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机をくっつけろ作戦



怜治と話した次の日、俺は少しずつ自分を変えていこうと決意して学校へ向かった。

ただ、ある日突然変われる訳でもないので、取り敢えずはぼちぼちと…


学校について朱莉と沙奈江と挨拶をすると、何やら妙に微笑んでいる。

冷静に外から見てると凄く不気味だ。


朝のHRも終わり、1限目が始まる前になると朱莉が机の中をごそごそと探っている。見ていると教科書を探している様子だ。


「朱莉、机くっつけるよ」


そう言って俺は自分の机を朱莉の机とくっつけて、教科書を間に置いた。


「侑汰君良くわかったね」


「そんなの様子見てたら直ぐにわかるよ」


「ありがとう、やっぱり侑汰君は優しいね」


そう言ってとても可愛い笑顔でお礼を言ってくる。

そんな顔でお礼を言われるとこっちも何か気持ちよくなってくる。


授業中も無理にくっついてくる訳でもなく、真面目に授業を受けている。時折俺に質問してきたり、俺に教えてくれたりと普通な感じだ。ただ、黒板の内容をノートに書き写している朱莉の姿を不意にみると何故かドキッとした。自然な表情の彼女を近くから見ているせいか余計に可愛く見える。


ただ、授業が終わると何か違和感を感じた。授業開始時にある程度あった俺と朱莉の距離は、授業終了時にはいつの間にか互いの肘がぶつかりそうなまでに近付いていた。俺が近寄ったのか朱莉が近寄ったのか良くわからない…


1限目が終わり休憩時間になると沙奈江が話しかけてきた。


「侑汰、ごめん 教科書忘れてきた」


「じゃあ、机くっつけようか」



2限目は沙奈江と一緒に授業を受けることになった。


「侑汰はやっぱり優しいね、ありがとう」


沙奈江も微笑みながらお礼を言ってくれる。その顔は凄く奇麗に見えた。

沙奈江は俺が近くによると少しおどおどとしていた。そして少し顔が赤くなる。そんな様子を見ていると余計に可愛く感じる。


授業が始まると沙奈江も真剣に先生の話を聞いていた。別にこれといったこともなく一緒に授業を受けていた。


2限目が終わり休憩時間、朱莉が話しかけてきた。


「なんか時間割を勘違いしちゃったみたい。次の時間も教科書見せて」


流石にここまでくるといくら馬鹿でも気付き始める。多分4限目は沙奈江が何か言ってくるはず…


3限目は再び朱莉と席をくっつけて受けた。どうしても気になっていたので、俺と朱莉の距離をよく見ていた。俺が絶対に動かないように意識していたが、気が付けばやはり朱莉が近付いてきている。もはやメリーさんのようだ。


誰にも気付かせないで自然に近寄ってくる朱莉のこの技はもはや芸術品だ。授業が終わるころには二人はほぼくっついていた。


3限目が終わると沙奈江が手首をくいくいっと曲げて“こっちに来い”と手招きしている。もはや理由をこじつけることもやめたようだ。その露骨なやり方を見て俺は可笑しくなって笑いそうになった。


「はい、侑汰は私の隣で授業を受けること」


そう言って沙奈江は俺の机を自分の机にくっつけた。

朝から何か企んでるとは思っていたが、こうまで露骨にやられると笑いが込み上げてくる。


机をくっつけて隣に座る沙奈江は本当に楽しそうな表情をしていた。

彼女たちは何か考えて行動に移したんだろうが、毎度のことながらその行動力には驚かされる。普通、考え付いても恥ずかしくってできないような行動も平気でやってくる。俺はある意味そんな彼女たちを尊敬した。


ただ、今の俺は彼女たちを好きになろうと思っている。だから彼女たちのこの行動は俺にとっても有り難い。


4限目も終わり、昼食となった。いつも通り亮佑がやってきて4人で弁当を食べている。亮佑はいまだに朱莉のことが好きみたいで常に朱莉の傍に座る。


俺の横には何食わぬ顔で平然と食事をする二人がいる。そんな彼女たちを見て今日の彼女たちの作戦を思い出すと笑ってしまいそうになり、必死に堪えていた。


「侑汰、どうした? なんか具合でも悪いのか?」


亮佑が話しかけてきたが、返事をすると笑いをこらえ切れなくなりそうなので、ただ首を横に振って応えた。



昼休みも終わり頃、5限目の前になると俺は自分から朱莉の机に俺の机をくっつけた。


「そういうことだろ?」


俺が朱莉に言うと、


「そういうことになるよね」


そう言って二人で顔を見合わせるとお互いに笑い出した。


――――――――――――


前日の朱莉と沙奈江の会話


「朱莉、これからどんな方法を使うの?」


「侑汰君てさ、他人によく気を遣うよね、… 私達にもだけど…」


「そうだね、気配りが上手っていうか…」


「だったらその気遣いをすべて私達だけに向けさせようかってね…」


「どういうこと?」


「そんなに気遣いしたいんだったら私たちが存分にさせてやろうってこと」


「どうやって?」


「私たちが困ったような状況になればいいんだよ。侑汰君に助けてっていうような…」


「でもやりすぎると嫌われたりしないかな…」


「多分それは大丈夫。侑汰君って気遣いをしても好きとか嫌いにならないみたいだし… それに私達もちゃんと可愛い笑顔でお礼を言えばいいから」


「そうだね、だったら侑汰もいい事をしたって納得するかもね」


「それに侑汰君の注意を私達だけに引き付けることができるしね」


こうして、「教科書を忘れた大作戦」は実行されることになった。

朱莉はこのような人の心理を逆手に取るような方法を思いつくのが上手い。なかなか知恵が廻る。ただ、やり方が度を超す事が多く、ろくでもない結果になることが多い、


侑汰は5限目は朱莉と、6限目は沙奈江と席をくっつけて授業を受けた。

侑汰は今日1日、必ずどちらかと席をくっつけて授業を受けたことになる。


そしてすべての授業が終わった放課後、3人は職員室に呼び出される。

担任の先生からどれだけ教科書を忘れてくるんだときついお叱りを受ける。侑汰は完全にまき沿いを食った。


ようやく担任からの説教も終わり教室へ戻っているとき、朱莉と沙奈江で何か言い合っていた。


「だからあれはやりすぎだって言ったでしょ、朱莉」


「沙奈江も侑汰君と一緒の時間が増えるって喜んでたじゃん」


「だからって職員室に呼ばれてどーすんのよ!」


「だからこれからは手加減するようにしたらいいでしょ!」


そんな彼女たちを見ていて、侑汰は毎度のことながら二人に感心していた。

でも彼女たちが侑汰の事を思ってあれこれ頑張ってるのを見ると、心が少しずつ彼女たちのほうへ惹かれていっていることを侑汰は感じていた。


この3人でどたばたやっていると、やっぱり楽しい…



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