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風読みの決闘者

 アルフが熾烈な攻めを仕掛けてくる。僕は人形達と一緒にアルフの攻撃を回避していく。


 アルフが槍を振り薙いできた。間一髪で飛び引きながら、人形へ指示を出す。


「ポプラ、槍を絡め取れ!」

『よっと、ソレッ!』


 ポプラが多節棍へ魔力を送り変形させる。

 九節へ変形させて、鞭のようにしならせる。高速移動する蛇のような動きで、アルフの槍を絡め取ろうと襲いかかる。


「ナズナ、側面攻撃! スミレ、ジャンプからの空中打撃!」

『参ります!』 『多勢に無勢よのっ!』


 ナズナがアルフの側面へ周りこみ、スミレが僕の肩を踏み台にして跳びながらアンカーを振りかぶった。

 身内戦だから、アルフの手の内は分かっている。アルフの攻めはたしかに圧倒的ではあるが、長いリーチの武器と、瞬時に唱える風の魔法で、攻め手を押し通す事が前提の戦法なのだ。


 ならば、攻撃させないように抑えてしまえばいい。こっちには人形の数だけ攻撃する起点がある。わざわざ同じ土俵で戦わずに、こちらが一方的に攻めてやればいい。


 三体の人形達がアルフへ襲いかかる。

 アルフは冷静に人形達の攻撃をかがんで避けながら、槍に添えていた片方の手を地に付けた。すると、風の波が起こった。


 波が頬を撫でると同時に、無数の小さな風の音が周囲を無差別に襲いかかってきた。

 攻撃魔法にしては弱い。いったい何が狙いなのだろうか。


「――っ!」


 紙で指先を切られる痛さを無数に投げつけるような攻撃だった。指先、首元が少し、目の下の皮膚が軽く切れる。

 しかし、被害がそれだけならまだ良かった。人形達の動きが一斉に固まったのだ。


 突然の緊急事態。即座に状況を把握する。

 魔術は本質に似た性質をもつ。それは糸の魔術も例外ではない。アルフのカマイタチの風が糸を切ってしまい、人形とのつながりを切断したのだ。


「みんな起きろ!」


 人形自身に溜めておいた魔力で再稼働させる指示を声でだす。


 ナズナ、ポプラがすぐに動き出した。

 しかし、スミレは僕の声を聞いても即座に起きることができなかった。まだ作って間もない人形であり、起動に慣れていない。運が悪い事に、スミレは空中で無防備な状態で固まっていた。


 アルフが槍を引き構えた。隙だらけのスミレを串刺しにしようとしている。


 僕の戦い方は攻撃起点の多さを利用して攻めていく戦法がメインだ。つまり、攻撃起点を破壊されてしまうのはかなりの痛手である。

 スミレを助けるために、僕は腰のホルダーの本をひと叩きする。収納本から飛び出したハサミをアルフに向けて投擲とうてきする。


「させるかっ! やぁッッ!」

「チッ!」


 アルフは僕の投げたハサミに意識を逸らした。

 アルフがハサミを避けた時、ちょうどスミレが起動した。小さい身体が地面に着地して、アルフに向かって跳ねるようにアンカーを振りあげる。


『塞翁が馬よの。えいやっ!』


 アルフと距離が近いナズナも、スミレの行動に合わせるように動いた。


『参ります!』


 好機とばかりに剣の切っ先を深く落としながらアルフへ踏み込み、下段から切り上げようとする。


『イイねェ! 合ワセ ちゃえ!』


 二体を見るや否や、ポプラも攻撃に加わった。ポプラの乱れうねった鉄の鞭がアルフに襲いかかる。


 三方向からの連続攻撃。

 糸で指示をしていないためコンビネーションも元もない即席とはいえ、攻撃のさばき方を誤ればアルフに決定打を与えることは間違いないだろう。


 しかしアルフは全てが見えていると言わんばかりに、スミレを的確に蹴り飛ばしつつ、ナズナの攻撃を槍で打ち払った。ワンテンポ遅れたポプラの鞭は、冷静に手を突き出して、風の魔術による風圧でポプラごと吹き飛ばした。


