先ずは朱莉と
帰りの電車でも朱莉と沙奈江は仲良くワイワイと喋っていた。二人の意志ははっきりしているようで何の迷いも無いように見えた。俺が降りる駅に到着すると、「これからは個別に連絡入れるからね」と言って笑顔で帰っていった。
家に帰りながら今日のことを思い出すと、朱莉と沙奈江が何故あんなに二人で楽しんでいたのかが理解できた。
こうして朱莉と沙奈江二人で楽しく遊べるのは今日が最後ということが分かっていたので名残を惜しんで精一杯楽しく過ごしていたんだろうと思う。俺から見ても今の彼女たちは本当に仲がいい…
それでも彼女達はもう一歩前進するために今の状況を捨てる判断をした。そんな彼女達の真剣な意思を俺も受け止めなければいけない。それは十分わかっている。ただ、まともに好きな人が出来た経験の無い俺に選択が出来るのか考えると不安だった。
ただ、唯一の救いは彼女達が期限を設定しなかったことだ。多分少しぐらい時間を掛けてもいいという事だろう…
俺は家に帰るとすぐに部屋に籠りベッドに寝ながらスマホの写真を眺めていた。3人で寄り添って撮った写真、今日撮った砂浜で遊ぶ二人の写真… 俺が初めて本当に好きになった二人の女の子の写真…
それから数日経って夏休みに入った。あの日から学校帰りも3人で集まることは無かった。あの日以降は朱莉や沙奈江からスマホにメッセージが多く入るようになり、それぞれと個別に会話するようになった。
夏休みに入って2日目に朱莉からのラインで、二人で会おうと誘われた。行先は朱莉が決めるということで2日後に遊ぶ事に決定し、時間など細かいことなども取り決めた。
それから暫くすると今度は沙奈江からのラインが届いた。
『侑汰、今大丈夫?』
『大丈夫だよ』
『遊びに行く約束したくて連絡したんだけど…』
『明後日以外なら大丈夫だよ』
『明後日はどうしたの?』
『朱莉が誘ってきてね…』
『そっか、なら4日後は大丈夫?』
『その日は大丈夫』
『それじゃ、その日は開けておいて… 詳しいことはまた後日連絡する』
『わかった』
沙奈江に朱莉と遊びに行くことを伝えたが、これと言って何ら反応はなかった。当然こういう事も想定済みたいだ。
俺は朱莉と会う日のことを考えていたが、そう言えば俺が女の子と二人だけで出かけるのは初めてなことに気付いた。
姉さん以外の女の子と二人で会う事なんて今まで一度もなかった。そのことに気付くと謎に緊張感が出てくる…
沙奈江がいない状況で朱莉とだけ会うとどんな感じがするんだろ… 何となくボーっとそんなことを考えてた。
朱莉の部屋
朱莉は侑汰との約束を取り付けると作戦計画を練るのに集中していた。朱莉の作戦が最後まで上手くいったためしは一度も無いのだが、それでも朱莉はめげずに作戦を立てたがる。
特に今回は大事ということで恋愛に関するHow To本を購入して研究していた。恋愛に関する具合的な経験値がない事は本人も十分自覚している。なのでこの本をバイブルのように熟読し、恋愛マスターになるべく研究をしていた。
ふむふむ… なるほどね~ やっぱり最初は女の子らしく相性占いなんかして、いかに自分たちの相性がいいかを相手に分からせるのが重要か… 星座、血液、誕生日、好きな色とかこれだけ相性診断があればどれか1個ぐらい良い相性が出て当たり前だよね。
要は良い相性診断だけ侑汰君に知らせればいいんだ。悪いのは無かったことにしよう…
取り敢えず、まずは星座から… あれ? そう言えば侑汰君の誕生日も血液型も何も知らない… 今気づいた。
事前調査は必要よね… 朱莉はすぐさま侑汰に連絡を入れた。
『侑汰君、ちょっといい?』
『どうしたの?』
『そう言えばお互いの誕生日とか血液型とか知らないよね… 私も教えるから侑汰君も教えて』
『いいよ』
『私はね、誕生日は12月20日の射手座、血液型はB型だよ』
『俺はね、誕生日は9月18日の乙女座、血液型はAB型』
どうしたんだろ、急に? 確かにこれだけ一緒に居て誕生日とか知らないのもおかしいかな…
侑汰は急な朱莉からの質問で少し驚いていた。
『ありがとう、もっと前に聞いとかなきゃいけなかったね… 急にごめんね』
よし、これで情報はそろった。あとは相性診断で一番いいのを選んでワザと侑汰君の前で占いをやってみる… これで行こう。
朱莉は意気揚々と二人の相性診断を調べていった。
先ずは、星座ね… ええっと、侑汰君は9月18日の乙女座で私は12月20日の射手座だから… あったあった、これだ。
(乙女座と射手座の相性)
完璧主義な乙女座と、楽天家な射手座は星座の性格的に真逆な存在です。どのような関係においても相容れない存在と言えるでしょう。互いにウマが合わないと認識するのにそう時間はかかりません。恋愛面においても、考えるよりまず行動に移す射手座は、乙女座から見ると異質な存在と受け止めることしかできません。はっきり言って最悪です。
ブボッ… 朱莉は読んでいる途中で変なものを口と鼻から吐き出した。
…… 何の嫌がらせかな? ここまで悪く書く相性占いってあるの? あたし初めて見たんだけど… 何これ?
そう言って朱莉はそのページを破り捨てた。
次、次! まだ血液型がある。ええっと、侑汰君はAB型で私はB型だから… 今度はいい事書いててね…
(AB型とB型の相性)
B型は気になると猪突猛進していく性格ですから、人見知りなAB型は引いてしまうことも多いでしょう。AB型は一度殻に閉じこもってしまうとなかなか表に出てきません。はっきり言って諦めることをお勧めします。
ブビッボッ… 朱莉は得体の知れない音を立ててまた何やら吐き出した。
…… 何か恨みでもあるの? はっきり言いなさいよ… 朱莉は本に八つ当たりを始めた。当然このページも破り捨てた。
それから色んな相性診断をやってみた結果… 朱莉は占いを信じることを止めた。一生占いなんかしない…
毎朝テレビで今日の運勢を楽しみに見ていたが、明日から見るのをやめようと固く誓った。この世に占いなんて無い…
こ、こんな非科学的で何の根拠もないものなんて ど、どうでもいいもん…
それから朱莉は別の恋愛本を読み始め、どうやって男を墜とすかの研究を進めることにした。
射手座の特徴として、思い立ったらすぐに行動を起こすこと占いに書いてあった。きっちり朱莉に当てはまっているが朱莉は完全に無視することに決めた。
ちなみに侑汰の乙女座の特徴として他人に気遣いを掛けると書いてあった。恐るべし星座占い… 当たっている。




