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一緒にテスト勉強



いよいよ期末テスト前となり、学校から一番近い俺の家でみんな集まって勉強することとなった。


「今日から放課後は侑汰君の家で勉強だね」


朱莉にそう言われたので、真面目に注意しておいた。


「真剣にやるんだぞ、俺ら結構ヤバいし…」


この席になってから様々な騒動をやらかしていて、まともに授業を受けた記憶が本当に少ない。考えなくてもヤバいのはわかる。


「夏休みに補講なんてまっぴらだから頑張る」


沙奈江も元気に言うが… 俺は二人を怪訝な目で見た。


「あ、私達が真面目にやんないと思ってるでしょ、侑汰君?」


真面目にやってるのを見たことがない俺にどうやって信じろと言う? お前たちを信じるなんて宇宙人の存在を信じるのとたいして変わんね―ぞ…


「取り敢えず学校終わったらすぐに侑汰の家に行こう」


そんな感じで放課後、3人で俺の家に集まった。



「何か飲み物でも持ってくるから勉強道具の用意しといて」


俺はそう言ってリビングに降りて行った。

取り敢えず冷たい麦茶を持って部屋に戻ると、朱莉が大量のコピーを仕分けしていた。


「なに、この大量のコピー?」


「へへへ~ いろいろ情報を集めておいたんだ」


そのコピーは朱莉がクラスで頭がよさそうな男連中をたぶらかし、テスト用にまとめたノートをコピーさせて貰ったものだった。さらにそのコピーから朱莉なりにまとめた内容や調べたことを記載した朱莉作成の資料もあった。俺はいつの間に朱莉がこんなことをやっていたのか全く気付かなかった。


「夏休みは3人で色々遊びたいから頑張って作ったんだよ」


そう言った朱莉の目はよく見ると少し赤くなり充血している。寝不足なのがよくわかる目をしていた。


「朱莉… いつのまにこんなこと… 」


余りにも驚いたので上手い言葉が出ずについそんなことを言ったが、


「私はこういうの上手なんだよ、えへへ~。 これさえあれば大丈夫」


大したことないような物言いで少し悪戯っぽく自慢げに朱莉は言った。

朱莉はニコニコと笑いながら軽い感じで話しているが、これだけ丁寧に、しかもこれだけの量をまとめるには相当苦労したことは容易に想像できる。

そんな苦労には一つも触れず俺たち3人で楽しい夏休みを過ごしたいからとだけ言って俺と沙奈江にこの資料を用意してくれた。俺は何か感謝の気持ちを伝えようとしたが言葉に詰まった。


ありがとう… いや違う、それだけじゃない。 何だろう… なんとも表現しにくい感情が沸き起こってくる。


ただ、俺や沙奈江のことを思ってくれる気持ち… それだけははっきりと理解できた。



俺は以前からこの二人に聞いてみたかったことがある。二人の喧嘩を止めるために俺はこの二人に出来るだけの気遣いを行い優しくした。どうしてたったそれだけの理由でここまで俺に好意を持ったのか… 

俺はただ自分に被害が来ないように、自分の為にしただけなのに… 


だが、最近経験したこと… 沙奈江は俺を馬鹿にした奴に対して自分が代わりとなってそいつを追い返した。朱莉は俺の為に時間を掛けてテスト対策の試料を作ってくれた。俺のことを思って彼女たちが示してくれた態度を見て俺は心に大きく響くものを感じた。


そういう事だったんだ… 自分のために他人が見返りもなしに施してくれる優しさを受けると、心に強く感じるものが生まれる。それを繰り返し受けるとやがてその心は優しさを与えてくれる人に傾いていく…


今まで俺に対してそんな優しさを向けてくれたのは姉さんだけだった。

だけど今はその優しさを朱莉と沙奈江が与えてくれる… そんな二人に対して俺の中にも特別な感情が生まれてきている。


今まで自分はそんな無条件な優しさなんて誰にもかけたことがなかった。唯一彼女たちを除いて…

彼女たちに対しては仕方なくそうしたが、その優しさを受けた彼女たちは勘違いをした… 今ならその気持ちも解る。


勘違いから生まれた俺に対する好意が、今どのように変化しているのかは知らない。ただ、その好意を彼女たちは行動で見せてくれた。俺は今、その好意に対して少しでも応えてあげたいと思っている… 

