になる…

その後、朱莉がボートに乗りたいというのでボートを借りて池に漕ぎだした。


「恋人が出来たらやってみたかったんだ…」


朱莉が遠くの方を見ながら囁くような声で言った。念願がかなって満足している… そんな雰囲気で朱莉は穏やかに笑っていた。


「侑汰君は恋人出来たらやってみたかったこととかないの?」

「別にないっていうか、朱莉とこうやって二人で居ること自体かな…」


朱莉にそう答えると妙にモジモジして顔を紅潮させて恥じらっている…


「そ、そんなに私と一緒に居たいの?」

「そりゃ こんな可愛い子が笑顔で傍にいてくれるとそれだけで楽しいよ」


普通に思っていることをそのまま言っただけだが、朱莉は更に慌てだした。


「ゆ、侑汰君… そんなことはっきり言われたら…」


俯いて呟くように言うので最後の方ははっきりと聞き取れない。

ただ問題なのは同じ気持ちを俺は沙奈江にも持っていることだ… だから未だにどちらか一人を選べないでいる。


「侑汰君、あのね…」


照れていた朱莉が急に真面目な表情になり俺の目を見つめながら話し始めた。


「最初、侑汰君は私に気を遣って優しくしてくれたよね… 多分それがきっかけで侑汰君を好きになったと思う。侑汰君は私のことを好きなのかなって思っちゃって… でもそれは私の勘違いだと後で分かったけどね、へへっ」


朱莉は少し茶化したように喋ったが、瞳はしっかりと俺の方へ向けている。


「でもね、勘違いかも知れないけど侑汰君を好きになって近くに居るとやっぱり優しくしてくれる… そんな侑汰君をもっと好きになった。そして侑汰君もやっと振り向いてくれた…」


朱莉の潤んだ瞳から涙がこぼれて頬を伝っていく…


「会うたびに好きになって… もうね、侑汰君がいないと駄目なんだ。 侑汰君、わたし…」


朱莉は俺の頬に手を当てて顔を近づけてきた。朱莉の気持ちが俺の心を締め付けて体が縛られているように動けなくなった。


朱莉の唇はもうすぐ俺の唇に触れようとしている… 目を閉じてゆっくりと近寄って来る朱莉の唇… 俺はそれをかわして朱莉と頬を触れるように顔をくっつけて朱莉を抱きしめた。


「やっぱりキスしてくれないんだ… 」 朱莉は寂しそうに呟く… 

「… ごめん…」


それしか言えなかった。朱莉とキスをすれば、次に沙奈江と会った時にもキスをしてしまう。そうなればキスまでした相手に別れを言わなければならなくなる。それだけはどうしても俺にはできない…


暫く抱きしめていると朱莉は顔を上げて少し落ち着いた様子で俺に言った。


「ごめんね… 急に変なことしちゃって…」

「朱莉は悪くないよ… 悪いのははっきりできない俺だ…」


楽しかった今までの雰囲気から一転して重苦しい感じとなった。ただそれは二人とも仕方のない事だと分かっていた。


暫く会話は途切れたが、少しして朱莉が「折角だから池を一周して」とにこやかに俺に話しかけた。

それからはいつもの朱莉に戻り悪戯っぽい顔をしてよく笑う表情に戻った。


夕方を過ぎたので朱莉を家まで送るが、いつものように朱莉の家の近くの公園に寄り道をする。ここで暫く抱きしめてから帰るのがお約束となっている。


「今日はいつもよりギュ~ッと強く抱きしめて欲しいな、えへへ…」


朱莉は屈託のない笑顔で明るく言ってきたが、無理して表情を作っているのは何となくわかる… ただ俺は彼女が望むようにしてあげることしかできない。 


でもこの空しくて悲しく感じる気持ちは何なんだろうか…



その次の日になり俺は沙奈江と会った。ただ、昨日の朱莉とのやり取りが頭の中に残り、どうしても楽しめるような気分にはなれなかった。

沙奈江に悪いと思い必死で平常を装おうとしたが、俺の様子を見て沙奈江は直ぐに勘付いたみたいだった。


しかし沙奈江は気付かないふりをしていつものように明るく元気にふるまっていた。

街をぶらぶらして遊んでいたが、夕方前に沙奈江が行きたいと言っていたカフェに行くこととなった。


「ねえねえ、ここの雰囲気落ち着いてていいでしょ?」


そこは小規模だが仄暗い空間を薄オレンジ色のライトが照らす独特の雰囲気を持つ店だった。


「何かここにいると落ち着くね」


今の俺にはぴったりの場所だ… そう感じた。これから先のことを考えるとどうしても明るく振舞えない。


「侑汰、元気無いみたいだからちょっとはリラックスして…」

「… ゴメンな、気を遣わせて…」


沙奈江の心遣いが凄く心に沁みる… 本当は俺の方こそ沙奈江に気を遣わないといけないのに…


「あのさ、沙奈江は… 今の状態…」


俺は言いかけてやめた。辛くないかと聞きたかったが、辛いに決まっている。


「確かに良く悩むし、結構辛いときも多いよ…」


沙奈江は俺が聞きたいことが分かったように話し始めた。


「でもね、何時かは結果が出るしそれがどんなのかも分からない… だから侑汰と会ってる今を大事にしたいの。たとえだめでも今楽しかった思いは残るから…」


沙奈江の言葉を聞いて胸が熱くなり涙が出そうになった。俺に恨み言の一つでも言ってくれてもいいのに、ただ一緒に居るこの時間を大切に思ってくれている。


沙奈江はそれからも明るく色々と話しかけてきたが、俺はあまり上手な受け答えは出来なかった。


帰る時間になったので沙奈江を送っていくが、朱莉と同じで少し寄り道をして帰る。

いつもは俺に「ギュッと抱きしめて」と言うのだが、今日はいきなり沙奈江から抱きしめてきた。そして俺の背中を手でぽんぽんとしながら、


「本当に侑汰が好きになった方を選んでいいんだよ。私は選ばれなくても後悔はしない。侑汰の彼女みたいに過ごせた思い出が出来たから… 初めは嫌われてたのに今は侑汰に好かれている。それだけでもすごく嬉しい。だから侑汰は悩まないで自分が感じるままに選んで… 私はそれでいい…。」


俺は沙奈江を思いっきり抱きしめた。そうしたかったから… それに泣きそうになる顔を見られたくなかったから…


「ありがとう、沙奈江。少し元気が出た…」

「そう? よかった…」


沙奈江はそう言って甘えてくる… そんな沙奈江がとても愛おしく思えた。



沙奈江と別れて家に帰り、俺は部屋に籠ってこれからのことを決断するために思いを巡らせた。

今になって思う… 俺は二人をもっとよく知ろうとして二人との距離を縮めた。俺がそうすると彼女達も当然距離を縮めてくる… その結果朱莉や沙奈江との関係が一気に深まりもう簡単に引き返せないところまで来てしまった。


この先同じことを続ければもっと深みに嵌っていくだけだ。二人との関係を安易に考えた俺が間違っていた。関係が深くなるほど選ばれなかった方が受ける痛みも大きくなる。


この辺がもう限界だ…


俺は出来るだけ早く答えを出そうと決心した。それと、答えが決まるまでもう朱莉や沙奈江と会わないことも…


今日、沙奈江と会うまでは最終的な答えはこれしかないと思っていた。“誰とも付き合わない”だ。


だけど沙奈江の言葉を聞いて、逃げるようなそんな失礼な態度をとってはいけないと感じた。たとえどちらかが傷つこうとも俺はどちらかを選ばないといけない。


だから俺は必ずどちらかを選ぶ。



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