表現者への演奏家7
「そーちゃん」
「Σ( ̄。 ̄ノ)ノ」
「^ ^」
「Σ(゜д゜lll)」
おもしろすぎる...。
でも、
「つまんないです。」
「あ...ごめん。」
「これみて。」
「うん。」
私が見せたのはネットニュースのエンタメ情報。
事務所に新しく入った子の特集だった。
「みてくださ〜い。
天才歌姫誕生!その奇跡の歌声の秘密に迫る!っですって〜^ ^」
「うん。」
「ねえこれ、先生が教えてる子ですよね??」
「そうだね。」
なんだ全然悪びれる様子もないな。
まあ...それもそうか。
「プロデューサーはまた別の人ですね。」
「彼もとても若い人だよ。
斬新で素敵な曲と演出を手がける人でね。
彼女とはとても相性が良いと思ってたんだ。」
「へー、斬新ねえ...。」
「それにイケメンだよね、彼。」
「え?今どきの子ってこういう顔が好みなんですかね?」
「君は絶賛今どきの子でしょう?
でも好みも勿論絶賛、多様性の時代だからね。」
うわぁ...なんか先生から1番ききたくない言葉が出た気がする。
ダイバーシティとか、表面だけ言いまくって常識にしてる大人とかもう、きらいだ^ ^
多様性の広がりは押しつけの多様化でもあることを大人は忘れてはいけないとおもう。
私はため息をついた。
それに彼はかわいた笑いをこぼした。
まあ...それならまだいいんだ。
「でも先生だって歳あまり変わらないでしょ?」
「んーまあ。でも一応成人したから。」
え...。
本当に思ったより歳離れてないじゃん...。
「ほら、小学校1年生から見る6年生って、すごくお兄さんお姉さんに見えない?
俺から見る彼はまさにそんな感じなんだ。」
「見えますけど、今ここでは小学校1年生から見る3年生ってことですか?先生。」
「んーまあ。でも一応大人だから。」
...え、おそろしい...。
少なくとも20代半ば差し掛かるくらいかと思ってたのに。
「え、もしかして老けたかな。」
「なわけないじゃないですか。」
「でもね、もう制限行為能力者じゃなくなったんだ。
法律行為は自分でできるようになったんだよ。」
だからそれがおそろしいんだって。
成人して急に先生になるって何?
これ、バイトではないらしいし。
「昔だとそんなに珍しい話でもないよ。
15にもなれば成人、20代入れば大概は家を立派に継いだあとなので、その後誰かに教えを授ける先生になるのはそんなに不思議ではないね。
30代にもなれば、老後はどうしていこうかなって考えてもおかしくはない歳らしい。」
「それ...流石にいつの時代の話ですか?」
「だって、今は家を継ぐっていう一大イベントはほぼないもの。だから先生が多少前になっても仕方はない。」
「先輩。」
「はい。」
いずれにせよ。
「私には才能ってものはないんでしょうかね。」
「君は天才だよ。」
「それなら、私が売れないアイドルやってるのはどうしてなんでしょうか。」
「アイドルは嫌なの?」
「アイドルって、元は偶像崇拝っていう意味らしいです。」
「なるほど。でも、それであればこそ良しとする人もいるんだよ。
それに、ここらの文化人たちはね、それはとてもとても寛容なのさ。」
文化人って、オタクのことでしょうか...。
「アイドルはね、今は偶像崇拝というわけではなく、全てを良しとして受け入れることなんだ。
だから別に、歌が上手なアイドルがいたって、もちろん良いわけなんだ。」
「でも歌手は歌が上手いです。そういうものです。アイドルはむしろ全てを良しとして受け入れろっていうことです。だから何にも成れてないのと一緒。」
「きみはそうおもうんだね。わかいうちだしそれもいいさ。」
...また彼のつまんないところがでてる。
別に全てを受け入れろって言ってるわけじゃないのに。
「でもね、君はそんなことを言っても何でも器用にこなしてるんだ。歌も踊りも、挨拶やファンサービスもね。
それだけで、君の中の君の理屈は筋が通っていないわけなんだよ。
こんなにいつもニコニコとして可愛らしい子を、アイドルとして使わないわけがないじゃないか。」
「...それは先輩がわたしの表面をみてそう思ってるだけで。」
「きみね、気づいてないけど事務所のなかでもダントツ。評価がとても高いんだよ。
単純にね、何でもできる君をどうにかして使ってあげたいと思ってるからこそなんだよ。きみはまだとても若いから色んな経験をさせてあげたいって。
だから、いつか歌だけ極めたいと言えば、誰も反対する人なんていない。」
...まあたしかに、急ぎすぎてるって自覚はなくはない。
下積みをしろってことだろう。
でも。対応がどっちかに偏ってるなら彼の言い分はまだ分かる。
実際、事務所からは無関心かもしくは少しだけ塩対応寄り...逆に相手側は営業独特の微甘っていう...いかにも量産系アイドルに対しての対応しかされてない。
それに比べ、新しく入ってきた子は明らかに優遇措置が施されていた。
「私のほうが...歌上手いと思います。」
「そうだね間違いなし。」
「ねえ、先生のピアノさえあればそのこと伝わりますか。」
「それも間違いなしだね。」
「じゃあ先生は...私以外の子に教えたの?
ピアノ(ちから)のこと。」
「...。」
先輩は目を丸くすると、微笑んだ。
いや...なぜか思わず笑ってしまったって顔してる。
「ごめん、さっきまでのはちょっと勘違いしてたみたいだ。おれはなんだか無駄なことを言ったね。」
「いいえ...。」
「きみ、本当は自分が上手く売れないことに悩んでいるわけじゃなかったんだね。」
...あ...。
私、最後に余計なこと言って当然のように見透かされたんだ。
いやだ...はずかしい...。
「なにニヤニヤしてるんですかっ」
「ニコニコだよ」
「とりあえず時間ないんでレッスンちゃんとやってください」
「はーい」
先輩は上機嫌でまた古風な音楽を奏で始めた。
「今日はね、小節のおべんきょう。」
民謡か。
演歌や民謡は意外とよく幼い頃から、年寄りが集まる小さな宴会でおぼえ、歌わされた記憶がある。
...。
れいちゃん、このおうたもうおぼえたの?すごいわねぇ。
じゃほらほら、ここで、うたってうたって。
いいねぇ、うたひめのおでましってもんだっ。
ありがとう。れいこちゃんは、とってもうたがじょうずねえ。
...。
、
「いいね、とてもじょうずだ。」
「...ちがう...これ...。」
「ううん、小節というのは感情の繊細な揺れ動き。
だから泣きながら歌うのも、わるくない。」
これはどっちかといえば、しゃくり...?
間奏で穏やかな曲調に戻ったあと、また。
今度は、ちゃんと歌える。
...そう。
私がなんで歌手になりたいと思ったのか、おもいだした。
それは、今認めたくないことだったけど。
とても単純な理由だった。
彼は、わたしに改めてその意味がとても素敵なものだといってくれたのだった。
こんなに大胆に肯定されると、良い気分になるから好きなんじゃないか。
そう思ったけど、いずれにせよ。
彼は女心というものも分かっていたようだ。
こんなこと...きみいがいにみせるわけないじゃない。
きみにしかおしえていないことがある。
かれはそのことをおしえてくれた。