『無念千万 なの』

『――っ! しくじりました!』


『あー、コレはマズったカモ』


 咄嗟とっさの連携などたかが知れている。人形は人間よりも力が弱いため、連携ができなければ しょせんは烏合の衆であった。


 失敗した代価は大きい。

 ナズナ、ポプラ、スミレの誰も、僕の防御に周ることができない状態になっている。いわば、将棋の王将が 裸で放置されているような危機的状況におちいった。


「――っ! 三人とも戻れ!」


 三体が駆けつけようとするが、アルフの方が素早い。

 風の魔術で突風を味方に、アルフが一瞬で飛翔してきた。

 アルフの刺突が迫ってくる。僕は炎の魔術を即座に唱えた。小さな火球をひとつ造り出し、火球へ自己の魔力を叩きつけて破裂発火させた。


 爆発でフラッシュがまばたき、熱気も生まれる。アルフの刺突が甘くなることを狙ったのだ。身を捩じって槍を回避しようと試みる。

 しかし、アルフの槍は僕の腹を的確に狙ってきた。アルフの槍がジャケットを刺し、左の脇腹をかすめた時――、


「くっっ!」


「はぁ――ッ!」


 アルフが槍を強く握り、風の魔術が発動させる。旋風が左わき腹をねじり切りながらジャケットを貫通した。


「ぐぅ――っ、あァッッ!」

「――っ! 外したか!?」


『好きにハ させないヨ!』


 スミレが棒状になった多節棍を投擲とうてきした。アルフの肩口に命中し、打突を見舞うことができた。

 攻撃されたことによってアルフの集中力が乱れ、脇腹を切り刻んでいた風が止んだ。ナズナとスミレがアルフへ追撃を加えようと駆けていく。


 さすがに分が悪いとアルフは大きく距離をとった。

 槍を引くように構える。僕への攻撃がどれくらい効いているのか様子見をしているようだ。槍先から、血の雫がしたたっていた。


『棒を回収っと。危なかったネ』

「……ああ。おまえが勝手に一斉攻撃に参加しなければ 負わない傷だったけどな。余計だった」

『反省は しときマス』


 わき腹からじくじくと染み出る血液がジャケットを真っ赤に濡らす。

 腹に刺さってあの攻撃を受けたなら、無事では済まなかっただろう。まだ幸運な方かもしれない。

 焼けるような痛さを叫ぶ精神に鞭を打ってアルフと対立する。傷は重症のたぐいであるが、大丈夫だ、まだ戦えるはず。

 ナズナ、スミレが駆けつけてくる。


『申し訳ありませんでした』

『とても猛省 なの』

「なってしまったものは仕方が無い。それに、収穫もあった……」


 三体の人形に手をかざして糸を繋げながら、僕はアルフを睨みつけた。


「人形の糸を切る風の魔法……。俺の対策技を作ってたんだな」

「ああ。敵対する可能性もあったからな。いつのオレかなんて知らないが、ちゃんと対策を考えているヤツがいた。まさか使うことになるとは思っていなかったが」


 僕の認識が間違っていた。いま戦っているのは、僕の知っているアルフではない。アルフだけではなく、歴代のアルフレッドとも戦っていたのだ。


 対抗策が驚異的であることは勿論ではあるが、実際に手を合わせてみてアルフの実力も侮れないと痛感した。

 何代も気の遠くなるような時間を積み重ねていった戦闘技術。アルフレッドという肉体を極め、最適な鍛錬の果てに手に入れた身体。何世代もの執念がアルフの能力を押し上げている。


「だからアルフは、実技でもトップだったんだな。単に未来を知っているだけだったら、実技はそんなに変わらないだろうし」


 そして、何よりも――


「あいつめ。未来予知モドキなんて いつ身につけたんだよ……」


 僕の周りにも、人形の周りにも、常にそよ風が吹いている。模擬戦で何度もアルフと戦ってきたが、その時とは風の音が違っていた。何度も手合わせしたが故に気がつけた。

 おそらく、人形の連続攻撃を避けたのは、風の動きを察知して疑似的な未来予知をしたからに違いない。でなければ、的確に人形を避けた事や、僕の脇腹を掠った槍の軌道が的確すぎることに説明がつかない。


 僕は生唾を飲み込んだ。疑似的な未来予知の効力はどこまでだろうか。

 体の動きを常に察知されているだけでも厄介ではあるが、人形達への指示の出し方まで見切られていたならかなり苦しい状況だ。


 人形達は、左右の手を使って二体ずつで使役をしている。手首の前後で指令を出す人形を切り替え、左右に揺らせば魔術を唱えるために指を自由にするモードチェンジができる。親指は出力調節、人差し指と中指の曲げ方の組み合わせで攻撃方法、小指と薬指の組み合わせで守備方法を命令する。


 アルフレッドはどこまで命令を熟知しているだろうか。少なくとも、攻撃か防御かは予知されてしまっているだろう。タイマン勝負ではかなりの痛手を負っている状況なのが分かった。


