ステージ3 : お世話される係の人と、え~と、オヤツを食べる係の人? ②
風が駆け抜けて霧が徐々に薄くなっていく。霧の中からココアが出てきた。
「わたしがいなくても、倒せましたか?」
フェリンデールが かぶりふる。
「そんなことないわ。一度 目を離されれないと、私はそんなに強くないの。一対一で戦ったなら、何か仕掛けてくるとずっと警戒されるからね。警戒されたら、幻術の価値はなくなってしまう。ありがとう、あなたのおかげで助かったわ」
フェリンデールが優しい微笑をした。
「では、仕切り直しをしましょうか」
フェリンデールの総身から静かな闘気が滾ってきた。
ココアも杖を構えて対峙する。
「そういえば、ひとつ聞いておきたいことがあったわ。今回の戦いで勝ち抜いて主人公になれば、幸せが約束されてるようなものだからね。あなたの求めている幸せって何かしら?」
どのような意図があるのかわからずに、きょとんとするココア。
「あの……、えーと、幸せになりたいと、求めちゃいけませんか?」
「肝心の中身を問いているのよ。ボンヤリとした気持ちでは、ロイみたいに萎えたりするはず。あなたの中に明確な答えがあるかと訊いているのよ」
「それは……」
ココアは言いよどんだ。
ココアは奴隷館では真っ暗な世界に押し込められ、そして人間以下として扱われてきた。
人間ならば決して手放さないはずの命綱の如くの確固たる自分という意識は、暴力で押さえつけられ、嗜虐によって潰されて、ついには擦り切れて失くしてしまっていた。
だから、あの場所にいた時のココアの心はがらんどうで真っ暗な世界であった。
しかし、一人ぼっちの空虚な世界に、光をくれた人がいた。その人に出会い、数々の困難を一緒に乗り越えていき、ついには恋仲になれたのだ。
だから、ココアは幸せであった。これ以上を求めるのは罰あたりなのではないかとすら思っていたりもする。
だからこそ、主人公としての幸せを想像しようとしても分からない。幸せは、今まで求めてはいけない物だと思っていたから、想像したことがなくて上手に浮かばないのだ。
そう、だからこそ――
「幸せは分からない……。だからこそ、わたしの幸せを見てみたい。この戦いを通して主役になって、失くしてしまった本当の自分を……わたしだから噛み締められる幸せの物語を感じてみたい……!」
力強い口調で、勝ち抜く決意を表明する。
「まだわたしは始まってすらなかった、のかも。これから、わたしを見つけるために、わたしの物語を始めなくちゃいけないから……っ!」
杖をフェリンデールに向けて対峙する。
「わたしは、あなたを倒します。わたしのために、絶対に負けたくありませんっ!」
ココアの胸に秘めた決意を、フェリンデールはやさしい歌を聴くような気持ちで穏やかに耳を傾けていた。そして、小さく微笑む。
「なら、相手をしなくちゃ失礼かしらね。お互いに魔力が少ないから、勝負は一回だけね」
フェリンデールが魔方陣を描く。それはこれまでに見たことがない魔方陣であり、未だに誰にも見せたことのない新技であった。
「これが私の最後の魔法。この魔法に耐えたら、あなたの決意を祝福してあげる――!」
魔法が発動し、カッとあたりが光る。
まず最初に不思議な違和感を感じた。まるで鏡越しに世界を覗いているような奇妙さが感じられる。むしろ鏡の中にでも閉じ込められているといわれたほうがしっくりくるだろうか。霊妙な空気に世界が塗りつぶされていた。
そして、ココアとフェリンデールの間にナニカがあった。目を凝らしてみると、だんだん形が見えていき一人の少女が目を瞑って立っているようだった。月を連想させるしとやかな『白い』輝きの長い髪が、背中まで癖もなくさらりと流れている。まるで先天性非才症のような白灰色の輝きの髪であった。そして、ウサギの耳飾りをつけていて、その少女は今のココアとそっくりであった。
