ステージ4 : きっと、ラスボス係のひと? ①
あれからちょっぴり ひとやすみして体力を回復させたココア。
よしっ、と気を込めなおして歩き出そうとすると、目の前にポムンとファンシーな音の煙がおこる。にゃんこ丸が出てきた。
『次で最後だにゃ。次の勝利で、参加した人数の過半数を超えるのだ!』
「そうですか」
『どうしたのだ? 気合が足りないのだ。主人公になりたくないのかにゃ?』
もちろんココアは主人公になりたいと思っている。しかし、裏を返せばあと一人しか仲良くなる方法を訊く事ができないということだ。一番最初の目的は仲良くなることを訊いて回ることであり、それが終わるとなると心残りでもあった。
『そんなに真剣になれないなら、無理やり真剣にさせてやるんだにゃ』
にゃんこ丸の顔に影が走る。ぞっとするような低い声で言い放った。
『実は……魔法を使う代償として、ねこ語になってしまうのだ……ッッ!』
「はあ、そうですか……」
気の抜けた返事に、にゃんこ丸は空中でコケるという器用なマネをする。
『どうしたんだにゃ! 力を使うたびに身体が蝕まれるという熱い展開なのだ!!』
「わー。たいへんですねー」
「にゃんで棒読みで言うにゃ?」
「……ほんとに、大変なの?」
「言葉がないと不便なのだ。ほら、想像してみるんだにゃ」
「…………不便、なのかな?」
ココアはあまり主張を言わずに遠慮しがちなので、レイドが察して行動してくれている。それに甘えているのが通常の状態だった。言う前にレイドが動いてくれるのだから、あまり言葉というものに不便さを想像できなかった。
そもそも、レイドの心の色を覗けばちゃんと通じているのかもなんとなく分かるし、無かったら それならそれで、という感じだった。
「どうだったにゃ?」
「言葉が無いなら……もっと言葉で表さずに、自然と心が通じ合うようになれるかもしれない……。――むしろ いい!!」
そんな意味での それならそれで、であるが。
「にゃんで試練をそんなポジティブ思考になれるんだにゃ!! 熱い展開から、実にしょーもない展開になってしまったじゃにゃいかッッ!」
「あっ……。でも、『今日 何が食べたい?』って訊かれた時に、答えられないのは不便。だから頑張ります」
「ぐぬぬぬ……。まあ、いいにゃ、最後の敵はこっちだにゃ。ついてくるのだ」
モチベーションが微妙に上がったような、そうでないような、そんな状態でココアは次の戦いへ挑みに行った。
◇◇◇
にゃんこ丸の誘導に着いていくと、学園長の隠し実験室にたどり着いた。いつか見た純白の花畑は、最終決戦の時に戦った場所であった。
そこには見知った顔がいた。この物語の一番最初のココア・ルルリスである義姉であった。
「ようこそ最終決戦の地へ、って、ところかな」
「……どうして、ここに?」
ココアは義姉がどうして対峙しているのか、その意図がわからなかった。
「それは簡単なこと。あなたと戦わなくちゃいけないから」
ついっと指をさす。指先にキラリと魔法の糸がしたたっている。花畑の中から人形やぬいぐるみが一体、二体、三体、と続々と現れる。
ココアは杖を構えて身構えた。
「別にそんなに身構えなくてもいいから。この子達は、今日は使わない。決闘の証人といったところかな。これからあなたには四体のぬいぐるみ人形と戦ってもらいたいの」
「いいの? たった四体で」
含みのあるニタリとした笑みで義姉が答える。
「作ったばかりの精鋭だよ。甘く見ていると、痛い目にあっちゃうかも」
「わかった。でも、どうして? 勝つだけなら、たくさん連れて来たらいいのに」
「うーん、試練ってところかな?」
義姉が答え続ける。
「わたしは主人公特典に興味は無いの。でも、主役を望まない代わりに、ちゃんとした人になって欲しいなと思ってね。だから、今日はあなたの試練としてここに立っているの」
「試練……?」
「戦いを選ばなかったなら、手に入らないものがある。失うものだってある。あなたは選べなかったから、ずっと失い続けていた。そして、ようやく力を身につけることができた。実際に過ごしてみて分かったでしょ。戦わなければ手に入らないものがあるって。もちろん力を使わないもの、たとえば愛と勇気を歌うことは否定しないけど、今回の戦いの中で得られたものだってきっとあったはず。だから、わたしは戦うことを決して否定しない」
「…………」
「具体的に言えば、今日の戦いが無かったら、あなたは自分の意思を見つけることができなかったはず。戦うことを選ばなければ、あなたの輝きは眠ったままだったでしょうね」
