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放課後のカフェ



朝、教室に入ると


「おはよう、侑汰君。今日も天気がいいね~」


「おはよう、侑汰。今日は楽しみ~」


朱莉と沙奈江の二人とも上機嫌だった。


ニヤニヤしながら微笑んで周りにも愛想を振りまいている。

彼女たちが機嫌いいのは昨日の電話の内容が原因。


今は7月半ばで、もうすぐ期末試験、その後に夏休みとなる。

昨日朱莉から電話があり、取り敢えずテスト勉強を3人で協力してやろうという話になった。その後の夏休みの予定の話もある。


そんな訳で今日は学校帰りに何処かによって話をしようということになったのだ。

因みに誘ったのは俺の方からで、朱莉は「侑汰君が誘ってくれるんだ… ホントに?」と言ってびっくりした様子だったが、凄く嬉しそうな声で「だったら何処へ行こうか沙奈江と考える」といって、後で沙奈江と相談したみたいだった。


この席に移ってきて二か月近くになった。最初は恐怖を感じさせられ、次に突然近寄って来られて… 今はようやくこの席が楽しいと思えるようになってきた。この席に移ってきてからまさか3人で学校帰りに何処かへ行く時が来るなんてことは思ってもみなかった。


授業中もニコニコとして時折俺の方を見てはニマァ~と笑う。前から思うけど、この二人は気分が表情や態度にすぐ現れる。


入学してからだいぶ月日もたって、クラスの皆とも顔なじみになってきている。

そうなるとよく出てくる話が、「○○君と△△さんて怪しいよね~」である。俺達3人は休憩時間も昼食もほとんど動かず3人一緒にいてよく喋っていたが、クラスの誰からも怪しまれていない。彼女たちに対して皆の目は、言い寄ってくる男の方に行っていたのと、俺に対しては鈴姉の印象が大きすぎたことで、まさかこの3人が関係あるとは誰も思ってないようだ。


午前中の授業も終わりお昼休みになり、いつものように亮佑がやってきて4人で食べていると、


「朱莉、なんか今日はご機嫌だな。なんかいいことでもあったの?」


「そんなことないよ、いつもと一緒だよ」


亮佑が聞くと朱莉は明るい笑顔で答えた。


「あのさ~ 俺ら結構仲良くなったし、今度皆でどっかいかない?」


亮佑は機嫌がいいタイミングを逃さずここぞとばかりに誘った… が、


「今度ね~」


朱莉に体の良い断り文句を秒で返された。


「侑汰、今度朱莉達と何処かに遊びに行けるぞ」


亮佑は喜んで俺に言ってきた…


あのな亮佑、その場合の「今度」は未来永劫絶対に来ない「今度」だぞ…



昼休みも終わり午後の授業となった。

午後の授業中も二人は終始機嫌よく過ごしていた。


そして放課後、朱莉が用事で職員室に行ったので沙奈江と教室で待っていると、イケメン風のなんともチャラそうな奴が教室に入ってきた。誰よ?と思っていたら俺たちの方を見た途端、急に近寄ってきた。


「八条、俺の方から告るなんて滅多にないんだぞ、俺と付き合えって…」


いきなり俺たちの近くに来て偉そうな物言いで沙奈江に話しかけた。

どうやら以前、沙奈江にフラれた奴みたいだ。


「だから好きな人がいるから無理って言ったでしょ」


沙奈江もすぐに言い返す。


「だから一回じっくり話を聞けって…」


チャラ男がしつこく話しかけるので、俺がチャラ男の方を見ると、


「あ、誰よお前。… 俺ら大事な話があるんだわ… 邪魔だから向こう行っててくんない?」


そう言って俺の制服をつかみ上げた。


すると沙奈江の表情はみる見る変わっていった。物凄い怒りの表情となり、俺の制服を握っていたチャラ男の手首を掴んで


「向こうへ行くのはあんただよ」


そう言って手首を掴んだまんま教室から引きずり出して廊下の方へ出て行った。

廊下に出ると壁際にチャラ男を押し付け完全にキレた表情でチャラ男に罵声を浴びせている。俺は心配になって廊下に見に行ったが、掴まれている手首が痛いのか悲壮な表情で捲し立てられてるチャラ男がいた。沙奈江の声は大きく廊下中に響いていた。


「あんたそれでイケてるとか思ってるわけ? 二度と近寄らないでくれる? このクズ男!」


教室や廊下にいた連中はみな無言になってその様子を眺めていた。


「な、なんだよ… お前みたいな凶暴な奴、最低だな!」


情けない捨て台詞を吐いてチャラ男は逃げるように去っていった。


沙奈江は逃げていくチャラ男の方を暫く睨んでいたが、少し落ち着きを取り戻して教室に戻ってきた。

俺に八つ当たりをしたり、睨んだりしていた沙奈江を知っているが、こんなに怒った沙奈江を見たのは初めてだった。俺に対してやっていたことなど今のに比べたら本当に可愛いものだ。