「……同じ姿だ、と思ったでしょ?」
ぞっとするような声でフェリンデールが言い放つ。
「精神リンク完了。さあ、行きなさい!」
幻術で出来たココアの瞳が開く。本物のココアに襲いかからんと、杖を構えて魔法陣を展開し召喚をしてきた。
幻術のココアが繰り出したのは、トノサマにゃんこ。ミサイルの雨がココアにおそいかかる。
「負けない……! にゃんこ召喚・ニンジャにゃんこ!」
黒いマフラーのにゃんこを召喚する。ターゲットはミサイルを作り出している幻術のココアだ。ミサイルの隙間を風のように駆け抜けて、幻術のココアをレーザーナイフで切り裂く。
「きゃっ、うぅぅ――!」
その悲鳴は幻術のココアではなく、本物のココアの方から漏れた。まるでニンジャにゃんこに切りつけられたようなダメージを受ける。
「同じ存在と認識したからこそダメージも同調するの。幻術を媒体にしているせいで出力こそ本物の3割にも満たないけど、同調されたダメージは半分くらい返ってくるの。さて、どうしてこんな説明をしたと思う?」
すると、新しい魔方陣が浮かび上がった。こちらもフェリンデールの描いた先ほどの魔法陣と同じものだ。
「私が『同じものだ』と断言したから、あなたもそういう魔法なんだと認識したでしょ? だからほら、もう一人、増えちゃったのよ」
ぼんやりと魔法陣が浮かび上がってきた。魔法陣の中にうっすらと人影が浮かび上がる。魔法陣が一瞬だけ輝くと、その中心に新しい偽者のココアがいた。新しい偽者のココアも杖を向けて、召喚魔法を唱える。具現化させたのは同じくトノサマにゃんこ。ミサイルの雨が、二体の偽者のココアによるミサイルの豪雨と化す。
「逃げないと……!」
「あら、これは大変ね。『同じ』攻撃だ、自分はこんな魔法を使っていたんだと、認識したわね?」
フェリンデールがそう言うと、新しい幻術のココアが召喚された。こちらの幻術のココアはニンジャにゃんこを召喚してきた。
先ほどココアが召喚したニンジャにゃんこと、偽者の生み出したニンジャにゃんこが疾風のように駆け出す。刹那に、レーザーナイフ同士がぶつかり合う甲高い音がたて続けに響く。高速の切り合いをしているのだ。
「ふふっ。新しい魔法の威力、どうかしら?」
これはフェリンデールが新たに開発した個人戦用の魔法であった。
幻術は意識の外から攻撃するものであり、一対一で対峙しているときは意識の外に出ることができないので弱い。しかし、この魔法は意識の外に出ることが出来ないからこその、正面から戦える奇策なのだ。
幻術は魔法のなかでもかなり特殊な魔術である。基本的な魔術は自身の魔力を媒体にして、自身の意識で形を作る物に対し、幻術は相手の意識で形を作るものなのだ。
幻術は感覚に作用させる効果が主であり、精神でリンクされている感覚を別のものと置き換えていく。よって現実に無いものを視覚で見せたりすることができ、無いはずのダメージを負わせることが出来る。言うならば、相手の意識を操り感覚を覆す類の魔法であり、乱暴な言い方になるが全てが他力本願の魔術なのだ。
フェリンデールの新技は、フェリンデールの魔力を媒体にして幻となる原型質を創り、ココアの意識によって同じであると認知することにより偽者のココアがかたち創られて起動する。ココアの同調の感覚が鍵となり、コピーを連続で生み出していく魔法なのだ。
この魔法を止めるにはフェリンデールを認識の外に出さなければならないが、一対一で対峙しているのだから不可能である。仮に認識の外に出る手段があったとしても、本来の幻術は認識の外からの攻撃に特化しているため無謀であろう。
