鈴女との対談
「朱莉さん、沙奈江さん、今日来てもらったのはお二人にお話があるからなんだけどいいかな?」
「ええ、私もそのつもりで来ました。私もお聞きしたいことがあります」
沙奈江がそう言うと、
「私もです。鈴女さんに聞きたいことがたくさんあります。」
朱莉も思っていることを言った。
「それは分かってる、でも最初に私の話から聞いてね。その後にあなたたちからのお話も全て聞かせてもらうわ」
そう言って鈴女は話し始めた。
「あなたたち二人と侑ちゃんの関係は昨日、侑ちゃんから聞いたわ。最初に言っておいていいかな? 侑ちゃんの気持ち…」
「いいです」
二人ともすぐに答えた。
「侑ちゃんはね、残念だけどあなたたちお二人とはお付き合いしたくないって言ってるの」
鈴女はいたって冷静に言った。朱莉と沙奈江は予想外の言葉でかなり動揺している。
「どうしてですか、何か理由を言ってませんでしたか?」
朱莉が泣きそうな顔で鈴女に言った。
「詳しい理由は言ってなかった。ただ、お付き合いする気はないって言うだけで…。私が侑ちゃんの様子を見て思ったのはね、言いにくいんだけどあなた達に良い印象を持ってないってことかな…」
この言葉には二人とも大きなショックを受けた。
私達は侑汰に嫌われてる?… どうして?…
「侑ちゃんとの関係を初めの頃から全部思い出してみて… 何か原因があると思うから。 それに気付かない限り侑ちゃんに好きなって貰うことなんて出来ないよ…」
鈴女は二人を優しく諭すように話した。
二人は侑汰と席を並べ始めたころからのことを思い出していた。やがて二人とも同じことに気付いてきた。
まだ二人が喧嘩していた頃、二人の気持ちは常にイライラしていて二人は侑汰に八つ当たりをしていた。そんな中、侑汰は自分たちの事を考え優しく気遣ってくれて気持ちを落ち着けてくれた。そのおかげで二人は仲直りができたが、その間は自分たちは侑汰に酷いことばかりしていた。しかも、そんなことをしていた自分達に対してさえ、侑汰は優しくしてくれていた…
だから自分たちは侑汰を好きになったが、私たちはそんな侑汰に迷惑しかかけていない… 侑汰に優しくした覚えもない。
二人がそのことに気付いた時、二人の目には涙が流れていた。朱莉も沙奈江もただ涙を流していた。
「何かに気付いたんだね… 気付いた上で、あなたたちはどうしたい?」
鈴女は二人に優しく言った。
「私は侑汰君に付き合って欲しいって思ってたけど… そんなことを言う権利は無いのかもしれない…」
朱莉がそう言った。
「私も侑汰にこれ以上、自分の我儘を言えない…」
沙奈江も同じようなことを言った。
「そう思うんだ。理由は分かったんだね… だったらあなた達はどうすべきなのかな?」
朱莉も沙奈江も答えは分かっている… が、言いたくない… 絶対に。
「鈴女さんが言いたい事は分かります。でも私は侑汰君に嫌われてるって分かってても好きなんです」
朱莉が言った。
「本当は諦めないとだめなのかもしれないけど、私も侑汰のことが好きな気持ちを変えることはできません」
沙奈江も言った。
「そう… それぐらい侑ちゃんのことが好きなんだ。 なら、今から私のお願いを聞いてくれるかな?」
鈴女はそう言って二人に話し始めた。話は長く続いたが、二人はその話を真剣に聞いていた。
やがて鈴女の話が終わると二人の表情は生き生きとしたものになり、元気が溢れていた。
「私の話はこれで終わり。あとはあなた達のお話を聞くわ」
「私は鈴女さんのお話を聞いてもう何も言うことはありません。すべて納得しました」
沙奈江がそういうと、
「私も同じです。何も言うことはありません。今日は鈴女さんとお話しできて本当に良かったです」
朱莉もそういった。
「私との約束、絶対守ってね。それと、二人はいつまでも仲良くいてね」
鈴女が言った言葉に
「「はい、分かりました」」