騒ぎが一段落すると周りにいた男連中は「ざまぁ~」ってな感じでチャラ男のことを笑っていた。沙奈江が教室に戻ってくると今度は女子の数人が近くに来て


「あいつ5組の奴でしょ、普段からなんか偉そうにしててムカついてたんだ。沙奈江ナイス!」


そう言って騒いでた。沙奈江は俺の方を見ると少しほっとして安心した表情になり、その後少し恥ずかしそうにして顔がほんのり赤くなっていた。


沙奈江は明らかにチャラ男が俺に絡んできたことに対して怒りを噴出させた。沙奈江は馬鹿にされた俺の代わりにチャラ男に突っかかって行ったんだ… 何だか女の子に守ってもらうなんて情けないと思う気持ちにもなったが、それよりも俺のためにあれだけ怒りを露わにした沙奈江を見て心にずしっと感じるものがあった。ここまで俺のことを思って守ってくれたのは姉さん以外で初めてだ…


「ごめんね、侑汰。嫌な思いさせちゃって…」


沙奈江は申し訳なさそうに俺に言ってきた。


「沙奈江が俺の分まで言ってくれたから別にいいよ」


本当はそんな言葉よりももっといろんなことを感じた。沙奈江に掛けたかった言葉も沢山あったがうまく言えない… ただ、この言葉だけはすぐに思いついたが言えなかった…

(なんか… ありがとう、沙奈江)


それから少しして朱莉が帰ってきたので、これから出かけようとなった。

校門を出てしばらくするまで少し離れて歩き、同じ学校の生徒を見かけなくなると二人は近づいてきた。


「侑汰君、どこへ行く?」


「朱莉と沙奈江で行先決めたんじゃないの?」


「えへへぇ~ 結局決まんなかった…」


朱莉が悪戯っぽく甘えた感じで楽しそうに言った。一応そんなこともあろうかと考えてた場所はある。


「それじゃ、カフェとかでいい?」

「「いいよ~」」


二人そろって笑顔で答えた。

俺の家から少し離れたところに小さいけどなかなか雰囲気のいいカフェがある。アンティーク調で店内は装飾されてて中に入ると独特の雰囲気があり俺は気に入っている。それに料理も美味しい。


「着いたぞ、ここだよ」俺がそう言うと、朱莉は「わぁ~ なんか雰囲気いい…」と言い、沙奈江は「あたしこういうの好き」といって大そうお気に入りの様子だった。この店の良いところは、テーブル間隔が広くて独立しており、隣が気にならないところだ。


二人はスマホを取り出し店内の撮影を開始し始めた。店員に案内されテーブルに着くと辺りをきょろきょろと見回して気に入ったものがあればすぐにカシャっとシャッター音が鳴る。恥ずかしいから止めろと言いたいが、二人のワクワク顔を見ると言っても無駄だと分かったので好きなようにさせていた。


「侑汰君いい店知ってるね。どうやって見つけたの?」


そんなの鈴姉に連れてこられたからに決まっている。でもこの二人にはあまり言いたくないので友達に教えてもらったことにしておいた。


取り敢えずメニューを見せて注文を決めようとしたが、二人とも決まらない。


「あれがいい… あ、これも… 沙奈江、それもいいよね」


「ショコラ… トルテも… やっぱりチーズ系も」


結局決まんないからケーキセットを3つ頼んだ。俺がお薦めする3種類のケーキを注文する。

ケーキが来たら即撮影。しかも色んなアングルから… お前らはグルメレポーターか?


「うわ~、このフォンダンショコラのチョコ美味しい~」


「このタルトも甘さがちょうどいい、侑汰が選んだのは全部美味しいよ」


「侑汰君は女の子のこと良く分かってるね」


全部鈴姉のセレクトだ。俺には全部適当に美味しいとしか感じない。やっぱ鈴姉はセンスがいいと改めて思った。


その後も二人でキャッキャ言いながら3種類のケーキを堪能していた。

鈴姉は割と静かに食べる方なので、彼女たちの反応には俺もびっくりした。同じ店で食べるのに相手が違うとこうも印象が変わるものかと少し驚いたが… 周りに迷惑だからもう少し静かにして欲しい…


結局、俺の口にはほとんどケーキが回ってくることなく、二人は堪能した。その後も店の雰囲気などを彼女たちは評価し結論としてこの店は星4つということとなった。


一つ大事なことを忘れてそうなので一応聞いてみた。


「朱莉、沙奈江、期末テストはどうすんの?」


「何それ?」


彼女たちの反応は素晴らしい。テスト勉強をどのようにするかの話し合いに来たことを微塵も覚えていない。

ただ、初めて誘って連れてきたお店を気に入ってもらえたことだけは理解できた。ちょっと嬉しい…


初めて放課後3人で一緒にカフェに立ち寄った感想は、ただひたすら彼女たちがはしゃいで楽しんだという結果となった。


良かった?…のかどうだか…。


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