一度でも対面すれば認識の外に出られないがゆえに必ず成功できる脅威の魔法。フェリンデールと敵対しているだけで必ず完成させてしまう概念魔法であった。
「でも、レイドを相手にはこの魔法は使えないかもね。わざわざ効果の説明、もとい解説しないと発揮しにくい魔法だから、先を読んで動くタイプの人形師の餌食になってしまうもの」
つぶやいたひとりごとをココアは聞き逃さなかった。
フェリンデールの攻撃は脅威ではあるが、あくまで効果は単純なのだ。この先ずっとココア自身の分身が増えるだけであり、言ってしまえばそれだけである。単純で読みやすいのだ。なるほど、それならばレイドが戦ったならば容易に覆してしまいそうである。
「先を読んで行動……。人形を動かすように……!」
ココアはレイドの名前を聞いて冷静さを取り戻した。
ココアは考える。ココアは魔法に対しての知識はなく、おそらく解呪することは不可能である。ならば、このまま戦い続けたら分身は増え続けるだけだ。時間が経つほどに勝機がなくなっていく。ならば、分身が少ない今がチャンスなのではないだろうか。
そこからの行動は早かった。
「全力全開で、全部を吹き飛ばしますっ!」
ココアが杖を掲げる。ココアのまわりに魔法陣がいくつも浮かび上がった。
「連続召喚! ――トノサマにゃんこ!」
贅沢そうにヒゲをたくわえたトノサマにゃんこが召喚される。それも三体だ。
機械特有の甲高いモーター音が、どっしりと三体も着地する。メカニカルな音をたてて、獲物となるターゲットをにらみつける。
「行きます、一斉発射――!」
トノサマにゃんこが大量のミサイルを発射する。
轟音を引き連れた大量のミサイルがフェリンデールに襲いかかる。
「――!! わたしを守りなさい!」
三体いる幻術のココアがフェリンデールをかばうように集まってきた。
一人目の幻術のココアにミサイルが当たる。強烈な激痛がココアの総身に走る。
「イタっ、イ――ッッ!」
一人目の幻術のココアが撃破される。それと同時に、臓物が破裂したような鈍痛が一気にココアを蝕む。
「ぐっ、ぁぁ……っ。でも……っ、負けない、からっ!」
返ってくるダメージが半分とはいえ、全身が吹き飛ばされる感覚は屈強な男でも意識が飛ぶほどのレベルであろう。しかし、ココアは耐え切った。痛みは前もった覚悟さえあれば、意識はつなぐことが出来る。
「……っ、連続召喚・トノサマにゃんこ――っっ!!」
さらに三体の援軍を召喚する。次々とミサイルをココアは追加していく。
二人目の幻術のココアはトノサマにゃんこのミサイルで応戦するが、偽ココアのミサイルは撃ち負けていく。フェリンデールが述べたとおりに出力は本物のほうが上なのだ。圧倒的な量のミサイルが二体目の幻術のココアに命中する。
「か、はッ――!! 」
ダメージにより吐血をするココア。一体目の五割のダメージと今回の五割のダメージで総合計ダメージは十割、つまり100パーセントとなる。ココアの体の限界値へと達した。
「これがあなたの限界よ。残念だったわね」
冷たく言い放つフェリンデール。
しかし、ココアの瞳には未だに執念が煮えたぎっていた。
「……っ、でも、だからこそ――っっ!」
口の中が切れたのか、少しだけ発音が濁っていた。決意と共に再び杖を構えるココア。
「連続にゃんこ召喚・トノサマにゃんこ!」
四つの輝きをココアは解き放つ。さらに四体のトノサマにゃんこを召喚した。
フェリンデールは目を丸くする。
「あ、あなた、まだ戦うっていうの!? もう限界なのに!!」
フェリンデールの言葉にココアは微笑で答えた。
「最初に言いましたよね……。わたしは、まだ始まっていない。始めるためには、今の私を飛び越えなくてはいけない。だから、この場で、限界を超えてみせるっ!」