二人はしっかりと答えた。
「そうしたらそろそろ侑ちゃんを呼んでくるわね」
そう言って鈴女は侑汰を部屋まで迎えに行った。やがて二人はリビングにやってきて席に着いた。
「侑ちゃん、大事なお話があるからよく聞いてね」
「ああ…」
「今日から朱莉さん、沙奈江さんとお付き合いをさせてもらいなさい」
「何言ってんの? 姉さん… そんなのおかしいよ…」
「これは私からのお願いよ… 侑ちゃん、お願いを聞いて…」
俺には全く意味が分からない。鈴姉は二人に俺のことをあきらめる説得をしていたと思い込んでいた。それがいきなり二人と付き合えという… 一体どうなっているのか俺には全く理解できない。
「姉さん、言いたくないけど俺がこの二人と付き合いたくない理由は…」
侑汰がしゃべり始めるとそれを遮るように鈴女は
「侑ちゃん、それについてはもう解決したわ。今後、朱莉さんと沙奈江さんは侑汰に嫌な思いをさせない… それは私に約束してくれたよ。だから侑ちゃんもそのことはもう忘れて… そして、偏見なしにこの二人のこれからを見て欲しいな」
侑汰は基本的に鈴女の言うことに逆らえない。鈴女がこうしろと言ったら文句も言わずに従う。ただ、今回だけはどうしても納得がいかない様子だ。
「侑ちゃん、人はね、どんどん変わっていくものなんだよ。今こうなっているのも侑ちゃんが朱莉さんや沙奈江さんに対してとった行動から来てるんだよ… だったらその責任は侑ちゃんにもあるんだよ。そこから逃げるの?」
「そんなこと言っても俺……」
「自分がやったことには自分で責任を取りなさい」
鈴女は珍しく厳しい口調で侑汰に言った。侑汰は凄く驚いた表情になる…
「分かった、姉さんの言う通りにするよ」
「だったらそんな不機嫌な顔をしていたら朱莉さんや沙奈江さんに失礼でしょ… もっと明るい顔をして」
「わかったよ。ちゃんとやる」
「そうしたら、朱莉さん、沙奈江さん、侑ちゃんのことよろしくお願いしますね」
「「分かりました」」二人は元気よく返事をした。
「これで話は終わりね。もう遅い時間だから二人ともご飯を食べて行って」
「嬉しいんですけど… 本当にいいんですか?」
二人がそう言うと
「みんなで食べたほうが楽しいでしょ」
鈴女が言った言葉に二人とも嬉しそうに「はい」といった。侑汰は未だに訳が分からない様子…
「でも侑ちゃん、こんな可愛い子二人に好かれるなんて本当に幸せ者だよ。二人に感謝しないとね。フフッ」
その言葉を聞いて朱莉と沙奈江は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「侑汰君、今までのことは反省する。だから私たちと付き合ってね」
朱莉はすっきりした笑顔で侑汰に言った。物凄く自然に笑うその表情に侑汰は呆然となった。本当に可愛い…
「侑汰、これからはちゃんと侑汰の気持ちを考えるからね。今まで本当にごめん」
沙奈江も元気よく侑汰に話しかけた。その美しい顔がいつもより輝いて見える。侑汰はその美しさに見惚れた。
彼女たちが魅力的なのは十分わかっていたが、今の表情は以前と違い彼女たちの感情が伝わってくる。
侑汰は初めて女の子に魅了されたのかもしれない。
「鈴女さん、私たちも料理を手伝いますね」
朱莉と沙奈江はそう言って鈴女のもとへ行った。鈴女に言われて食材をとってきたり食器を用意したりこまめに動いている。
学校では見られないような彼女たちの態度に、侑汰は彼女たちの別な一面を見せられたような気がした。人間は色んな顔を持つという。自分が知っていたのは彼女たちのほんの一面に過ぎなかったことを侑汰は初めて知った。
彼女たちの全てを知っていったとき、自分は何を感じてどう変化するんだろうか… 侑汰は漠然とそんなことを思った。
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