第3話 溺愛される平民鑑定士、ダンジョン本来の殺意
皇太子レオンハルト様に半ば強引に連れられてやってきたのは、王都で一番と名高い超高級レストランの最上階です。
「さあエルナ、遠慮せずに好きなものを頼むといい。この店のメニューは、すべて君の為にあるようなものだ」
「あの、レオンハルト様……私はただの元・平民鑑定士なのですが……」
「関係ない。私の命を救い、心まで奪っていった女性を最高級の料理でもてなすのは当然の権利だ」
目の前に並ぶのは、一生に一度拝めるかどうかという極上料理の数々。
しかも、レオンハルト様は私が座る席に、何やら怪しげな動きを見せていた。
(あっ……今の動き……)
私が何気なく『鑑定』を発動すると、私の座っている豪華なソファに、とんでもない概念が付与されているのが見えます。
【対象:エルナの特別席】
【付与概念:『絶対快適』『疲労無効』『ストレスカット』】
「……あの、レオンハルト様? この椅子、何か変な効果がついていませんか?」
「おや、気づかれたか。君が少しでも快適に過ごせるよう、宮廷魔導師の魔法効果を付けた『快適ソファ』だよ」
私を甘やかすためだけに、最高峰の魔法を惜しげもなく投入している。
今まで「歩く計測器」「無能」と扱われてきた私にとって、この異常なまでの手厚い待遇は少々頭がクラクラした。
「エルナ、君を追放した愚か者たちのことは忘れなさい。君のその『概念を書き換える力』は、一国を傾けるほどの至宝だ。君の価値に気づけなかったのは、単に彼らの目が腐っていたからに過ぎない」
レオンハルト様は紫の瞳を熱っぽく潤ませ、私の手をそっと包む。
「君が望むなら、家も、財産も……この国の地位も用意しよう。だから……私の側にいてくれないか?」
「は、はい……!」(え、ええぇ……距離感が近すぎですよ……!)
冷酷無比と噂される皇太子様のギャップに赤面しつつ、私を真っ当に評価してくれるレオンハルト様に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていました。
◇◇◇♢♢♢
一方その頃――最難関ダンジョン『竜の滝壺』。
「くそっ! なんだってこんなに罠にかかるんだよッ!?」
ガロンは毒矢が突き刺さった脚を押さえながら、悲鳴を上げていました。
いつもなら、ダンジョンの罠など簡単に回避するか、不発に終わっていたはずです。
「ミリア! 早く罠の鑑定をしろっ!」
「だ、だってぇ! 私の鑑定は『レア度』しか分からないんですぅ! 罠の危険度なんて見えませんよぉ〜!」
新しく入った新人鑑定士のミリアが、涙目でパニックを起こして泣き叫びます。
「チッ、使えねぇな! 魔法でゴリ押しする!盾持ち、前に出ろっ!」
「ガ、ガロンさん! 盾が……武器が……!」
仲間が叫ぶ……見れば、頑丈だったはずの防具が、魔物の通常攻撃一発でひび割れ粉々に砕け散っていきます。
今までなら、どんな強力な攻撃を受けても「奇跡的に軽傷」で済んでたはずでした。
だが、今の彼らは違います。
エルナが立ち去る際に解除した【安全】と【幸運】の概念。
それが消えた今、彼らは「素のステータス」と「ダンジョンの本来の殺意」に丸裸で晒されていたのです。
「ガハッ……!? な、なんだってこんな……急に難易度が上がりやがった……!?」
毒を受け、装備をすべて失ったガロンは、激痛の中でハッと目を見開きました。
『今まで皆さんに付与していた【安全】と【幸運】の概念をすべて解除・消去しますね……』
追放した際、エルナが最後に言い残した言葉が、脳裏に響き渡る。
「あ……あいつ……! まさか本当に……俺たちの『運』や『安全性』をコントロールしてやがったのか……!?」
エルナが「歩く計測器」などではなく、自分たちの命を裏で支え続けていた『絶対的な守護者』だったことに、ガロンはここでようやく気づきました。
「探せっ……! 今すぐエルナを探し出せぇぇぇっ!!」
血みどろになりながらダンジョンを這い出たガロン達は、自分たちの破滅を回避するため、狂ったようにエルナの捜索を開始するのでした−−