たしかにその通りだろう。アルフレイドと、ロイと、フランと、なによりもフェリンデールの戦いがあったからこそ、ココアは自分の意思と向き合うことができた。
「そう、戦いから得られることを否定はしないからこそ、だからわたしは、あなたの試練になりたいと思った。期待しているからこそ、あなたの敵となることを選んだ……」
義姉が、ふっと腕を振るう。背後にいる人形達の視線に魂がこもった。
「さあ、これが最後の試練。あなたの気持ちを、そして戦いを選んだ勇気を、わたしに見せてみなさい!」
◇◇◇
義姉が、ついっと指揮者のように指を上げる。花畑の中から、ぴょこんと一体のぬいぐるみが飛び出してきた。
「さあ、始めよっか。 ―― 第一の試練・アルフレイドのぬいぐるみ人形」
ぬいぐるみの身長は30センチ程度、ぬいぐるみ自身の二倍以上の長い槍を持ったアルフレイドに似たぬいぐるみがくるりと槍をまわして携える。
そして、槍を肩口まで上げて翼のように構え、ぬいぐるみの全身を覆えるほどの大きな魔法陣を描いた。豪音と共に、高速の突進突きが放たれる。
「――っ、あぶないっ!」
しかし、ココアは回避することに成功した。もしも、にゃんこ召喚で正面から戦おうとしたならば、一瞬のうちにアルフレイドのぬいぐるみがココアを魔法陣ごと貫いて勝負が決まっていただろう。それほど刹那であり、強烈な一撃だった。
アルフレイドのぬいぐるみが、再び槍を構えた。魔法陣を発動させ突撃してくる。
「じゃあ、攻撃させなければいい! にゃんこ召喚・オヤカタにゃんこ!」
腰に荒縄で酒が結ばれた赤毛のにゃんこが現れる。酒を口に含み火を吹いて、アルフレイドのぬいぐるみに対して牽制する。
風に対しては炎が有利の相対であるが、ココアは魔法の属性の知識は薄かった。しかし、レイドがアルフレイドの攻撃を炎魔法で切り抜けていることを何度も見ており、感覚的に有利であるということを理解していたため、選択をすることができた。
オヤカタにゃんこの牽制により攻撃回数は減っていく。回避のペースに余裕ができた。しかし、気を抜くと一撃で倒されるだろう風の魔槍の威圧感は健在である。
懸命に避け続けるココアに義姉は満足そうに頷く。
「チャンスをつかむための瞬間的な判断力。うん、まずは合格」
義姉が、再び指揮者のように指を上げた。次のぬいぐるみが花畑から飛び出してくる。
「次は、 ―― 第二の試練・ロイのぬいぐるみ人形」
それは、左右の手に指輪を嵌めたぬいぐるみだった。バチバチと燃える炎の魔力と、轟と唸る風の魔力を漲らせている。ロイのぬいぐるみが乱れ殴るように腕を振るうと、火炎弾と風弾が豪雨の如く降り注いだ。
ココアは冷静に魔法弾の隙間を 目を細めて探す。
「残念。弾幕だけに集中しちゃだめだよ」
背後からゾクリと寒気がする。すかさずに転がるように避けると、アルフレイドのぬいぐるみが突進突きをしかけてきていた。間一髪で避けることに成功する。
常に本体へ即死攻撃をしかけてくるアルフレイドのぬいぐるみと、強力な魔弾で退路を塞ぎにくるロイのぬいぐるみ。この二つのとの組み合わせにより戦況は最悪の方向へ悪化していった。
「ちゃんと全体を見通す力がないと、この試練は超えられない。あなたはどうするのかな?」
「避けれないなら、打ち払います――! にゃんこ召喚・ニンジャにゃんこ!」
黒いマフラーのにゃんこを召喚する。ニンジャにゃんこがロイのぬいぐるみへ攻撃をしかける。ロイのぬいぐるみは避けながら攻撃をせざるえなく、弾幕が甘くなった。
「続けて、にゃんこ召喚・オダイカンにゃんこ!」
オダイカンにゃんこが袖から小判を取り出した。その時、アルフレイドのぬいぐるみの強烈な刺突が迫り来る。
小判が金色の脈動をしアルフレイドの風の槍を解呪せんとする。ギリリと甲高い音と共に、アルフレイドの槍の勢いが押し殺されていく。しかし、あくまで勢いを殺したに過ぎず、猛風の槍がじりじりとココアに迫ってくる。
「にゃんこ召喚・ブギョウにゃんこ!」
風を押しつぶす音が落下してくる。茶色い毛2メートルはあろう巨体のにゃんこが、アルフレイドのぬいぐるみを押し潰さんと落下してきた。
即座にアルフレイドのぬいぐるみが魔法を解呪して、風に乗ったバックステップで大きく距離をとる。避けた場所にドスンとブギョウにゃんこが落ちて、地面が派手に砕け舞った。
粉塵に視界がまぎれて、ニンジャにゃんこの ロイのぬいぐるみへの攻撃が甘くなってしまった。ぬいぐるみであっても、本物のロイと同様にそのチャンスを逃すことはない。ロイのぬいぐるみのまわりに熱風が逆巻いた。刹那に灼熱の輝きが発せられると、合体した風と炎の魔力が炎の大竜巻と化していた。