自分にこんな気持ちが生まれたのは初めてだった。


朱莉が持ってきてくれた資料を使ってテスト勉強を始めたが、これだけ要点を得たノートがあると流石に勉強も捗った。


意外にも二人はふざけることもなく勉強に集中して取り組んでいた。暫くして、


「あ~あ、疲れた… 休憩」

そう言って朱莉は、ん~っと伸びをして俺のほうを向いて何やらニヤニヤしながら顔を少し近づけて、


「侑汰君、頑張った人にはご褒美をあげるもんだよね?」


そう言いながら俺の方へにじり寄ってきた。すると俺の右膝に頭を摺り寄せて枕にして寝はじめた。


「今日は特別に頭を撫で撫でさせてあげる… へへっ」


膝の上から少し顔を上向きにして俺の顔を覗き見る朱莉は子供のような無邪気な表情をしている。

すると沙奈江も、


「朱莉だけずるい、侑汰、私も~」


そういって沙奈江は俺の左膝に頭を載せてきて撫で撫でしろと言ってきた。

膝枕って男のロマンじゃなかったっけ? なんで俺が、しかも二人同時に?

何か俺の休憩だけ完全無視されてる気にもなったが、それぐらいの事ならいくらでもやってやるよと思った。


朱莉や沙奈江が俺のことを大切に思ってくれている気持ちに感謝しないと…

二人の頭を優しく撫でると、二人とも少し照れながら目を細めて微笑みを浮かべながら和んでいた。

その表情を見ていて俺はふと考えていた。


“いとおしい”って漢字で書くと“愛おしい”だったよな…


頭を撫でながら二人の表情を見ているとなぜか俺の気持ちも落ちついた。

二人が安らいでいる様子を見るとなぜか俺の心も満たされる… そんな不思議な感情に初めて気づいた。


撫で始めてから10分経過…


「あの~ 朱莉さん、沙奈江さん、俺の足が痺れて…って 」


痺れの限界が来たので強制終了。終わりだと言うと二人ともちょっと拗ねたような表情をしたが、すぐに笑顔で「充電完了」と言ってむくっと起き上がり、元気一杯の表情となった。


「侑汰君も膝枕してあげようか?」


朱莉にそう言われたが、… やって欲しいと思う気持ちがある反面、沙奈江が何を言い出すか怖いこともあり遠慮しておいた。


それからも結構真面目にテスト勉強は進み、かなり前進することができた。

途中、玄関が開く音が聞こえたので「鈴姉が帰ってきたかな?」と言うと二人とも急に表情を変えた。


二人が鈴姉に何かを思っていることは何となく分かっている。どうするのか気になったが、何も言わずそのまま勉強を続けていた。


俺も正直今はまだ2人には姉さんと話し合いをして欲しくなかった。もう少し俺の気持ちが二人に傾くまで待って欲しい…

姉さん以外の女の子を初めて好きになれそうな今は朱莉や沙奈江を思うことに集中したい…


夕方も遅くなってきたので、そろそろ今日は終わりにして帰ろうとなった。


「それじゃ侑汰君、また明日ね」

「明日も頑張ろうね、侑汰」


2人と玄関へ向かうとき、リビングから鈴姉が出てきて、「あら、二人とも来てたんだ。侑汰と上手くやってる?」と言うと、朱莉と沙奈江は笑顔で「お久しぶりです。今日も仲良く勉強してました」と答えた。二人の表情をよく見ていたが、特別何かを疑うような様子もなく至って普通だった。


2人を駅まで送っている途中、ふいに沙奈江が俺の方へ近寄り笑顔で言ってきた。


「どう、私たちの魅力にだんだん気付いてきた?」


自信を持った表情をして冗談ぽく言ってきたが、俺の目を見る沙奈江の瞳はどこか真剣さを感じた。

急にそんな事を聞かれてついぽろっと本音が出そうになったが、あやうく堪えて


「… どうなんだろ… 」


少し間をおいて俺はあやふやな返事で誤魔化した。

本音を言えば間違いなくイエスだが、流石に恥ずかしくてそんなストレートなことは言えない。


今度はその様子を見ていた朱莉が俺に言った。


「侑汰君、顔赤くなってるよ~ もしかして図星をつかれて照れてるのかなぁ~?」


朱莉は悪戯っぽい顔をして俺をにやにやした表情で見ている。

俺は少し慌てたが、何となく朱莉のハッタリだと感じたので、


「頭撫でてたら涎を垂らして寝そうになってた女の子の魅力なら感じたよ」


と言ってやったら、朱莉は顔を真っ赤にして怒り出し、


「涎なんて垂らしてません!」


と言いながらプイっと顔をそむけて頬を膨らませた。

流石に悪かったと思いゴメンと謝ったが、朱莉はプンプンしてなかなか機嫌を直さなかった。


少ししてやっと機嫌が直ったころ駅に到着して二人と別れたが、その時には二人とも最高に可愛い笑顔で手を振っていた。



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