第5話 後日談
「エルナ様、どうかお助けください……!」
朝テラスで紅茶を飲んでいた私のもとへ、宮殿の侍従長が涙目で駆け込んできました。
聞けば、明日は隣国から国賓を迎える大晩餐会だというのに、昨夜の嵐のせいで「庭園と宮殿の廊下」が落ち葉と泥で壊滅的な状態になってるみたいです。
「使用人総出でも開宴までに間に合いません……!」
「まあ、それは大変ですわ」
私はカップを置くと、そっと立ち上がります。
追放された私を温かく迎えてくれたこの宮殿の人々には、感謝してもしきれません。
ここはひとつ、恩返しと参りましょう。
私は広大な庭園と、泥だらけの長廊下に向かって手をかざしました。
『概念改変』発動――
宮殿全体の【泥とホコリ】【しつこい汚れ】……はい消去。
【空気に触れると自動蒸発する光の粒子】に上書き!
シュワァァァ……!
指先を振った瞬間、廊下を埋め尽くしていた泥やホコリが、キラキラとした光の粒となって空中に消えていく。
拭き掃除もしていないのに、大理石の床が新品以上の輝きを取り戻します。
「な、なんですかこれは!? 拭いても取れなかった油汚れまで消えてます!?」
「ついでに庭園の雑草も書き換えておきますわ」
庭園の【引き抜きにくい雑草】を【踏むとほんのりバニラが香る高級芝生】に改変!
庭一面に生い茂っていた雑草が、ふかふかとした芝生に変身し、心地よい甘い香りが風に乗って漂い始めます。
「えっ、芝生から甘い匂いが……!?」
「これで準備はバッチリですわね」
唖然とする侍従長たちを余所に、後ろからやってきたレオンハルト様が、どこか不安そうな眼差しで私を見つめていました。
「君の力はまさに至宝だ……。だがねエルナ、追放したあの愚か者たちのように、私も君に甘えて、君の価値を当たり前だと思ってしまったらどうしようと……実は怖くてたまらないんだ」
「……レオンハルト様が、そんなことをなさるはずありません」
私が迷いなくきっぱりと言うと、彼は困ったように微笑みました。
「自信満々だな。……どうしてそう言い切れるんだい?」
「だって、レオンハルト様は毎日私に『愛している』とおっしゃってくださいますし……私の能力ではなく、私自身を見てくださっていますもの」
ストレートに気持ちを伝えると、レオンハルト様は少しだけ照れた顔で、私に甘く囁きました。
「……そうか。なら、生涯私の側で、私の重すぎる『愛の概念』に押し潰される覚悟をしておきなさい」
「ふふ……はい、喜んで」
……鑑定・改変であらゆる概念を書き換えてきた私。
けれど、この甘い言葉の攻撃だけは「無効」になんてしませんわ−−




