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深まる関係



少し休もうとなってカフェに行ったが朱莉は項垂れたままで一向に元気にならなかった。


「どうしても見たかったらまた今度一緒に観に行こうよ…」

「うん… でも…」


侑汰が慰めるように話しかけるが、朱莉は落ち込んだままでいる。

何時もの朱莉なら済んだことは気にしないし、多少の事ではめげないが今日はいつもと少し違っていた。


カフェを出た後、時間も遅くなっていたので電車に乗り朱莉を家の近くまで侑汰は送っていくことにした。駅に到着し、朱莉の家に向かい歩いていると、朱莉がちょっと公園に寄り道したいと言うので近くの公園に向かう。


「私が観たいって言って映画に行ったのに寝ちゃってごめんね…」


「別に気にしてないよ。それに映画は感動できたし…」


侑汰は朱莉に「元気出して」と言うが、朱莉は真面目な表情をして沈んでいる…


「…ほんとはね、映画を観れなかったことより侑汰君と二人でいる大事な時間を台無しにしたことがショックなの…」


「だってまた今度二人で会うときに…」


侑汰がそう言いだすと、その言葉を最後まで聞くことなく朱莉は言い出した。


「侑汰君、次は沙奈江と会うんだよね? その時侑汰君が沙奈江を選んだら私にはもう次は無いんだよ…」


その言葉を聞いて俺は初めて今がどういう状況なのか理解し始めた。朱莉は二人だけでいられる限られた時間で俺との距離を少しでも縮めようと頑張っている… 俺は選ばれる立場の彼女達の気持ちに気付いてやれなかった。


どちらかを選ぶと言うのはどちらかを選ばない事になる。朱莉か沙奈江、どちらか一人とは今後このように二人で会うことは無くなる。


だったら俺ももう一歩踏み込んで彼女達と真剣に向き合おう… 


侑汰は背を向けて寂しげにしている朱莉の背後からそっと彼女を抱きしめた。


「ゆ、ゆうた…」


朱莉は最初驚いた様子で呆然としていたが、やがて抱きしめている侑汰の腕をしっかりと握り自分の胸に押し当て侑汰に身を任せた。


「慰めとかだったら嫌だよ…」


朱莉が小さく呟いた言葉に侑汰は答えた。


「何故だかこうしたくなった… だから抱きしめてる…」


侑汰の言葉を聞いて侑汰の腕を握る朱莉の手に力が入る…


「… 侑汰君… 」


朱莉はゆっくりと振り返るように侑汰を見つめた。潤んだ瞳で微笑みながら少し怯えているような朱莉の顔が侑汰を誘う…


侑汰はその瞳に引き寄せられるように顔を近づけていった。お互いの息がぶつかるぐらいの距離で見つめ合い、やがて朱莉はそっと瞼を閉じた。そんな朱莉を見て侑汰は一瞬躊躇った後に朱莉の頭を自分の胸に押し当てしっかりと抱きしめた。


キスってこんな感じの時に自然としたくなるんだ… 侑汰は怜治が言っていた言葉を思い出していた。

キスされるかもしれないと朱莉の鼓動は押さえきれないほどに高まっていたが、侑汰に優しく抱きしめられてやがて落ち着きを取り戻してきた。キスは無かったがこれだけでも朱莉は十分幸せを感じていた。


「そろそろ遅くなったんで帰ろうか?」

「そうだね、本当は嫌だけど帰るとしましょうか…」


朱莉はいつものように悪戯っぽい笑顔で侑汰にそう言った。



朱莉を送った後、家路に向かいながら侑汰はさっきの公園でのことを思い浮かべていた。

朱莉の真剣で何処か寂し気な様子を見て俺は抱きしめてあげたくなった。抱きしめた俺の腕をしっかりと握り俺を受け入れてくれる朱莉がとても愛おしく思えた… そんな朱莉に見つめられると思わず吸い込まれるようにキスをしそうになった。


これが恋愛っていうものか… 


侑汰は抱きしめたときの柔らかい朱莉の感触、その時に感じた胸の高鳴りと心の高揚を思い起こしていた。胸の奥が疼くような何とも言えない心地よさ… 俺は朱莉のことが好きなんだ… 



朱莉は家に帰ると食事も食べずに部屋に籠っていた。ベッドに寝そべり今日の出来事を思い起こしていた。


今日、朱莉と侑汰の関係は確実に前進した。いつもならその嬉しさのあまり妄想に耽るのだが、今日は神妙な面持ちで天井を見ながら今日のことを思い浮かべている…


どうして侑汰君は急に私を抱きしめたりしたんだろ… 今日は私から迫ろうと思っていたのに何もできなかった。おまけに映画でも寝ちゃったし… 何一つ侑汰君の気を引くことなんて出来なかったのに… そんな焦りが出て悲しくなっていたら侑汰君が優しく抱きしめてくれた。


今でもその時のことを覚えてる… 悲しい気持ちが一気になくなり心が暖かくなっていった… 侑汰君の体から伝わる優しさで心が満たされていく… こんな気持ちを味わったのは初めてだ。

ずっとこのまま抱きしめていて欲しいって思った… 侑汰君からこんなに近づいてくれるなんて思いもしなかったけど本当に嬉しい。


私だけに与えてくれる優しさ… 二人でいる時にしか味わえないこの感じ、やっぱり侑汰君を誰にも渡したく無い。


だから幸せを感じる気持ちと同じぐらい不安も感じている。

侑汰君と目があった時、キスされるかもと思った… 私は思わず瞳を閉じて侑汰君を待ったけど侑汰君はしなかった。


それは侑汰君の頭の中に沙奈江の存在があるからだろうというのは何となくわかる…


侑汰君、沙奈江と会う時はどうするの? やっぱり私と同じように沙奈江も抱きしめたりするの?… 


――――――――


次の日、沙奈江から連絡があった。沙奈江とは明日会う約束になっているので待ち合わせの時間や場所をその時に決めた。


明日は沙奈江とのデートか… 朱莉との時と同じように俺からも一歩踏み込んでみないといけないな。距離が縮まると感じることが変化するのは朱莉とのデートの時によく分かった。真剣に二人からどちらかを選ぶんだったらどちらとも同じように付き合ってみないと決めることが出来ない。


――――――――


沙奈江は明日となった侑汰との初デートをどうしようかと考えていた。もともと何か作戦を立てたりするのが苦手なので普段通りに行動しようと思っているが、どうやって侑汰との関係を深めるかで悩んでいる。


朱莉とのデートがどうだったのかどうしても気になるので侑汰に直接聞きたかったが、帰ってくる答えが怖くてそれも出来なかった。


それともう一つ、沙奈江の悩みは朱莉ほど男馴れできない事だった。特に好きな男になるほど緊張してしまう。3人の時は朱莉がいたので何も気にならなかったが、侑汰と二人っきりで会うことを考えただけで落ち着かない。


そんなこともあって、明日のデートの行先は高原にハイキングということにした。周りに人がいなくて自然の中であればあまり緊張することもない… それに体を動かしている方が体育会系の沙奈江にとっては自然に振舞える。


明日は侑汰に自分の気持ちを伝えないと… でもやっぱり自分から侑汰に触れることが出来るのかな… 


沙奈江はそんなことで悩みながらも明日のデートを楽しみにしていた。


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