ルピナス、楓
しばらく轟音が鳴り響いた。
それはもう、比較したらあの地獄の目覚まし時計が蚊の羽音ほどにしか思えないような、そんな轟音。
私の鼓膜はあっという間に跡形もなく破け、目は炎の持つ圧倒的な光量にすぐに使い物にならなくなった。
私の意識はすぐに消えた。10秒持っただろうか?
けれど、
何故だろう。治くんの声だけがはっきりと聞こえた。
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◇視点治
光が消えると、先ほどまでの面影は一切なかった。
そこはまるでミステリーサークルのように炎上に焼け野原が広がっており、周りの木々は爆風で外向きに倒れている。
そして、その中心、一番爆発の影響を受けたところに人が一人倒れている。
「楓!!」
俺は中心で倒れている人に向かって走りだす。約1名知らない人がこちらを見ているが、そんなことは関係ない。
楓はみたところ目だった外傷はなかった。強いて言うなら鼓膜が破れていたことと大量の魔力に一定時間当てられたせいで軽く魔力障害を起こしているぐらいだ。
俺は急いで『超速回復』を楓に向かって使う。
これは時間がかかる分全ての状態異常を回復してくれるので鼓膜の修復はもちろんのこと、体に溜まった余分な魔力を吐き出すこともしてくれる。
楓の手を握り『超速回復』を使う。楓の体を俺の神気が覆ったことを確認すると、今度は右のほうを向いて声をかける。
「で、いつまで隠れてるんだ?」
すると、何もないところいや、何もないように見えていたところが景色ごと揺れると一人のおじさんが出てくる。
「気づいていたか、」
「わざわざ呼び寄せる必要もないからな。」
「可愛くない野郎みたいだな」
おじさんはこちらをみると気さくに話しかけてくる。
少し不審に思った俺は少し聞いてみる。
「で、楓と戦ってたやつがここにいるってことは、お前も俺たちを殺しに来たか?」
「あの化け物みたいな魔力爆発を一人で押さえ込んだやつとやりあうなんて死んでもお断りだ。」
「バレてたか……」
正確に言うと押さえ込んだという表現は正しくない。
俺は魔力爆発の予兆を観測した直後に楓と魔人を隔てる『空走』によるバリアーを展開し、身体中の神気をフル活用して爆発に指向性を持たせた。
普通のゴム風船よりも穴の空いたゴム風船の方が割れにくい(というか割れない)のとおなじ考え方である。
それにしても、と爆発の威力を逃した場所、詳しくいうとバリアーで囲わなかった方をみる。
そこに続くのは木々が全て焼かれ、灰も残っていないようなそんな道。
「思ったよりも魔人の魔力量はすごいらしいな。」
どの書物に書いてあったものよりもすごい威力。
魔人が本気で暴走させた結果なのか、たまたまこいつが強かっただけなのか。
どちらにしろ、治の思考の半分はこの爆破で犠牲者が出てないかの懸念で埋め尽くされている。
それもその筈。
その道は、40キロ先にある岩山をも砕いているのだから。
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楓は約1時間後に目を覚ました。
どこにも障害は見られず、健康体そのものだったので心から安堵した。
琴美は一人活躍できなかったと気を落としていたが、琴美が戦ってくれていなかったら『空走』のバリアーを使うことすらできなかったと言っておいた。今回は本当に『空走』にお世話になった。
ルピナスは、どこか始めてあった時のような感じに戻っている。一人孤独を噛みしめているような、そんな感じに。
楓がすっかり良くなって菫さんの遺品の整理を手伝っているあいだ、俺は戦いで破損したドローンたちを『錬成』で修復していた。
「何か手伝える?」
そこにいたのはルピナスだった。
「直したドローンとか監視ツールとかをそいつらのネットワークに再接続しておいてくれないか?」
「わかった」
そこからしばらく無言が続く。やはり普段無口な二人が揃っても会話は成立しない。
仕方なく俺が口を開く。
「ルピナス、お前は何がそんなに不安なんだ?」
「え?……」
「魔人から攻撃を受ける寸前のところの顔とか、全てに懺悔します!みたいな顔してたぞ。」
「わかっちゃうの?」
「お前とおなじ顔してるやつの彼氏だぞ?バレバレなんだよ。」
「そっか。」
時折響く電子音と金属音。
俺たちは作業しながらも話を続ける。
俺はきっと、ルピナスが話してくれるまで作業を続けるだろう。
「私は、結局何のためにここにいるんだろう。」
「私は何の役にも立っていなかった。結果的にお母さんを殺してしまったのは私。」
「私はお母さんの何だったんだろう。お母さんの大切なものにもなれない私は何のためにここにいるんだろう。」
俺はまだ口を出すつもりはない。
「結局、私は一人だった。役に立てない私が人のそばに立てるわけがないんだよ。」
ルピナスの孤独の原因がやっとわかった。
ルピナスは責め続けているんだ。
あの日の自分を、その次の日の自分を、その次の日も、そのまた次の日も。
今に至るまで、ずっと。
だから俺が行く。ルピナスの心の盾になるために。
もうルピナスを一人で戦わせないために。
「花言葉って知ってるか?」
俺は問いかける。するとルピナスは一瞬キョトンとすると、「知らない」という。
「日本には花言葉ってのがあってな、花一つ一つに意味を持たせてたんだ。」
「日本人は面白いことを考える。」
「それでだな。俺はお前が見せてくれた記憶の最後の言葉が気になったんだ。」
「『ルピナスだからね』なんていう言葉。一見自分は自分みたいなことを言いたいのかと思わせる言い方だが、見事に推理小説色に染まってしまった俺の頭はそんなこと考えない。そして、楓に向けたビデオメッセージで気づいたんだよ。」
「何を?」
「『私の楓の花でいて。そして、誰かの楓の花になって。』と菫さんは言った。そこから花のことを言っていると分かった。そこで俺は記憶から植物について調べたんだよ。もちろん花言葉も。」
「私の名前は花から来てるんだね。」
「ああ、そして花言葉は、『あなたは私の安らぎ』。」
次の瞬間、ハッと息を吸う音とともにルピナスの目が見開かれた。
「お前がいるだけで菫さんは嬉しかったんだよ。そんな人を菫さんがどう思うかなんて、考えるまでもないだろ?」
徐々に涙がたまっていくルピナスの目。口元を手で隠し、嗚咽を必死に飲み込んでいる。
「お前は言っただろ?『役に立てない私が人のそばに立てるわけない』って。だったら、役に立っているお前はもう一人じゃないんだよ。」
「でも、お母さんは、もう……」
「だったら俺の、俺たちのルピナスの花になってくれよ。」
「え?……」
「楓の花言葉は『大切な思い出』。もう楓は俺たちのチームで立派に咲き誇ってるんだ。ルピナスが咲き誇れないはずがないだろ?」
「もう一度言う。俺たちのルピナスの花になってくれないか?」
ルピナスは涙を手の甲で拭う。
一生懸命涙を拭くその姿はまるで、過去との決別を表しているようで、
ルピナスは涙を拭くとこっちをみる。目のあたりは真っ赤に腫れているが、そこに雫は見当たらない。
そして、こちらを見つめるとただふた文字だけ、たったふた文字だけ言う。
「はい!」
と。
笑って、目一杯笑って。
笑顔が咲いたその顔に、俺は不覚にも、顔を赤らめてしまった。
うまく書く時間が取れなくなってきました。待たせてしまって申し訳ありません。
そして、終わり方がラブコメみたい。最近読んでいるものが大きく影響しているのは間違いないでしょう。




