第2話 皇太子の呪いを鑑定・改変
パーティーを辞めた私は、ひとまず国境近くの小さな町へと向かいました。
一人なら薬草でも採取してのんびり暮らせばいい。
そう思いながら裏路地を通りかかった……その時でした!
「……うぐっ……はぁ……っ!」
そこには崩れ落ちるように、倒れている一人の男性が……。
上質な騎士服を着ていますが、その全身からはドス黒い異様なモヤが立ち上っています。
(これは……普通の病気じゃないわね)
私は駆け寄り、すぐさま彼に『鑑定』を発動。
すると、私の視界に浮かび上がったステータスは、彼の魂と身体を蝕むドロドロとした文字の塊でした。
【対象:レオンハルト】
【状態:古代の邪神による『絶対死の呪い』】
【詳細:発症から3日以内に全身の細胞が壊死、確実に死亡。解除不可】
「……ひどい。こんな凶悪な概念、初めて見たわ」
呪われた男性――レオンハルトと呼ばれた彼は、掠れた息で私を見上げます。
苦痛に歪む顔でも隠しきれない、息をのむほど整った美しい顔立ち。氷のような銀髪と、澄んだ紫の瞳。
「逃げろ……お嬢さん……。この呪いは……触れた者すら侵す……」
「じっとしていてください。今、消しますから」
「は……? 消す……!?」
私は空中に指先を走らせます。
私の視界にだけ見えている【絶対死の呪い】という漆黒の文字。
それに指先を重ね、まるでペンで文字を書き換えるように、一筆で上書きする。
【絶対死の呪い】……はい、消去。【軽度の肩こり】に改変!
シュウゥゥゥ……!
指先から放たれた光が文字を塗り替えた瞬間、レオンハルトの身体を覆っていた禍々しい黒煙が、一瞬で霧散しました。
「な……っ!?」
レオンハルトが目を見開きます。
荒かった息が一瞬で整い、顔に血色が戻っていきます。
彼は信じられないといった様子で自分の手を見つめ、勢いよく立ち上がりました。
「呪いが……消えた……? 国内最高の聖女すら『解呪不能』と投げ出した邪神の呪いだぞ!? 一体どんな神聖魔法を……!?」
「魔法ではありませんわ。ちょっと『概念』を書き換えて、ただの肩こりに変えただけです」
「概念を……書き換えた……!?」
レオンハルトは絶句していました。
世界を揺るがすチート能力だと知られれば面倒なので、私はサッとその場を立ち去ろうとします。
「それでは、お体にお気をつけて」
「待ってくれっ!」
私の腕をガシッと掴まれました。
振り返ると、先ほどまで死にかけていたはずの彼が、紫の瞳を輝かせ私を凝視しています。
「私の名はレオンハルト・ルーン・グランドール。この国の皇太子だ」
「えっ……? 皇太子様……!?」
「命の恩人よ、名前を教えてくれ。……いや、名前だけでは足りない。君ほどの至宝を、なぜこんな路地裏に一人で歩かせている? 護衛は?専属の騎士団はどこだ!?」
「ええと、私はついさっき無能だとパーティーを追放されたばかりの……ただの鑑定士でして……」
「追放!? 神のごとき力を持つ君を、追放する愚か者が存在するのか!?」
レオンハルト皇太子は激しい憤怒を見せたかと思うと、次の瞬間、私の両手を優しく、けれど絶対に逃がさない強固な力で包み込みます。
「決めた、君を私の宮殿へ誘おう! 私の命だけでなく、心まで奪っていった愛しい鑑定士殿……君のその素晴らしい才能と美しさを、私が全力で守り、生涯甘やかしてみせる!」
「は、はい……!? 甘やかす……!?」
出会って数分。
不治の呪いを消した皇太子様から、なんだか『愛の概念』が溢れ出しているのを、私は冷や汗を流しながら見ていました−−