大喝の声で自己を奮い立たせるココア。
大量のミサイルが三体目の幻術のココアを襲撃する。ミサイル同士が猛獣のように互いを食い合う。そして、一発だけ偽ココアが撃ち漏らしたミサイルがミサイルの嵐を突き抜けた。
偽者のココアにミサイルが命中する。
「ぐっ、ああァァ――ッ!」
絶叫するココアの悲鳴。これで十割オーバー、100パーセントのダメージを越える。それでもココアは攻撃する意思を止めはしなかった。
「はぁ――っ、はぁっ――っ! わたしの物語を始めるために、絶対に負けたくありませんっ!」
自身の限界など とうに超えた。それでも譲れない夢があった。
こんな攻撃などに人形師のような技術も何も無い。理屈も無く、策略も無く、原理も無い。これは単なる原始的な力であり、いわゆる意地のぶつけ合いであった。ならば、夢へ、執念へ殉じようとしている方が勝つに決まっているはず。
ミサイルとミサイルが激しくぶつかり合い爆発を起こして相殺されていく。
「ぜったい、負けたくっ、ないんだから――っ!」
血の絡んだ裂帛の声と共に三体目のココアが生み出したミサイルの嵐を押しはじめた。
いくつものミサイルが三体目の偽者のココアに命中。まだ三体目のココアを倒すことが出来ない。ミサイルが命中するたびに神経を直接かきむしるような激痛がココアに走る。
「ぐぐぅぅ――っっ!! こんなの、効かないもの……。あの時の、みんなの痛みに比べたら……っ!」
ココアの背を押しているのは、今日までの戦いの日々でもあった。戦うことが出来なく、ずっとレイド達の背中を見続けていたからこそ、すべてを感じ取っていた。なによりもココアの本質である能力も顔色を見ることであり、戦えない歯がゆさが後押しするようかなり敏感に感じ取っていたのだった。
譲れないものがあるからこそ立ち上がり続ける勇気。自らの命を省みずに、心を燃やし続ける希望の力。ココアはたくさんの人間の背中から学んできた。レイドにアルフ、ユーリ、フラン、ロイ、最初のココアである義姉。そして、今は敵対しているフェリンデールまでもである。
何度、肩を並べたいと思っただろうか。何度、せめて戦えたならと悔いただろうか。
今の自分にはその力がある。やっと同じ場所に立てたのだ。ここで屈するわけにはいかない。背に負っているのはココア自身の心のみならず、全ての仲間たちの誇りであった。ならば、それが負けるはずないではないか。
「もっと、もっと! ぜったいに、勝つんだからっっ!」
ココアがトノサマにゃんこを召喚し追撃のミサイルを向かわせる。三体目のココアもトノサマにゃんこを召喚しミサイルの嵐をさらに苛烈にさせた。
「ぎゃぁぁ――っっ!」
ミサイルの嵐をつけぬけきったココアのミサイルが、偽者のココアに命中していく。これでココアに、ほぼ十五割分のダメージ、すなわち150パーセントとなる。
さすがにここまでのダメージは気力で持ちこたえるのは不可能であった。もうすでにココアの精神は疲労困憊で、にゃんこ召喚の一回もできず何の力も残っていない。攻撃手段も無く、体力もすずめの涙ほどしかない。いわゆる詰んだ状態となった。
しかし、相殺されきったはずのミサイルたちの中で、一発だけミサイルの嵐を抜けきったものがあった。偽者のココアを倒したのちに、偶然にも数が余った たった一発のミサイルだった。
側面は焦げ付き不恰好ではあるが、たしかにフェリンデールへと向かっている。
「当たれぇぇ――!」
かすれた声で叫ぶと、ミサイルは呼応するかのように風を押しつぶしながら豪快な音を立てて白煙の尾を伸ばしていった。
仲間達の誇りを背に乗せ、万感の思いが込められた一発のミサイル。ココアが夢見た最後の希望が加速していく。