 これはまずい。楽々勝てるとは思ってはいなかったが、想像以上じゃないか。実はかなり追い込まれているのかもしれない。

 どのように戦えば良いのか冷静に考えたいが、アルフは時間を許してくれなかった。


「ほら、行くぜっ!」


 アルフが刺突を乱れ撃つ。

 紙一重で反らしていくが、まるで僕の中に磁石でも入っているかのように槍が際どい軌道へ放ってくる。


 耳元を流れる風の音。やはり、アルフは僕の動きを読んでいるようだ。

 身内戦のため、アルフは僕の戦法を知りつくしているだろうし、カマイタチの風のような対策技も用意してきている。

 無理矢理に僕が押し切ったとしても糸の切断以外の倍返しのカウンターを仕掛けてくる可能性もふまえると、攻めに転じるにもなかなか苦しいものがある。


 この未来予知に勝つには、アルフの意表をつく戦い方をしなければならない。しかし、言葉で言うには簡単だが、そう容易に考えつくものでもない。

 アルフレッドとしての長い歴史から積み上げていった完成された絶技。それを越えうる奇策を生み出さなければならないのだ。でなければ、ちょっとやそこらの応用技でアルフを翻弄ほんろうしても、アルフは持ち前の技術で容易に対抗してしまうだろう。


 極論を言えば、人形で攻撃するという性質を否定した奇策でなければアルフを打倒しえない。


「そらそらっ! どうだッッ!」


 アルフへ飛びかかっていたナズナが弾かれた。

 アルフは槍を目の前で旋転させてナズナの攻撃を防御したのだ。さらに、旋転によって生み出された風が、ナズナの糸を切り裂きにかかった。


「くッ! 糸が……っ!」

「くらいやがれ! はァ――ッッ!」


 鋭い突きを僕はバックステップで避ける。

 すると、アルフは勢いを殺さずに槍の切っ先を切り上げるように突っ込んできて、隙の少ない二段攻撃をしかけてきた。


「いっ、つう――っ!」


 バックステップを風で読まれていたようだ。

 二撃目をのけ反るように身体を捻って回避を試みたが、槍を避けることができても烈風の刃に襲撃されてしまった。

 右袖に一線の風の刃が走り、手首からひじまでぱっくりと傷ができた。激痛に右腕がひきつりかける。


『援護します! はぁッッ!』


 復帰したナズナが僕とアルフの間を飛び込んできた。

 ナズナは刀身に魔力を乗せた斬撃を構えるが、アルフはナズナの行動を読んでいたかのように、既に距離をとっていた。


 ナズナの攻撃は不発になった。

 ポプラとスミレが鉄鞭と鎖をふりまわし、アルフが再び近づかないように追い払う。その隙に、ナズナが糸を結ぶために、僕の方へ駆けてくる。


 何度も繋がる糸に、アルフはうっとうしそうに顔をしかめた。

 糸が切れたとしても他の人形が絶妙にフォローするため、アルフが思っている成果が出せていないのだ。


 アルフが風に乗って駆け走る。遠近のどちらの攻撃もできて邪魔になっているスミレの間合いに踏み込み、槍を薙いだ。


「はァ――ッ!」

「ッッ! 危ないっ!」


 糸を無理矢理に引っ張って、スミレを救出する。ぴょんと糸に引っ張られたスミレをキャッチした。


『助かったの』

「やられるのは勘弁してくれよ。ただでさえ押され気味なんだから」


 ナズナとポプラへ、アルフが僕へ近寄らないように攻撃指示を出す。スミレは僕の前に立たせて、アルフが二体を突破してきた場合に備えた防衛の指示を出す。


 人形師は次の一手を積み重ねていく戦い方をするため、客観的に戦場を分析する必要がある。戦場を見渡せるこの距離、スミレに守られている今なら、冷静に考えられた。



 アルフは僕に対して対抗策を使ったのは初めてだ。つまり、逆に言うなら手慣れていない今こそがチャンスなのだ。

 何でもいい。とにかくアルフに隙が生まれればいい。

 人形の連鎖攻撃は一度かかってしまえば、抜けることが困難である。つまり、作戦目標はとにかく隙を作ることなのだ。


 どのように隙を作る攻撃を仕掛ければ良いだろうか。

 最も有効的な奇襲となると、人形以外の攻撃を仕掛けることがベストである。あくまでアルフの対抗策は、僕の攻撃方法から考え出されたものである。実際にできるかはともかく、意表をつくならばこのアイディアが一番だ。


