侑汰の変化
放課後のドタバタ騒ぎから帰宅した3人はそれぞれ今日の出来事を振り返っていた。
朱莉の部屋
はぁ~ 折角早起きしてこれだけオシャレして気合い入れてたのに、放課後侑汰くんは先帰っちゃた。
あの感じだったらもう一押しで完全に墜とせたと思ったのに… 侑汰くんが女の子に目覚めてくれて、自分の方から迫ってくれるようにしないと始まんないし…
ま、でも結構成果はあったよね、うん。侑汰君、顔赤くして照れてたし…
照れてる顔、可愛かったな~キャハハ。
でも、お昼休みは良かったなぁ~ … 可愛く見せるのに頑張ったポイント、全部褒めてくれた。頑張って化粧した甲斐があったな~ やっぱり侑汰君に優しく褒められると気持ちがふわふわしちゃって幸せになれる。
もっと可愛くしたらさぁ~ 侑汰くん急に目覚めちゃって、「こんなに可愛い朱莉見てるともう我慢できない」なんて言って抱きしめてきたりして…… ど~しよ、ど~しよ! ヤバいヤバい… それで耳元で「朱莉のこと大好きだよ」なんて言ってくるのよね… キャアアアアアッ!
はぁ~ はぁ~ だめだ… 息苦しくなってきた…
朱莉は取り敢えず今日の結果を真剣に考えるより、一人妄想にふけって悦に入り空想の中で幸せを感じていた。
沙奈江の部屋
惜しかった… 侑汰の様子見てたら絶対いけると思ったのに… よくよく考えたら朱莉と二人であんなことやったら目立つに決まってるよね… あれは3人だけの時にやろう…。でも、久しぶりに侑汰からあれだけ褒めてもらって優しくされた。本当に幸せ…
最近あんまり優しくしてくれてなかったから余計に嬉しく感じる。侑汰ってツンデレ? でも、やっぱりいい… あれいい… 癒される。 侑汰~ すきすき大好き~ 明日も今日みたいに優しくしてくれるんだったら毎日化粧していくよ。
でも本当はもっと早く先に進めたいんだよね… 大体こんなのは力技で押し切るような感じで行った方が早いと思うんだけど… 朱莉が賛成してくれないし…。
私だったら侑汰にいきなり抱き付いて女の子の体を直に感じさせて…て…て…
やっぱりこんな強引なのはだめだ、うんうん。朱莉には絶対そんな、はしたないことはやらないでおこうと言おう!
沙奈江は重要なことに気付いた。侑汰に体で女の子を感じさせると… 胸のサイズが残念な沙奈江が胸が豊潤な朱莉に勝てる訳がない。ほとんど自殺行為である。
実行する前に気付けて良かったと沙奈江は(ない)胸をなで下ろした。
結局沙奈江も今日の成果を冷静に考えることは出来ていない。
侑汰の部屋
今日はあの二人、何を考えてあんなことをしてきたんだろう?… でも、確かに可愛かったな… 普通にびっくりした。あんな可愛い子二人が俺と仲のいい女友達か… しかも俺の事好きだって言ってるし、何か照れるな…
以上終了。
だからどうしたという感情は一切ない。相変わらず女の子に対して深い感情を抱かない。
これが侑汰クオリティーである。ちなみに侑汰の言う「好き」は小学生レベルの「好き」である。
ただ以前のように彼女たちに悪い印象は持っていない。
結局、今日の成果は朱莉と沙奈江がさらに侑汰に惚れ込んで2歩前進し、侑汰には何の変化もなかった。
惚れさせに行った二人が余計に惚れてしまっただけとなった。
ただ、毎度のことながら何かを考えてすぐさま実行し、それが周囲に与える影響の大きさを見て彼女たちの凄さだけは実感した。ある意味侑汰は彼女たちを尊敬するようになった。
次の日の朝、
「朱莉、沙奈江おはよう。今日も可愛いね」
いつもと全く変わらない侑汰からの挨拶、照れる様子もはにかむ様子も一切なし…
「朱莉、なんか普通なんだけど…」
「手応えはあったよね…」
二人は首を傾げて不思議に感じている。ただ、あれだけ頑張ったのだから何にもないことは絶対ないと信じていた。
席について鞄の中の教科書を机に入れている侑汰を見ていても全く変化がない…
「ん、どうしたの?」
侑汰に聞かれるが、二人の方が逆に聞きたかった。…「どうもないの?」