「でも、私には届かせない!」
フェリンデールが綿を撒き散らす。二、三メートルほどの重厚な綿の盾を構築した。
ミサイルが綿に飲み込まれていく。綿はクッション性があり、衝撃を吸収する概念があるのだ。炎や風ではなく、ミサイルのような衝撃の概念をつぶすのは十八番であった。
しかし、ミサイルは強引にも突き進もうとする。抵抗する悲鳴のようなジェット音がめりめりと綿をこじ開けようとしていく。
ミサイルの衝撃の概念では綿の衝撃吸収に対しては不利である。しかし、これはココアの希望を背負っているミサイルであった。その希望の根幹は仲間達の諦めない心である。ミサイルは果敢にも抵抗し続けていくだろう。だが現実は甘くなく、衝撃と吸収の相対は概念の戦いのため覆すことは不可能である。
「うそ、綿に魔力を送っているのに、力が抜けていく……っ!?」
そう、それ以外の概念ならば戦える。ミサイルは灼熱の衝撃によるダメージを与えるものである。ジェットが熱源と化して、綿を焦がし続けていたのだ。
フェリンデールが綿に送る魔力をチリチリと少しずつ燃やしていく。たった小さな火の不始末が大きな家を火事で燃やすように少しずつ炎が成長していく。
フェリンデールが燃えている事実に気づいた頃には、もうすでに焦げた香りがしていて手遅れだった。
「そう……。わたしの負け、ね」
答えを見届けたと言うように、静かに微笑むフェリンデール。ミサイルが綿を焦がして貫通した。
全てを受け入れるかのように、フェリンデールの姿はミサイルの爆風の中に溶けていった。
☆☆☆
ココアはフランチェシカとフェリンデールの戦いに勝利することができた。
「あーあ、やられちゃった。せっかくヒーロークラウン取ったのになぁ」
「二対一だったし、しょうがないじゃないの。それにしても、本当に強くなったわねえ」
強くなったと言われてココアは悪い気はしなかった。それはそうとココアは当初の目的を思い出す。二人に仲良くなる方法を教えてもらおうとする。
「ムリムリですよっ、わたし達 相手がいない残念組なのに、そんなこと聞くのって嫌がらせですか!?」
「考えたこと無かったわね。フランは魔法の勉強に夢中だし、わたしは最近まで忙しくてそれどころじゃなかったから……」
それよりも、とフランチェシカがイジワルそうな顔になって言い出す。
「参考までに、お二人はどこまでいっているのか知りたいですねぇ」
「えぇ――っ、ああ、うぅ……、その……」
「フラン。冗談めかしても、あまり聞いちゃいけないことでしょ。恥ずかしがってるじゃないの」
「でもでも、もしも答えてくれたら、助けになるかもしれませんよっ!」
「まあ、そう言われると、何も言い返せないけれども……」
フェリンデールが興味ありそうに頬をかすかに染めてじぃーっとココアに視線を送る。
別に興味が無いわけではない。フランチェシカもフェリンデールも、ただ忙しくて縁が今まで無かっただけなのだ。むしろ、だからこそ抑圧されていた興味がよりあったりする。
「わたしは、キスとかしたって聞きましたよ」
「そ、そうっ。あの、ス、スキンシップの多いと、なっ、仲良くなれるらしいわね。たとえばっ、キっ、キスの回数を増やすとか?」
ココアを気にして会話の軌道修正するフェリンデールだが、聞きたいという本音は微妙に隠しきれていなかった。というよりも、詰問されているココアよりもフェリンデールの方が顔を赤く染めている。
「でさでさ、キスは何回してるの?」
にゃあ、と言って顔を赤くして黙るココア。
興味津々の二人の追求の視線が刺さる。ココアはしぶしぶと答えた。
「……毎日 1回」
「わー! や、やってるんだあ! でも、仲良くなるには数が少ないのかな!?」
