第4話 あなたの存在、もう「無効」にしました
レオンハルト様と過ごす時間は、驚くほど平穏で満ち足りてました。
皇太子の私邸にある優雅なテラスで、最高級の紅茶と上等なお菓子を味わいます。
「疲労」も「ストレス」も存在しない空間で受けるレオンハルト様からの溺愛は、少し照れくさいけれど、とても居心地がよかったです。
「エルナ、来週のパーティのドレスなんだが、君に似合うシルクを仕立てさせている。気に入ってくれるといいのだが」
「レオンハルト様、またそんな大層なものを……私には勿体なすぎますわ」
「何を言う。私の世界で一番大切な女性に、勿体ないものなどあるはずないだろう」
甘い言葉に顔を熱くしていると、ドタバタとテラスの静寂を打ち破る足音が響きます。
「エルナァァァッ!!」
現れたのは、ボロボロの包帯を巻き、泥と血に塗れた無残な姿の男たち――ガロンと元パーティーのメンバーでした。
警備を抜けて狂ったように走り込んできたガロンは、私を見つけるなり、すがるような目で叫びます。
「探したぞエルナ! 頼む、戻ってきてくれ!お前がいないとダンジョンも潜れないし、怪我も治らないんだ!」
「……ガロン」
私が視線を向けると、何か勝手に勘違いしたのか、ニヤリと浅ましい笑みを浮かべます。
「なあエルナ、悪かったよ……お前の能力が本当はすごかったって認めてやるよ! お前を『特別・鑑定士』としてパーティーに再加入させてやるからさ! 今すぐ俺たちの【毒】と【呪い】を消してくれ!」
上から目線の身勝手すぎる復縁要求。
新入りのミリアも後ろで「早くしなさいよっ無能っ!」とギャーギャー喚いてます。
あまりの見苦しさに呆れていると、レオンハルト様が静かに立ち上がり、鋭い眼光で彼らを見下ろしました。
「無礼者どもが。私の愛しいエルナに向かって何たる暴言……万死に値する!」
「ひっ……!? 皇太子……様……!?」
初めて目の前の男がこの国の頂点に立つ皇太子だと気づき、ガタガタと膝を震わせました。
だが、ガロンは往生際悪く叫び続けます。
「待ってください殿下! こいつは俺達パーティーの道具なんですよ! 道具を返してもらうのは当然の権利――」
「今更戻ってきてと言われても困ります」
私は、彼の言葉を静かに遮った。
「な、なんでだ!? 俺が折れてやってるんだぞ!?」
私はゆっくりと立ち上がり……空中に一筆、すっと指先を走らせます。
「……だって私、もうあなたの存在を【無効】にしましたから」
「は……? 無効……!?」
ガロンが首を傾げた、その瞬間……
『概念改変』発動――
世界の認識から【存在価値】および【干渉権限】を『無効』へ変更。
カチリ、と小さな音が鳴る。
次の瞬間、ガロン達が必死に口を動かして何かを叫び始めたが――彼らの声は、一切の『音』としてこちらに届かなくなります。
それどころか、彼らの姿すらも背景の景色に溶け込み、まるで最初から存在しない透明な空気のように認識され始めたのです。
「……ん? エルナ、何か風の音がしたか?」
「いいえ、レオンハルト様。ただの『雑音』が吹き飛ばされていっただけですわ」
ガロンは必死に自分の喉を押さえ、私に向かって手を伸ばすが、私たちの視界にはもう彼らの姿すらまともに映りません。
そこへ、騒ぎを聞きつけた皇室護衛兵たちが駆け込んできます。
「失礼いたしますレオンハルト殿下! ……むっ、そこにいる……?のは!? 皇室敷地への不法侵入および殿下への不敬罪で逮捕する!」
「がはっ!? な、声が出な――っ!?」
声も出せず、反論の機会すら奪われたガロン達は、警備兵たちによって「見えない不審者」として引きずられていきました。
のちに聞いた話では、誰からも存在を認識されなくなった彼らは、ギルドの登録すら「自動抹消」され、二度と冒険者として立ち上がれなくなって破滅したそうです。
◇◇◇♢♢♢♢♢
「……ふふ、すっきりしました」
胸のつかえが取れて微笑む私に、レオンハルト様は後ろからそっと腕を回し、優しく私を抱きしめます。
「よく言ったね、エルナ。君を傷つける存在など、この世にあってはならない」
「レオンハルト様……」
「さあ、私の愛しい鑑定士殿。今日は君のために、新しい『幸せの概念』をたくさん用意してあるんだ。……生涯かけて、私に甘やかされる覚悟はできているかい?」
耳元で囁かれる甘い声に、私の顔は真っ赤に染まってしまいます。
「はい……喜んで」
「歩く計測器」「無能」の役立たず……ではなく、今度は最高に愛されるチート鑑定士として−−
私は皇太子様の手を取り……最高のハッピーエンドへと……一歩を踏み出したのでした♡