「侑汰君、私たちをよく見て… もっと近くから」
侑汰は二人に近づいてまじまじと二人の顔をみた。
「いつもと変りなく奇麗だよ」
平然といつものように侑汰が言った。
侑汰に見つめられ、奇麗だと言われた二人は嬉しくなって頬を赤らめてモジモジする。
正気に戻って、「なんで私たちが照れてるの?」と思ったところで朝のHRが始まった。
二人は悟った… あれは完全に不発に終わったと…
ただ、二人にはまだ昨日の不発処理作業が残っている。
今朝から二人には周囲からの妙に熱い視線が降り注いでいる。授業の合間の休憩時間になるとやたら男子が集まり時折呼び出されては教室から出ていく。
昼休みになり弁当も食べ終わって、ようやくゆっくり侑汰と喋って楽しもうと思ってたところに… また呼び出される。
結局二人は昨日の処理のおかげでほとんど侑汰と一緒にいられなかった。
二人は告白された際にいつも「好きな人がいるから」といって断っている。彼氏ができたといえば告白も止まるが、さすがに相手が侑汰と言うわけにもいかないので、彼氏がいるとは言えない。
ようやく午後の授業も終わったが、朱莉と沙奈江は疲れ切っていた。侑汰と一緒に3人で帰ろうとしている時、さらに追い打ちがかかる。伝言が届き、朱莉が呼び出された。
「はあ~」とため息をついて「ちょっと待ってて」といい、呼び出された先に向かおうとしたが、ふと立ち止まって一度侑汰の方をチラッと見た後、侑汰に背を向けたまま
「あ~あ、また告白されちゃうんだ…」
そう言ってもう一度侑汰をチラ見する。侑汰は何も言わない。
(目の前で自分のことを好きな女の子が他の男に告白されようとしてるんだよ? なんか言おうよ侑汰君…)
「物凄くイケメンだったらど~しよ?」
チラッ… チラッ… 朱莉は何度も侑汰を見る。
「朱莉、…」
(きた~! 侑汰君… 行くなって言ってくれるの?)
「頑張って来いよ」
(おい… 何を!? …何を頑張れっていうのよ…)
「……行ってきます…」
朱莉はげんなりした表情で肩を落としてトボトボと教室を出ていく。
「帰ってくるまで待ってるから」
侑汰はそんな朱莉を明るく笑顔で見送った。
沙奈江は悲しげな同情の眼差しで朱莉を見送った。
しばらくして朱莉は戻ってきたが、機嫌は悪い。
ツンツンして侑汰の顔を見てもプイッとそっぽを向く。
「朱莉 どうしたの? なんか嫌なことでも言われた?」
朱莉は「あんたにね!」と言いたかったが、
「何でもないよ」
不機嫌な顔で侑汰の顔を見ないで明後日の方を向いて言った。
どうにも空気がおかしい… 朱莉は絶対何か怒ってる…
侑汰は取り敢えずそんな朱莉を宥めてやろうと思い教室を見回した。他に誰もいない…
侑汰はそっぽを向いてる朱莉にゆっくり近付いて行って… 朱莉の頭を自分の胸元に引き寄せ朱莉の頭を優しく撫でてやった。
「ちょ、な、なに! いきなり…」
「機嫌直して、朱莉」
いきなり侑汰に引き寄せられた朱莉は慌てふためいて顔を真っ赤にしながらジタバタしたが、やがて侑汰に吸い寄せられて胸元にしっかり収まった。
朱莉の顔は最初、可哀そうなほど狼狽していたが優しく頭を撫でられると完全に力が抜け、表情は緩んでいきやがて俯いてじっとして大人しくなった。朱莉は耳の先まで真っ赤になっている。
侑汰は鈴女以外の女性に生まれて初めて自分から触れていった。
侑汰は3人でいる最近の生活が楽しいと感じ始めていた。これだけ行動力と影響力を持った二人が侑汰の言葉や態度でその表情を様々に変化させる… そんな二人を見ていて侑汰は親近感を感じるようになった。
だから不機嫌になってしまった朱莉を慰めてやりたいと思う感情が、侑汰を初めて女性に自ら触れるという行動へと導くことになった。
侑汰は今まで無意識ではなく故意的に鈴女以外の女性に触れないようにしていた。
漢字の変換ミスなどいろいろやっちゃたことをお詫びします。
これからもご愛読よろしくお願いします。