「あっ――。あるじゃないか……」


 ふと、閃きがよぎった。しかしそれは前代未聞の攻撃であった。

 普段なら棄却しているアイディアだが、今のアルフには確かに有効な攻撃手段だと直感した。


 僕はナズナに指示を出す。


「ナズナ、行け!」

『やぁ――っ!』


 ナズナがアルフの間合いに飛び込んだ。最下段からの強烈な一撃を振り上げるが、アルフが風のようにふわりと避けた。


「次に、スミレ、ポプラ!」

『ご覚悟、よぉ、のっ――!』

『ヤァ――ッッ!』


 スミレがアンカーの鎖を操って、アルフを捕らえようとする。

 ポプラは多節棍を二節に変形させ、ヌンチャクのようにふりまわした。


 アルフは、スミレの鎖を抜ける。抜けた先にいたポプラがアルフへ襲いかかる。

 鞭以上に変則的なポプラのヌンチャク攻撃に、アルフは戸惑いを見せる。

 しかし、それも一瞬であった。アルフはヌンチャクを避け、槍でポプラごと叩き弾いた。



 幸か不幸か、偶然にもポプラが体を張ったことによって生みだせた隙で、僕は魔法陣を描き、起動させる直前まで完成できていた。


 起動した魔法陣がぬるりと地に落ちる。土片がめくれてアルフへ襲いかかった。

 小柄である人形の身体なら土片は簡単に避けられるが、アルフはそうはいかないだろう。

 土属性に有利なのは風属性である。アルフは風の魔法陣を描き、土片を吹き飛ばそうとしている。


「――読んでたよ」


 魔法を唱えるには、魔法陣を描き、狙いを設定し、魔力を叩き込んで発動させるまでの手順が必要である。

 僕はまんまとアルフの行動を誘導することに成功した。アルフが風魔法を造り、自らの意思で隙を生みだすタイミングを僕は狙っていたのだ。


 アルフが風魔法を唱えている時、僕はアルフの真上にいた。先を見越して、風の魔術で宙へ大ジャンプをしていたのだ。

 僕は土片でアルフの死角に入った瞬間に空へ跳んだため、アルフは僕が跳んだ姿を見ていない。風のマナを土片からの防衛に使っているため、周囲の風は滅茶苦茶になっているだろうから、僕の行動は未来予知されていない。


「はァ――ッッ!」

「――ッ!?」


 上空からのかかと落としをアルフへ見舞う。


 アルフにとってみれば、目の前にいるはずの人物が、いきなり空から奇襲を仕掛けてきたようなものだっただろう。

 アルフが体を反らしてかかと落としを避ける。


「続けて くらえ!」

「ッ!」


 アルフに足払いに見せかけた蹴りのフェイントをかけ、フェイントに使った足を軸にして上段のまわし蹴りを叩きこんだ。急襲だったため、焦っていたアルフは簡単にフェイントにひっかかった。


 アルフは蹴り打たれて体勢を崩した。アルフの視線は足に移っており蹴りを警戒している。


 上半身から攻撃がこないと油断しているようだ。僕はフックのパンチの如くの ひじ打ちでアルフの横顔を殴りつけた。


「ぐぁ、うっ、嘘だろッ!?」

「やぁッッ!」


 帝国学園は戦うことに重きを置いているために、格闘技は学園の必須科目のうちのひとつである。人形を操作するためにこぶしは使えないが、蹴りとひじ打ちは行うことが可能だ。決して、近接攻撃を行えないわけではないのだ。



 攻撃を読まれているなら、読む隙を与えなければいい。

 次第に人形達も加勢にやってくるだろう。うまく僕と人形を合わせて四対一の近接戦へ持ち込むことができた。

 まさかアルフも人形師と近接戦インファイトをするなんて思ってもいなかっただろう。


 アルフは、僕の蹴りに、ひじ打ち、ちょこまかと動く人形達を同時に相手にしなければならず、一撃でも通してしまったならアルフの敗北になる。一回でもアルフを怯ませる攻撃を与えれば、人形達との連携で超連鎖攻撃が決まるからである。


 人形達の連鎖攻撃は一度でも軌道に乗れば止まることを知らない。

 誰かが一撃を与えている隙に、次の人形が威力を溜めた攻撃を繰り出し、そのダメージで怯んでいるうちに次の人形が溜めた攻撃を行い、その人形の攻撃で怯んでいるうちに次の人形の攻撃へと続いていき、理屈的には永久の連鎖攻撃チェーンコンボをしかけることができる。起点はどこからでも良いので、隙が生まれた瞬間に敵の敗北が確定するのだ。


 そして今のアルフは槍を振ることができない。ここまでの近距離になると槍を振るには隙が大きい。槍を振りきる前に、誰かしらの人形達の攻撃が入るだろう。そうなれば連鎖攻撃へ繋がり、アルフの敗北が決定する。


 人形達は確かに弱い。しかし、数こそが強みであると同時に、決定打でもあるのだ。




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