「し、質にもよるんじゃないのかしら。その、軽くとかだと、カウントしてないというか」
「…… 1時間じゃ、だめ?」
単位が明らかにおかしかった。フェリンデールとフランチェシカが声をそろえて驚き、目を丸くする。
「なになにっ!? いつしてるの? どうなの!?」
「おぉ、おっ、落ち着きなさい、フラン。そんなに迫っても、仕方ないじゃないの。もっとやさしく、ねっ。すごく、すごーっく大切なことだから、慎重に訊きなさい。ええ、もちろん、わたし達の参考のために、ねっ」
「うーん、まいにち朝早く起きたとき。こっそりしてるけど、それじゃあダメ?」
空気がカァーっと熱くなる。フランチェシカはうつむいて顔を隠した。フェリンデールに至っては頭を抱えて悶絶していた。差こそあるものの、ふたりとも極端に免疫が弱かった。だって、残念組だから。
ふたりの身悶えからなる無言を、追求の無言と受け取ったココアが止めをさしにかかる。
「だって、レイドが恥ずかしがるんだもん……。心が見えてわかってしまうから、逆になかなかできないの。だから、寝てるとき、こっそりと補充してます……」
思っていたよりも熱烈な発言に、追求していたはずの二人の方が逆に恥ずかしくなってきた。
フェリンデールが咳払いをして、空気を戻そうとする。
「とっ、とにかく! まあ、いつもいじらしくしてるなら、たまには情熱的に接してみるといいかもね。男性側からしたら、求められるというのも嬉しいものだって聞くし」
「そうですね。好きって気持ちを行動にすると喜ばれるかも。ココアちゃんが朝にやってるソレをやるように!」
「すっ、するのですか!?」
「珍しくフランに同意ね。ソレとやらがあなたにとっての情熱的なものなら、恥ずかしいのを抑えてでも積極的に参考にしてみてもいいかもね?」
「うんうん! 我を忘れちゃうくらいに情熱的にね」
想像するココア。今度はココアが激しく身もだえしている。
「に にゃにゃにゃにゃっっ(あわわわわっっ)――! できにゃい! むりむり! にゃにゃにゃしい(恥ずかしい)――ッッ!」
他の人が慌てていると逆に冷静になれるものである。
フランチェシカは打って変わって、面白いのを見つけたと今度は目を輝かせた。一方でフェリンデールはターゲットにされてあわれと同情する。
ニタリとしたフランチェシカが、ココアの耳元でそっとささやく。
「たとえば、そう。朝 起きたときに、おはようと一緒に毎日やっているいつものソレを……」
「にゃにゃにゃにゃ――ッ!」
「そして、帰ってきたとき。あと、寝る前とか……」
「にゃ――――っっ!」
フェリンデールが苦笑して、そろそろ助けるかと割り込む。
「フラン、その言い方はどうかと思うけど。とにかく、参考にするのは良いかもね。まあ、ソレは強烈だから、今までのアピールでもの足りないなら、ね」
フェリンデールのマジメな意見を出して方向性を戻そうとする。
しかし、惜しむべきは、ココアは恥ずかしさで心の内と葛藤中で、フェリンデールの最後の言葉を半分しか聞けなかった事だろうか。
意を決したように、頷くココア。
「はっ、恥ずかしいけど、やってみますっ!」
言い切ったとたんに、さらに恥ずかしくなってきて、そのあまりに そそくさと逃げるように駆けだして行ってしまった。フランチェシカもフェリンデールもココアの言葉に微かに違和感があったが、逃げられたために訂正することはできなかった。
勘違いかもしれない、まあいいか、と二人は心の内で納得し、最初にいたお菓子屋さんに戻ることにする。ココアが置いていった極上の話題に花を咲かせた。
☆みにあとがき
ココアのメモ③:恥ずかしいのを抑えて、我を忘れるくらい情熱的にソレをする。




