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「ふわぁー」
馬車の中で眠い目をこすりぐっと背筋を伸ばす。
昨日の夜はいろいろありすぎて眠れなかったから、すっごく眠たい。
気を抜くとついうとうとと……。
「わっ!」
椅子から落ちそうになるのを慌てて耐える。
もう、学園に着いたらしい。あくびを噛み殺し、うっ〜と伸びをした。
あの後、レイラ様が消えてから寝ないでいろいろ考えてみた。
魔王は倒さなきゃいけないのは絶対で確定事項。けど、私はまだ浄化が使えない。
で、レイラ様は魔法を使うには願うことが必要って言ってた。
どっかで聞いたことあるなぁって思ったらカイルが言ってたことと同じだった。偶然なのかな? でも、二人は会ったことないだろうし偶然だよね、うん。
願うことなんて言われてもどう願えばいいか分からない。レイラ様、アバウト過ぎない?
と、まぁ。そんなこと考えてたらいつの間にか日も完全に昇っていて、侍女が起こしに来る時間になっていた。という訳で寝不足なんですよ。……本当に眠たい。
「クリス、おはよう」
「おはよう、ベル」
教室に入ればベルに声をかけられた。
「どうしたの、その目の下のくまは」
「寝不足です……」
ベルははぁ〜とため息をついた。
「いつも言ってるでしょう? 夜更かしも大概にしなさいって」
言い返せばもっと言われるのを分かってるから私は黙ります。前に一度、言い返したことあるけどそこからの返しが何十倍って……。私は学ぶ子なのです。
しばらくして、満足したのかスッキリした顔でベルが頷いた。
「そうそう。王城に呼ばれたって本当?」
うん、はやいな。だって、昨日のことだよ。しかも放課後。いつ、そんな情報仕入れたのか。
「本当だよ」
「大丈夫だったの?」
「うん。私の属性のことについて聞いただけだったから」
本当はもっと大事なこと言われたけどね。魔王とか魔王とか魔王とか。
まだ、秘密だから言えなけど。
「そう、なら良かった」
「心配してくれたの?」
「あたりまえでしょ」
ぷいっとそっぽを向くベルの顔は赤い。
ふふ、やっぱりベルは優しいねぇー。
「でも、気をつけた方がいいわよ」
急に真剣な声になったベルが言う。
「クリス、いろいろ噂になってるから」
「噂?」
「そう」
なんの噂? 私、聞いたことない。
「王太子殿下に擦り寄ってるとか。似たような噂はたくさんあるけど。まぁ、クリスがそんなことするわけないわね」
当たり前じゃないですか。
なんで、そんな面倒なこと自分からしなきゃいけなのさ。第一、私は伯爵家を継がないといけないんだよ。それに、王太子の婚約者なんて興味ないし。
誰だろうねぇ。こんな噂ながしたのは。