猛火の渦が唸り声を喚きながら、ココアを飲み込まんと迫ってくる。
「にゃんこ召喚・トノサマにゃんこ!」
金ぴかの羽織を着て、贅沢そうにヒゲをたくわえたにゃんこが現れた。トノサマにゃんこが全身からミサイルを発射する。
大量のミサイルと炎の渦が正面衝突する。熱風のエネルギー同士が激しくぶつかりあう。
「わたしだって……強く、なったんだから……っ! もっと、連続召喚・トノサマにゃんこ!」」
新たに四体の機械音が着地した。
「おねがいっ、一斉射撃!」
熱風と共に大量のミサイルが吐き出され、炎の渦に殺到する。
次第にミサイルの爆風が炎の渦の勢いを消し飛ばしていき、なんとか力押しで相殺していった。
「なるほどね、そうきたんだ……」
ココアの長所はどこにでも、いつでも瞬時に召喚できる強みがある。たとえば、人形師の場合は人形という実物を使っている以上は、どうしても目的の場所まで人形を移動させる手間がある。ましてや、移動させたい目的の場所が人形の現在地が近いとは限らないのだ。しかし、ココアの場合は魔法を唱えるだけで任意のタイミング、場所に召喚することができる。操作できる数など人形に比べて少ないが、対応力に関しては人形師のそれを上回っている。
「全体を見通して対応する力。本当は避けるように戦って欲しかったけど。まあ切り抜けられたし、これも合格かな」
ココアはすべてのにゃんこ召喚を行った。これでココアの手の内は全てさらしたようなものだ。四体のぬいぐるみを倒せといわれたが、二体目ですらこの状況だ。かなり精一杯まで追い込まれている。
「続けて行くよっ! ―― 第三の試練・フェリンデールのぬいぐるみ人形」
気品のある冷たさを感じさせながら、どこか可憐さを感じさせる女性のぬいぐるみが現れる。途端にココアは目眩がしてきた。
「これは……っ!? 幻覚の魔法!?」
「そう、あなたの知っている中で、代表的なテクニカルな攻撃ね。奇策に対して、その場で工夫を打ち出すことができるか。これが、フェリンデールのぬいぐるみ人形の試練なの」
フェリンデールのぬいぐるみが大きな鋏を掲げてこちらへ駆けてきた。
「っ!! やぁっっ!」
杖を振り下ろして応戦しようとするが、その瞬間、再びめまいが襲い掛かる。それと同時に、フェリンデールのぬいぐるみが右と左の両方に別れた。まるで、分裂したかのように二体に増えて回避したのだ。
慌てて両サイドを見るがぬいぐるみの行方を見失ってしまっていた。どこにいるのだと気を尖らせると、チョキ、チョキ、と背後から音がした。しかし、振り向いてみると誰もいない。
今度は真下から音がした。
「えぇっ!?」
まさかと下を向いた瞬間に、真横から鈍い刃の輝きが一閃された。
「イタ――ッ! うぅっ、やぁ――っっ!」
腕をやられながらも、咄嗟に杖を突き出してフェリンデ-ルのぬいぐるみを突き飛ばした。
じくじくと痛む痛覚が先ほどの攻撃が現実であることを主張する。
音の向きとは見当違いの方向から攻撃された。フェリンデールのぬいるぐみが聴覚を混乱させているようだと、このとき初めて気がつけた。五感のうちの一つを潰された。これでは、死角からの奇襲攻撃に対応できなくなってしまう。
「相手はその子だけじゃないよ。ほら、もっとよく周りを見て」
ブギョウにゃんこがココアを突き飛ばした。すると、刹那に旋風が翔け抜けてきた。先ほどまでココアがいた地面がまっすぐに抉れて、まるで大地へ巨大なナイフが切れ目を入れたように鋭利に切断されている。旋風の正体はアルフレイドのぬいぐるみだった。
間一髪でなんとか攻撃を間逃れたココア。しかし、安堵するにはまだ早い。肌に熱気を感じて即座に伏せると、頭上に火炎弾が通り過ぎて行った。忘れてはいけない。油断をしていたらロイのぬいぐるみの弾幕に当たってしまう。
「フェリンデールのぬいぐるみ人形に、咄嗟に反撃できたのは見事だね。しかも、連続攻撃を避けきってみせた。完璧な対応で、順調に合格といったところかな」
義姉が言い続ける。
「これが最後の試練。私にとって、そしてあなたにとっても、とっておきのぬいぐるみ人形だから……」
今までよりも静かな語調で、怖さのあるほど変質した声で、新たなぬいぐるみを呼び出そうとする。
「これは私たちが超えないといけないもの。意識していないとはいえ、私たちは彼を呼び出してしまった……。命を生み出した懺悔を、私たちはこの葛藤を背負わなければいけない」
どこか淡い嘆願の混じった声でぬいぐるみ人形を呼び出す。
「あなたには葛藤を越える覚悟はある? 最後の試練 ―― レイドのぬいぐるみ人形」




